11.名誉魔導士と不穏な会議
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「ええと……このメモから察するに、イオリさんは見たり、魔力を感じたりするのがだいぶ苦手ということでよろしいでしょうか?」
今すぐこの場から逃げ出したい依織にとっては結構な長い時間。けれど、実際はそう長くもない時間ナーシルは考え込んでた。
そうしてまずは現状を確認される。情報共有のための会議でもあったはずなのに、議題をかっさらってしまって大変申し訳ない気持ちになった。
「う、うん」
自分にも魔力があることはわかるし、それを行使することも可能だ。けれど、どれもこれもピンとこない。例えば、ナーシルは依織が規格外の魔力の持ち主だと言うけれど、ナーシルと自分の魔力の大きさの違いが未だにわからなかった。
その他にも、ナーシルが魔法の実演をしてくれたときも「魔法はこういう使い方があるのだな」という理解はできても、魔力の動きに関してはサッパリだった。
「なるほど。だから物凄く進みが悪かったんですね。魔力をうまく感じ取れないのなら当然そうなります」
「そもそも、彼女が魔法を扱えるというのが間違いなのでは?」
年嵩の魔法部隊委員から、そんな指摘がとんできた。年齢を重ねている人ほど「魔力を感じられない大魔術師」なんて存在がいるとは思えないのだろう。
「いえ、彼女は実際に魔力を使っています。かなり規格外ではありますが……」
「そうであれば、何か魔法を見せてもらってもいいですか? 塩関連以外で」
ナーシルがフォローをしてくれるも、彼は意見を引っ込める気はないらしい。やはりポッと出の平民に名誉職とはいえ魔法関係の職務を与えるのは良くなかったのでは。
彼を見る限り、本職のプライドを刺激してしまった様に思える。
「何故一番得意な魔法を除外する?」
イースが不服そうに声を上げた。ちょっと眼光が鋭く、顔が怖い気がする。しかし、彼はそんなイースの様子をものともせず、なんなら挑発するかのように付け加えた。
「彼女が発した魔法なのか、そのスライムの仕業なのか判断がつきにくいかと思いましてね。特にあなたのような魔法が使えない者や私のような未熟者には紛らわしいですから」
未熟者というけれど、彼はナーシルと共に調査しにきている魔法のプロフェッショナルなはずだ。十中八九嫌味なのだと思う。どうしてそんな風に敵対的に接されるのかがわからなくて、依織は萎縮してしまう。
「えっ……でも、あの……」
唐突に振られて困る。塩以外だとすると、加減がとても難しいのだ。
水魔法はこの地域で使うのはあまり好ましくないだろうし、上手く加減ができなければ会議室を水浸しにしてしまう。
火魔法であれば天井を焦がしそうだし、風魔法は室内で竜巻を起こしそうだ。
(こんな人に見られてる状況で絶対加減なんてできない!!)
依織は自分の緊張しいな性格及びコミュ障を嫌というほどわかっていた。こんなに人に見られている状況で落ち着いて正確に魔力を扱うことなんてできっこない。しかも一番使い慣れていて、なんならこっそりシロに加減を任せられそうな塩魔法を禁じられている状況下である。無理ふぃーちゃりんぐ無理。
「やはり偽の魔女だから、魔法などできないのではないですか? 砂嵐が逸れたというのも単なる偶然だった、という可能性も考えられますね」
「いえ、それはありません。僕が保証します。それとも、僕の証言だけでは不十分だと?」
「先程からイオリ殿に失礼だぞ、ナウマ」
依織に当たりが強い彼はナウマと言うらしい。ナーシルとイースしか彼に抗議できないあたり、地位はそこそこ上なのかもしれない。
「それは失礼いたしました。ですが、この様子を見ていてもやはり彼女が魔法を使えるとは到底思えません。魔法が使えるのであれば、この程度のことを見せるだけでも私は黙りますのに」
彼は言いながら掌の上に小さな火の玉を作って見せた。それはすぐに手品のようにフッと消えさった。恐らく、きちんと魔法が使える人であれば、今のを再現することもそう難しいことではないのだろう。ただし、依織には少々難しく感じられた。
(ま、魔力の流れとやらがさっぱりわかんない……。なんか今のふわっとしたヤツ? が、そうなのかな? でも間違ってたら危ないし、そもそも火魔法とか暴走したら危なくない!?)
