06.名誉魔導士と新たな町
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中継地点のスタラの町に到着したのはお昼頃。
ジリジリと全てを灼きつける日光から逃げるように、本日の宿へと向かう。宿への道中、表にはほとんど人がいなかったが、石造りの屋内はそれなりに賑わっていた。やはり、あの日光の下での活動は難しいようだ。
(いっそ地下に住んでしまえば……あ、砂漠だからそもそも地下を作る方が難しいか。うーん。日光しんどいよね)
サラサラの砂をいくら掘り起こしたとしても、掘った端から崩れ落ちてしまうだろう。そんな場所で地下に居住空間を作るのは無理がある。
だから人々は極力昼間の一番暑い時間帯を避けて屋内で活動しているか、それとも昼間に寝て朝や夕方から働くか、なのだ。この町では後者もそれなりに多いと聞いた。
「道中お疲れ様でした。まずは食事をとりにいきましょうか」
「あ、はい」
移動中軽い携帯食を貰ったので正直十分なのだが、促されると断れない。こういうところから徐々に直していければいいな、と思いつつ返事をしてしまったものはしょうがない。案内されるがまま宿が経営している食堂へと移動する。
ちなみに携帯食は、軍では非常に不人気なんだそうな。手軽に栄養がとれ、保存が利くようにと工夫されているため、味や食感が二の次になっているのだ。特に水が貴重な砂漠の移動中に、口の中の水分を持っていくのは如何なものかと度々議論になっていたりする。が、現状これ以上に携帯に向いている食事がないのも事実。今のところ改善の予定はないらしい。アイデアや資源がない、とも言う。
そして、食に頓着しない依織はこの携帯食に特に不満を抱かなかった。どころか『これ少量でお腹いっぱいになっていいな』とすら思っていたりする。後にその話をイザークにして過保護が発動するのはまた別の話だ。
「今後の予定だが、日が沈むまでは基本、自由時間だ。何か気になることがあれば随行するが、できれば部屋で休み、体力を温存してほしい。日が沈めばまた移動となる」
イースに今後のスケジュールを聞きながら食事をとる。
食事は軍の人達とお揃いで、豆のスープにパン。それからヤギ肉の焼き物。依織にとっては十分すぎる量だが、食べ盛りの兵士だと足りないのではないだろうか。そんなことを考えていたら、兵士達は次々とおかわりをしに行った。ちょっと安心する光景である。
「特に、あの、用事ない、ので」
正直に言えば観光はしてみたい。
初めて訪れた町というのはやはりテンションがあがるものだ。その町の特産品から何かしらのインスピレーションを貰うこともあるだろう。それが今後のハンドメイド作品にも生かされるかもしれない。
が、そんなワクワクした気持ちを上回るのが、随行という言葉だ。
要するに、不案内な依織を一人歩きさせるわけにはいかない、と言われてしまっているのだ。ついてきてくれること自体はとても有難いことである。が、誰かに迷惑をかけるくらいなら黙っている方がマシだ。
それにこれからも移動は続くのだからイースの言う通り休憩に充てる方が無難だろう。
今回の件が解決した帰りであれば、時間的余裕があるかもしれないし。
「そう言ってくれるとこちらも助かる」
その後イースは部下の人達と懇談していた。といっても、これからの細かい予定だったり、合流後どういった動きになるかの確認がメインだったけれど。
そんな様子を見るとはなしに見ていると、部屋の外から一人の兵士さんが戻ってくるのが見えた。確か町に到着した時点で何人かが各種の連絡をしにいったはずだ。その人なのだろう。
「戻りました。ガルーダ襲来の件もきちんと伝えてきましたよ」
彼は今回も隊長任務を請け負っているイースの元へ来て報告をする。少し気安い雰囲気があるので、イースとは長い付き合いなのかもしれない。
想定していたよりも多い食事量に四苦八苦していると、どうしても彼らの会話が耳に入ってきてしまう。
「襲来ではないだろう」
「町の人間にとっちゃ襲来で間違いないでしょう。何せガルーダですからね。王都の連中が麻痺してきてるだけですよ」
「……否定はしない。自分も理由がわからなければ警戒していた」
苦笑しながら応えるイース。それに関しては依織としても大変申し訳なく思っている。
が、イザークのたっての頼みだったから仕方ないではないか。
(トリさんなら人間に怖がられたら鼻高くして得意げになりそう。……そういうところばっかり見てるからちょっと可愛いなぁってなるんだよね)
本人ならぬ本鳥にバレたら威嚇されるだろうから絶対口にはできない。が、その姿を想像してちょっと笑いそうになる。
「まぁガルーダ関連はそれで終わりですね。来てしまった場合、まぁどうしても多少の混乱はあるでしょう」
「それは致し方ない。先に声をかけているだけマシだろう」
「あぁ。それとは別件でもう一つ。お前さんに知らせとくべき話がある」
「なんだ、もったいぶって」
兵士さんの口調が変わった。完全にプライベートな事柄なのだろう。別に聞きたいわけではないが、どうしても聞こえてきてしまう。かといって、ここでわざとらしく耳をふさぐ方がおかしい気がした。
なので、せめて『自分は食事に夢中ですよ』といったポーズをとる。おかげで持て余してた食事をどうにか消化することができた。お腹ははち切れそうだけど。
「ちょっと前に、ここを通った人間がいる」
「それは、いるだろうな」
もっともだ。ここから先は鉱山しかないと聞いているが、その鉱山がこの国の収入源なのだから人やモノは頻繁に行きかうだろう。
けれど、わざわざ報告してくるのだから、何か理由があるはずだ。
「その男は、この辺じゃちょっと珍しい薄い色の髪を後ろで一つに束ねており、くそ暑い中ローブを着てたんだと」
「……」
イースの雰囲気が、少し硬くなった気がした。
もしかして、思い当たる人物がいるのだろうか。
「帯刀していない代わりに、大きめの杖持ち。年の頃は、俺達と同年代に見えた、だとさ」
推測するに、魔法を扱う人物なのだろうか。依織は食事をするフリも忘れて聞き入ってしまう。
「どこに向かった?」
「南という話だ」
「それは……」
南と言えば、これから依織達が向かう鉱山がある方向だ。
「魔女様を引っ張り出すくらいの鉱山の異常事態と、アイツらしい人物の影。別に結び付けたいわけじゃないが、少なくとも可能性は考慮しておくべきだ」
「あいつが……エーヴァが関わっているとでも?」
イースの声に微かな怒気が混じる。
(……エーヴァ、さん? うわわ、なんか雰囲気険悪? こわい!!)
人名らしきものを耳がキャッチしたが、それどころではない。誰かが怒っている空気は、とても怖い。
「そうは言っていない。俺もそんなこと思いたくはないさ。だが、情報があれば俺らの行動も変わる。隊長サマが『知らなかった』は通じないだろ」
「……それはそうだ。覚えておく」
彼らの会話はそこで終わった。去り際の兵士さんから、意味深に微笑まれた、気がする。
(もしかして聞かせたかった、とか? か、考えすぎかな。でもな……そんな高度なコミュニケーションを私に求めないでー! 伝えたいことがあったらお手紙くださいー! そうしたら少しは頑張れるからー!!)
そんな依織の心の叫びは誰かに届くわけもなく。
積極的に聞き耳を立てるつもりは全くなかったけれど、結果として盗み聞き状態だった依織。そこから更に詳しい話を聞くことは、当然ながらできなかった。また、頑張って食べすぎたため、はち切れそうなお腹を抱えての休憩となってしまったのである。
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