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08.名誉魔導士と鉱山のゴーレム

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昨日は大変申し訳ありませんでした!!


 トリさんから手紙を受け取ったあと、誰に声をかけていいかもわからず途方にくれていた依織を見つけたのはイースだった。その後、宿へと案内してもらい、無事手紙を読むことができた。

 手紙は実は二種類同封されており、一つは依織宛のもの。もう一つはイース宛の軍に関するものだった。

 イース宛の方はそのまま渡したので、内容はわからない。ただ、イースが額に手を当てて深いため息を吐いている姿を目撃してしまった。もしかして何かしらの無茶ぶりだろうか、と思ってしまう。何もできないとは思うけど、頑張って欲しい。

 依織宛の手紙は普段の文通とさして変わらない内容だった。これから行く鉱山の町の簡単な説明や、名物、それからその土地でよく食べられている料理のこと。

 そして、その結びに


『ラスジャを含めた部下達全員に、過労で倒れない程度に頑張ってもらっているよ。実は王に頼んで少し人員を増やしてもらったんだ。だからその分早く仕事が片付きそう。トラブルがなければ俺も鉱山に向かうよ』


 と書かれていた。


(行けそうにないって言ってたのに結局大丈夫になったの? 何人増えたんだろう? というか、本当に無理してないのかな?)


 本当に無理をしていないのか、大変疑わしい。依織に真実を確かめる術はないので、どうすることもできないけれど。

 その後、イザークが追いつくためか、それとも何かトラブルがあったのか。町にはもう1日滞在することになった。タダ飯食らいとなるのも心苦しいので、オアシスの補強を手伝ったり、試験的に塩の壁を建設して過ごした。

 そうやって過ごす間に、少し発見があった。


(やりたいことを紙に書いて渡すの、すごくいいかも。家に戻ったら紙作りまたやろうかな。軽くて持ち運びしやすいメモ帳作りしたいな。あ、メモ帳カバーとかも作ったら可愛いかも。それよりも先に、持ち運びを考えたペンの改良が先かな)


 まず、いきなり話しかけるよりも、メモを渡す方が依織にとってはハードルが低かったこと。前世ではメールのやりとりが人付き合いの主流だったせいもあるかもしれない。それと同じ感覚で伝えたいことを紙に書いて見せるのは、文章を考えて話しかけるよりも随分と気持ちが楽だった。

 ただし、問題もある。

 前世であればスマホで簡単にメモができたし、手帳だって持ち歩けた。だが、今世ではそうもいかない。紙は前世に比べれば重く、質が悪い。ペンもインクを浸して書くタイプなので持ち歩くには不向きだ。

 思いついたものを片っ端から試作したい、と今は思っているけれど、せっかく良いアイデアが閃いたとしてもメモができない。いつまで覚えていられるだろうかという不安もある。何か大事件でもあれば忘れてしまいそうだ。

 このあたりを改善できればいいのだけれど。

 そんなことを考えつつ、鉱山への旅は続く。


「ちょっと、涼しい、かも?」


 移動中の馬車の中、ふと思ったことが口から出てきた。地図上では南下しているのだが、だんだんと過ごしやすい気温になってきている気がするのだ。

 確かに周囲は塩の砂ばかりではなく、ゴロゴロとした岩も見える。よーく見れば枯れているような草も確認できた。このあたりから土地や気候が変化しているのかもしれない。


「鉱山が近くなってきた証拠だ。鉱山の方は少し高度が高くなっているので王都よりは涼しい」


 依織の独り言に答えてくれたのはイースだ。


「……涼しい方が、暮らしやすい、のでは?」


「それはそうだ。だが、初代様が切り拓いた土地を出ることに抵抗がある民が多い。それと……鉱山の方は何故か相性が悪い人間がいるようだ」


「相性、ですか?」


 前世でも「水が合わない」と言った単語は聞いたことがある。ここは砂漠だから水ではなく「砂が合わない」とでも表現するのだろうか。ちょっと想像できないけれど。


「あくまで噂だが、鉱山には恐ろしい魔物が眠っていて、その波動に敏感なものが恐れをなす、らしい」


「おそろしいまもの……マンティコアみたいな?」


 マンティコアはとても恐ろしかった。主に、人面が。

 一瞬脅えた様子を見せた依織を気遣ってか、イースがすぐに訂正する。


「いや、あくまで噂だ。誰もその姿を確認したことはないから安心していい。もしも先日のマンティコアが鉱山から発生していた場合、真っ先に標的となっていたのは南側の町のはずだ。発生源が鉱山であるとは少々考えにくい」