火遊びをしてはいけない。これは現代日本人として過ごしてきた依織にしみついている感覚だ。万が一加減を間違ったらこの部屋全部を炎上させてしまうかもしれないし。
では、安全な魔法はなんだろう。
水魔法はこの土地に相応しくない、という話を既にナーシルから聞いている。加減を間違えて貴重な水を無駄遣いするのは避けたい。
錬金術は安全な気がするが、何を分解、あるいは生成するかという問題がある。水差しの水を分解してもいいけれど、水が水素と酸素になったところで「で?」という反応になりそうだ。最悪こちらも水の無駄遣いと言われかねない――
「イオリさん、今何に悩んでますか?」
「ひえっ!?」
どうしようどうしようとグルグル悩んでいたところに、ナーシルがひょいと顔を覗き込んできた。近い。途端に考えていた内容が爆散してしまった。イケメンの破壊力は本当に恐ろしいものだ。
「え、えと、あの。しっぱい、しても、ひがいすくない、やつ」
大変なカタコトである。死のオアシスで初めて出会った時を彷彿させるような見事なカタコトだ。だが、一応それでナーシルは意を汲んでくれたらしい。こと魔法になると、察しはとても良いらしい。
「あぁ、なるほど。この部屋全部燃やされてもかまいたちで切り裂かれても大変ですもんね。塩水持ってきてもらって、それをいつも通り分解とかでもいいんですけど……ソルトスライムがいるってだけで言いがかりつけられても面倒ですよね。絶対誰一人真似できやしないんですけれど、ちょっと地味でインパクトに欠けますかね~」
ナーシルの塩水分解という提案にそれだ、と頭の中で電球を光らせる。漫画チックな表現だが、まさにそれだと思ったのだ。人のためになるし、効果も分かりやすい。のだが、当のナーシルから却下を食らってしまった。地味でもいいじゃないかとは思うのだが。
(あ……電球? 光なら、いける? LED電球なら熱くならないだろうし、魔力の加減上手くできなくてもめっちゃ眩しいだけなら害にはならないよね。ちょっとの間目がくらんで見えなくなるだけで……普段使いの電球で失明とかってないよね、ないよ)
全国の魔法を使えるよい子は決して真似しないように。魔力を使って光を創り出せても直視はしないこと。強い光を直視した場合、最悪失明に至る可能性があるよ。
さっきの火魔法を見習って、掌の上に光を灯すイメージをする。なんとなく、魔力が零れ落ちたら困るので、両手を器のような形に。そこに、LED電球があって、電気ではなく魔力を動力として光る想像をした。
「イオリさん? っうわぁ!?」
唐突に何かをし始めた依織を不審に思ったナーシルが声をかけてきた。それとほぼ同時に依織の掌が眩しく光りだした。正確には、依織のイメージ通り、掌のちょっと上のあたりの空間にまるで電球があるかのように発光している。が、その光の強さは電球の比ではない。
初めてやってみる魔法。人が注目している環境。なんだかピリピリとした好意的とは思えない空気。
どれもこれも依織が苦手とするものだ。魔力がきちんと制御できたらむしろ奇跡なレベルである。
ただ、依織のLED電球というイメージチョイスが間違っていなかったのが幸いした。馬鹿みたいに眩しいだけで、全く熱くない。どのくらい眩しいかというと、後にイースが遠い目をしながら「部屋の中に太陽が降臨したようだった」とイザークに報告したとかなんとか。
とりあえず、依織自身もめちゃくちゃ眩しかった。
「わ、わわ……」
慌てて脳内の電球スイッチをオフにする。もちろん、イメージの上で。
すると、部屋中を眩しく照らしていた光は跡形もなく消えた。
(これは……大成功って言っていいよね!? ちょっと眩しかったけど、周りに被害もない上にすごく派手でわかりやすかったはず。やった!)
よっしゃ、と心の中でガッツポーズをとる。脳内のトリさんもいい笑顔(?)でサムズアップをあげてくれている。
その勢いで「頑張りました」とばかりに周囲を見ると、何故か微妙な顔を向けられていた。
「……ひえ」
依織の口から思わず声が漏れ出た。
(私知ってる。これ、前世の小説とかで見たやつだ。『私、また何かやっちゃいましたか?』ってやつだ!)
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