10.名誉魔導士とゴーレム対策会議
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「さて、では会議を始めよう」
イースの一声から『ゴーレム対策会議』なるものは始まった。
場所は軍の駐屯地の会議室。お偉いさんも視察にくるこの鉱山では、それなりに立派な施設がそろっていた。この会議室もその一つである。今回の会議に参加しているのはざっと20人程なのだが、この倍くらいの人数も余裕で収容できそうだ。
時刻はちょうど昼食後で、お腹が満ちてちょっぴり眠い頃合いである。
だが、依織にとっては決戦の場でもあった。そのせいで先程食べたばかりの昼食の内容を覚えていない。それどころか食べたという記憶すら曖昧だ。
そんな状況下であっても、コミュ障にだってやらねばならぬ時がある。戦場に向かう覚悟をキメてこの場にいるのだ。ただし、シロという保護者付きだが。彼の癒しパワーがなければ絶対に乗り切れない。なんなら今もずっと触れていたいくらいだ。会議ということで足元で待機して貰っているが、今すぐ撫でまわしたい欲求と脳内バトルを繰り広げている。
そんな依織の目的は、会議の中で持参したメモを渡すことだ。
メモの内容は
・自分に求められている内容は魔力追跡で合っているか
・魔力追跡なのであれば、魔力追跡のやり方を口頭と書面の両方で教えてほしい
・魔力追跡なのであれば、一人で練習する時間がほしい
・魔力追跡以外を求められるのであれば、別途情報を整理する時間がほしい。
この四点である。
興奮したナーシルが与えてきた膨大な情報の中から『魔力追跡』なるものが自分に求められているのではないか、という推測はしてきた。なので、そこを起点に要求を伝える。もし推測自体が間違っていたとしても、この内容であれば依織が理解するまでに時間が貰えるはずだ。ナーシルが大暴走しない限りは、という注釈がつくけれど。
(で、でもいつ渡せば!?)
問題はここである。
下手したらナーシルが開幕からぶっとばし、イケメンのキラキラしさ×オタク特有の早口でノックアウトされてしまうかもしれない。
それではだめだ。
折角のメモの存在が無駄になってしまう。その上、暫く戸惑ったまま動けなくなってしまうことが目に見えるようだ。であれば、まだナーシルが動き出していない今が好機。
(ゆ、ユウキだして! ガンバレ、ワタシ!)
やるならば今。本題に入ってしまう前だ。
邪魔するのは「話の腰を折って迷惑をかけないか」「変なヤツと思われないか」そんなマイナスの気持ち。前世から持ち続けている根深いモノではあるけれど、それでも、この世界に転生して少しはマシになったはずだ。
「あ、あの! えと、これ……」
紙を両手で持って、オロオロと差し出す。すると、その場の全員の目がこちらに向いた。想定の範囲内である。が、それが耐えられるかというと、別問題だったらしい。
必死に意気込んで、自分を奮い立たせた依織だったが、続けるはずの言葉がぶっ飛んだ。結果、紙を差し出したまま固まってしまったのである。
「…………」
その場が沈黙に包まれる。依織が何か言葉を続けるのだろうと待っている面々と、緊張から言葉が飛び、二の句が告げなくなった依織。ハクハクと口を動かしてどうにか現状を打開しようとするが、すっかりパニックになった頭は上手く再起動してくれなかった。
「その紙は見てもいいのか?」
「イオリさーん、失礼しますねー?」
フリーズした依織を見て動いたのはイースとナーシルだった。
特にナーシルはさっさと次の段階に進みたいという熱意があったのかもしれない。依織が持っていたメモをさっと取り上げて目を通し始める。そのことに周囲が咎めた方がいいのでは、という目線を向けるがものともしない。というか、目に入っていない。これでこそナーシルだという安心感と、ちょっとした尊敬の念が芽生える。
(見習いたいかは別として、これくらい人の目を気にしなければ色々と楽なんだろうなぁ)
ともかく、どうにかメモは渡せたのでホッと胸を撫でおろしながら着席する。
「えーと何々? 『自分に求められている内容は魔力追跡で合っているか』 あ、そう! まさにそうなんですよ、イオリさん! っていうのもですね、今この鉱山では――」
「待てナーシル。まず最後までメモを読み上げてくれ。まだ何か書いてあっただろう」
「あ、そうでした。すみません」
イースの冷静なツッコミの手を借りつつ、どうにかこうにかコトを成し遂げられた。あとはもうノープランだ。
(が、がんばった……よね?)
