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07.名誉魔導士と魔術師の噂

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更新は毎週金曜20時予定です~。


 束の間の自由時間。といっても行軍中なので、もっぱら体を休めるために使う時間だ。

 実際さっきまでは依織もきちんと休んでいた。いや、休んでいたというか、破裂しそうなお腹をなだめていたというか。

 ここまでの移動中はラクダを操るわけでもなく馬車に座っていただけ。戦闘はあったけれど、たったの一度。消耗といえるほどのことはしていない。

 だから、数時間ぐっすり眠っただけでだいたい回復できたと思う。

 それよりも、依織が気になっているのは食事の時に出てきた名前のことだ。少し前までの依織であれば、首をつっこもうとは考えなかったと思う。いや、思ったかもしれないが、思うだけで実行に移すことはなかったと断言できる。何故なら、コミュ障だから。

 別に、今だってコミュ障が治ったわけではない。人と話すことは依然として苦手なままだ。迂闊なことを言って嫌われるのはやっぱり怖い。

 でも、この世界の、少なくともこの国の人達は依織が不用意な発言をしてしまったとしてもいきなり蛇蝎の如く嫌うことはないのかも、と思えるようになってきていた。なんだかんだで流されているなぁと思いつつも、今までやってきたことが、ほんの少しだけ依織の自信の礎となっていた。


(話の流れ的に魔法使いの人、よね。協力してくれたら、今回の件が楽になるんじゃないかな)


 もし、何かできることがあるのであれば、という気持ちはある。けれど、依織は魔力はあっても魔法の知識がないのだ。ナーシルに基礎の基礎から教えてもらっているものの、どうにも理解が遅い。

 ナーシルの魔法情報の海に溺れてしまっている、という感じだ。


(ちょっとだけ頑張ってみよう。で、だめならすぐ撤退しよう)


 そう思いながらメモをしたためる。

 幸いなことに、休憩室として与えられた部屋に紙とペンがあったのだ。それに聞きたいことをメモして、見てもらう。これが今回の作戦である。

 喋れなくても質問はできる。完璧な作戦だ。

 意気込んでシロとともに部屋を出る。

 そして数分後、依織は早くもくじけそうになっていた。


(イース以外の人に話を聞けたらいいな、とか思ってたけど、皆それどころじゃなさそう)


 部屋を出て、特にあてもなく歩きながらキョロキョロと辺りを見回す。だが、当然ながら暇そうな人はどこにもいなかった。


(みんな任務で来てるんだから、それぞれ仕事があるの当たり前だよね。ムリな気がしてきた)


 数分粘ってみたが、声をかけるタイミングがわからない。エーヴァという人物のことを知らなくてもなんとかなるかもしれないし、と自分に言い聞かせながら部屋に戻ろうとしたとき、とある人物が声をかけてくれた。


「魔女様、何かお困りですか?」


「あ、馬車の……」


 声をかけてくれたのは、馬車で一緒になった二人のうちの一人だ。歳が若い方で確か名前は……。


「ザリ、さん?」


「はい、そうです。覚えててくださって光栄ですよ」


 奇跡的に合っていたようでホッと胸を撫で下ろす。快挙達成、コングラッチュレーション。脳内で拍手喝采だ。何せ依織は人の顔と名前を覚えることも不得手なので。

 既に何事かを成し遂げたような気になってしまうが、これはまだスタート地点だ。

 グッと意気込んでメモを渡す。


「えっ紙!? あ、メモですか? これを僕に読めってことでしょうか?」


 コクコクと勢いよく頷くと、ザリは多少不思議そうな顔をしつつも受け取ってくれた。本当にこの国の人は優しい。


「えーとなになに? ……エーヴァ様について知りたいってこと、ですか?」


 メモを読んだザリは明らかに動揺していた。その名前をどこで、と言いたげである。そんな彼の反応に依織は一瞬怯みそうになる。よくわからないけれど、気を悪くしてしまったのでは、と。

 今までの依織であれば、人様からこんな反応をされた場合速攻で「変なことを聞いてごめんなさい、なんでもないです」などと言って逃げ出していただろう。しかし、今回はどうにか踏みとどまって、一度頷いた。足が竦むし、冷や汗が止まらない。それでも、喋らなくてすむというのは依織にとって大きなアドバンテージになった。

 ザリはそんな依織の反応を見て、少し悩んだ素振りを見せる。


「……なるべく、客観的な話をしたいんですが、偏ってしまうのはご容赦ください」


 最終的に、そんな前置きをしてから彼は語ってくれた。


「エーヴァ様は、ナーシル様の前の魔法の第一人者と呼ばれていた人です。ですが、あるとき軍を離れてしまいました。それから消息不明となっています」


「消息不明……」


 だからイースが報告を受けて驚いていたのか。それにしても、過去にとはいえ国一番の使い手の称号を持っていた人物がこのあたりにいるとしたら大変心強いことだ。


「あ、あの。もし、そんな人がいて、その……力を借りられたら、助かります、よね?」


「えーーーーと、それは、どうでしょう……」


「?」


「これ以上は自分の口からはなんとも……。先入観とかあってもアレですし。ただ、魔法にはほんと詳しい人だと断言できます。それでは魔女様失礼いたしますね」


 仕事が忙しかったのか、それともこれ以上エーヴァという人物について語りたくなかったのか。ザリは一礼してその場を去っていった。


「あ、ありがとう」


 よくわからないが、協力を得るのは難しいようだ。少なくともコミュ障の依織が出しゃばってなんとかなりそうな雰囲気は感じられない。少々残念に思いつつも、去っていく彼に慌てて礼を言う。どうにか聞こえるようにお礼を言えたので依織にしては上出来だ。が、そんなことよりも気になるのは今までの彼とは違う塩対応加減だ。