「あ、うん。大丈夫、です。喋らないなら、どんな魔物でも、頑張るので」


「あまり張り切られるとそれはそれでイザーク様が、な。ほどほどで頼む」


 沈痛な面持ちでイースがため息を吐く。そういえば手紙を受け取ったときも、なんというか憂鬱そうな表情をしていた。


(……鉱山の話持ってきたのイザークなのに、イースには無茶させるな、とか言ったのかなぁ。やっぱり働くって大変だ)


「そもそも、まだ調査段階らしい。鉱山の町へ着けば詳しい報告が受けられるかもしれないが……」


「そういえば、異変、としか聞いてなかったかも」


「なるほど。では、現時点でわかっていることについて話そうか」


 イースは前方を見据えたまま話し始めた。

 鉱山で最初に起きた異変は、とある酔っ払い鉱夫の一言から発覚したらしい。何者かの気配があり、掘ったはずの鉱石が足りない気がする、と。

 最初は酔いが冷めていなかったのだろうとか、幸せな夢でも見ていたのだろうということで片付けられた。だが、そんな報告を上げるのが一人から二人、そして複数人へと増えていった。

 最初に疑われたのは当然ながら魔物の存在だ。

 ただ、鉱石を狙う魔物、となると特定が難しい。もしそんな魔物がいたのであればもっと早い段階から問題になっていたはずだ。

 坑道を掘りすぎて、ドワーフの国とでも繋がったのかという話になったがこれも違う。鉱石があればドワーフがいる、と言われているが少なくともこの国での目撃例はない。それに、ドワーフはそれなりに偏屈な種族である。自分達の腕に自信がある彼らが人間が掘った鉱石をコソ泥するのは考えにくいとのこと。

 ではゴーストの類の悪戯かとも噂されたが、実体のないゴーストと鉱石の相性が悪いということでこの可能性も一応否定された。


「で、原因はわからない感じ、です?」


「それが、ゴーレムを見た、と言う人間が現れたのだ」


「ゴーレム……」


 依織の頭の中で、岩でできた人形のような物体がコミカルに踊りだした。


(う、うーん。ダメだ、前世のデフォルメされた可愛い姿しか想像できない。異変って言われるくらいだからもっと怖い感じだよね。魔物図鑑とかあるなら今度見せて貰った方がいいかも……)


 うまく想像できない依織の様子を見てとったイースが説明を付け加えてくれた。


「俺もあまり詳しくはないが……ようは、命を持たぬもの人形のようなものだと思ってくれればいい。だが、問題なのはその形状ではなく、誰がそれを作ったか、ということなのだ」


「自然にゴーレムはできない? 見たことある、気がする」


 死のオアシスに住んでいた頃。散歩先でノシノシと歩く岩を見かけたことがある。恐らくあれがゴーレムと呼ばれるものだと思う。


「イオリ殿が見たとするなら、それは西にあると言われる遺跡からはぐれたモノだろう」


「……遺跡、あったんだ」


「あぁ。とても古いものだとは言われているが、なにぶんそこの調査に国力を割くことは難しい。自主的に調べに行く者も少ないな。何せ立地が悪すぎる上に、ゴーレム自体も手ごわい」


「ゴーレムは、強いです?」


 実は依織は戦ったことがない。その時は、ゴーレムがこちらを襲うような素振りを見せなかったのでそっとスルーしたのだ。


「ゴーレムを倒す方法は、修復不能なダメージを与えるか、術者との繋がりを断ち切るかの二択と言われている。ただ、目撃情報が正しければ鉱山のゴーレムはストーンゴーレムらしくてな」


「岩……あぁ、物理攻撃が効かなさそう」


「そういうことだ。なにより、術者がいるのであればいくら倒してもまた作られ同じことが起こる。そのためナーシル達が解析をしている。……現地に着いて何か進展が聞ければよいのだが」


 恐らくはその解析というものが難航しているのだろう。当然ながら、依織は魔法の解析なんてものはできる気がしない。


(でも、岩、よね? 岩なら錬金術で分解したりできそう。動けないくらいバラバラに……いっそ砂まで分解しちゃえば人を襲ったりできないだろうし。うん、そっち方面なら役に立てるかも)


 ガタゴトと音を立てる馬車の中、依織は岩の分解方法について考え込む。馬車の向かう先には既に大きな鉱山が見えていた。



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