満点からは程遠いけれど、今までを考えれば十分及第点なはずだ。というか、皆の前で発言した上に、目的であるメモを渡せただけでもういいと思う。
あまりの精神的疲弊に手が勝手に癒しを求めて、シロをむにむにと揉み始める。シロは心得ていたのか、依織が着席した時点で膝に飛び乗ってくれていた。
「魔力追跡のやり方を……書面で!? えっ……!?」
「?」
ナーシルは物凄く驚いている。何かおかしなことを書いただろうか。
「……魔法のやり方を、文章にって……誰かできます?」
周囲の魔法部隊を見やるナーシル。だが、彼らは一様に難しい顔をしていた。
「したことはありませんね。したところで役に立つのか、という問題が……」
「魔法を使う感覚って皆違うんじゃないんですか?」
「その、歩き方って習わないじゃないですか。そういう感覚と言いますか」
「皆、魔法は見て覚えてた……?」
この世界の魔法を、神様からの書物で学んだ依織としては驚き桃の木山椒の木情報だ。魔法を教える、教わるといった概念がないのかもしれない。ある意味で職人芸といってもいい。背中を見て覚えて、技術を盗め、とかそういう雰囲気を感じる。
「あぁ、そう、そうです! そんな感じです。できる人のを見て、同じようにやるというか、魔力を感じるというか……。でもなるほど、言語化して画一化できれば魔法を使える人は増えるかもしれない?」
ナーシル自身は言語化することに前向き、というか、他にも魔法が使える人間が増える可能性に興味を持っているようだ。
「どうでしょう? 画一化するには個々の感覚によるものが大きい気がします。例えば今回追跡魔法を使ってゴーレムを探ったときも反応は様々でしたから」
「……私はあまり気が進みません。そもそも、見て魔力を感じて真似られないのであれば才能はない」
一方、周囲の魔法部隊の人は難色を示している。年若い隊員は言語化しても伝わらないのではないかと疑問に思い、年嵩の隊員はキッパリと拒否した。
が、それを聞いて焦ったのは依織である。
「え゛っ」
依織はナーシルに魔法を実演されて、さぁやってみてくださいと振られたことが何度かあった。そしてそのほとんどが失敗に終わっている。だからこそ、今回の文章作戦を思いついたのだ。が、依織自身に才能がないのであれば話が変わってくる。
先日王様から貰ったどえらい称号は、返品した方がいいのではないだろうか。クーリングオフ制度はこの世界になさそうだけれど。
(ど、どうしよう。意図したわけではないけど私詐欺しちゃった!? 王様相手に!? あああどうしよう、捕まっちゃう!?)
「今までの常識ではそうでしたけど、イオリさんはその常識を覆しちゃうんですよね。だって僕は彼女の魔法を未だに真似できませんから。逆もまた然りですけれど。さて、うーん……どうしたものか」
己の拳を顎にあてて、真剣な表情で考え込むナーシル。
「ナーシル様でも再現不可能? まさかそんなことが……」
「にわかには信じられん……」
そして、ナーシルが何気なく放った言葉は周囲に少なからず動揺を与えたようだ。現在、国一番の魔術師であるとされているナーシル。その彼が再現できないと断言する魔法を扱う依織。尊敬と畏怖と、それから信じられないモノを見る目が交錯する。
とにもかくにも、今すぐ逃げ出したくなる依織だった。
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