(わ、私が嫌われたとかも、あるかも、だけど……ないと思いたい。私じゃなくて、エーヴァって人に何かあるのかな?)


 と、そこへ兵士の一人が走ってこちらへ来るのが見えた。


「あ、魔女様! 良かった! すみません、あのガルーダが襲来、じゃなかった、えーと、来てて! すみません、ちょっと鎮めに行ってもらえませんか!?」


「!? は、はい!」


「こちらです!」


 促されるままに、宿の外へと出ていく。相変わらず外は暑い。ジワリと浮かぶ汗を自覚しながら進むと、そこには見慣れたトリさんの姿があった。

 それとともに、それなりの人だかりも。一応遠巻きにはしているし、軍の人たちがなだめてくれているのが見えた。大変申し訳無く感じる。


「あっ、わわ、ど、どうすれば……」


「一応パニックになるのは免れていますが、民衆は少々怖がるかもしれません。できればガルーダには早めに戻ってもらえるように説得してもらえませんか?」


「ひ、ひゃい」


 なんだか人々の視線がこちらに突き刺さっているように感じる。パッと見で異国の人間とわかる肌の色をしているので当然といえば当然なのだが、たくさんの視線にはやはり慣れない。

 大変申し訳無いが、話題の主であるトリさんを盾にするしかないようだ。

 転ばぬように気をつけながら走って近づいていく。 


「トリさん、お疲れ様。早速お手紙頼まれたの?」


「ギョエッ!!」


 問いかければいつも通りの元気な鳴き声を返してくれた。イザークに使われるのがよほどいやなのか、表情はかなり不服そうである。


「たくさんお肉もらえた?」


「……ギョエ」


「もらえたなら、よかった。じゃあ手紙取らせてもらうね」


 トリさんの足には依織御手製のリボンがついている。そして今回は反対の足に手紙がくくりつけられていた。

 結び目をほどいて手紙をゲットする。


「ありがとうね」


「ギョエッ」


「で、トリさん、あの……すごく、目立っちゃってるから……早めの撤収を……」


「ギョエエ!?」


「ひょえっ」


 依織の提案が不服だったのか、突然大きく鳴き出すトリさん。威嚇されても依織はそこまで怖くはないが、大きな声はやはりびっくりしてしまう。

 なお、今の一声で集まっていた人だかりの半数は思い切り後ろに下がって警戒していたりする。


「あぁ、せっかくはるばる来てくれたのにごめんね。でも、あの、ヒトが怖がっちゃうから……」


 どう説明したものかと思案する。トリさんにしてみれば人々が怖がろうと知ったこっちゃないとは思うのだが。

 オロオロしていると、依織の後ろをついてきていたシロが突然飛び跳ねた。一度依織の肩を足場にしたあと、トリさんの上に飛び乗る。


「シロ? 説得してくれてる?」


 この二匹の魔物は仲良し(あくまで依織目線)かつ、どうやら意思疎通ができているらしい。ここはシロに任せるべきと依織は口をつぐむ。


(シロがんばって〜。あぁ、それにしても、人の目が痛い、怖い)


 人々がどこまで事情を知っているのかはわからないが、ともかく衆目に晒されるのは依織にとって恐怖でしかない。大きなトリさんの影に隠れるように立ってはいるものの、全方位から身を隠せるわけではないのだ。

 シロはたまにポヨポヨと跳ねながら。そして、トリさんは不服そうな唸り声をあげながら。それでも、どうにか話はついたようで、トリさんの上から依織の頭の上へとシロが移動してきた。


「ギョェ」


「お手紙ありがとう。またねトリさん。おうちのこと、よろしくお願いします」


「ギョエエ!」


 シロとのやりとりと依織の感謝の言葉で、トリさんの機嫌はそれなりに上向いたらしい。元気にいつものサムズアップをして飛び去っていった。


「シロも説得ありがとう」


 頭の上のシロへ話しかけると、ポヨポヨと揺れる気配がした。大変癒やしである。


「えっと、とりあえず宿に戻ってお手紙読まないと……。宿って、どっち?」


 今まで自覚はなかったが、依織はコミュ障なだけではなく方向音痴も患っていたのかもしれない。宿の方角がさっぱりわからないのだ。人任せでここまで来たコミュ障は、果たして無事帰還できるのだろうか。

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