04.名誉魔導士の出立
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モロモロの手配が終わり、依織は一夜城で出発の準備を整えていた。
これから南の鉱山へと向かうにあたっての最終チェックという段階である。荷物やら部隊編成やらは依織にはさっぱりわからない。
しかしながら、依織にしかできない最重要任務はあったりする。それは目の前のトリさんのご機嫌とりだ。
「それじゃあ、トリさんいってくるね……。機嫌悪い?」
「ギョエ……ギィ……」
イオリの目の前にはムスーーっとしたトリさん。ちなみに、腕の中には魅惑のプルプルボディのシロがいる。癒し。
トリさんは、ガルーダという種族の大きな鳥型魔物だ。
彼は王宮でお仕事漬けになるイザークと、これから南の鉱山に旅立つ依織の連絡係となってくれる。予定である。たぶん、おそらく。
(伝わってるとは思うんだけどな……。この世界に伝書鳩があるのかはわかんないけど、やっぱり大きな鳥なのに鳩の代わりにされるのはプライドが許さないんだろうか)
トリさんを拝み倒してお願いし、イザーク達からも「美味しいお肉」を提供してもらえることも伝えた。
あと、シロとも何か意思疎通を図ってたように思う。
あの二匹が会話らしきものをしている様はまさに癒し、という感じだ。何気にシロの方が立場が強いというのも加点ポイントである。そんなこんなでシロもトリさんの説得に参加してくれたお陰か、渋々承諾してくれた。
が、それはそれとして納得はいかないらしく大変な不機嫌顔である。
(鳥類なのに表情がわかりやすいって結構すごいことなのでは……)
「ギョェエ」
なんだかおかしくてクスリと笑うと、トリさんも雰囲気を和らげてくれた。しょうがないなこの小娘は、と言ったところだろうか。
「面倒をかけますが、よろしくお願いします」
「ギョエ!」
丁寧にお辞儀をすればふんぞり返って一声鳴いてくれた。一応納得してくれたのだと思う。
「準備ができたようで何よりだ」
トリさんとのやり取りが一段落したところで、後ろから低いイケボがふってきた。緊張さえしていなければ、この声を間違えることはない。
「イースさん、よろしくお願いします」
振り返って、一応相手の顔を確認して一礼する。
予想通り声をかけてくれたのはイースだった。イザークやラスジャのようなキラキラまぶしいイケメンタイプではなく、寡黙でいぶし銀タイプの彼は軍の結構えらい人、らしい。が、最近では依織専属の護衛のようなポジションになってきてる気がする。
今回も例に漏れず、イースが依織の護衛兼御者役を務めてくれることになった。依織が唯一慣れている相手というだけで振り回してしまうのは申し訳ない気持ちになる。
(……あ、まって。よろしくお願いしますって言うより先に準備できましたってちゃんと返事するべきだった!? ああああ、私ってこれだからほんと……)
なお、イースに結構慣れた、といってもこういうミス(当人が思い込んでいる)は未だにやらかす。そして、やらかしたら暫くは引きずる。コミュ障が治る日は果たしてくるのだろうか。反語。
「あぁ、よろしく頼む」
イースを含めたこちらの大部分の人達は、依織がこうやって自分のコミュ障に打ちひしがれていてもほっといてくれる。これが、だいぶ救いだ。
例外は、王宮で一時期ついてくれていた侍女さん達だろうか。悪気はないとわかってはいるものの、めちゃくちゃ世話を焼かれてしまい、とても消耗した。
彼女達も仕事だから仕方ないとは思うのだが、四六時中見張られているような生活は依織には耐えられない。あれで普通に生活している王宮の人達は神経がオリハルコンで出来てるのかもしれないと半ば本気で思う。
「あの、がんばり、ます。魔物倒すの、とか」
正直、どうあがいても旅の間楽しくおしゃべりなんて無理だ。イースだって依織にそんなことは求めてないだろう。
だからこそ、今の自分にできることをしっかりやろうと思う。
「そう気負わずに」
イースはそう言ってくれたものの、シロだってやる気満々だ。この日のために、というわけではないだろうけれども、しっかりと塩を補充してきている。腕の中のポヨポヨボディには信じられない量の塩が詰まっている。それなのに重くはないのでとても不思議だ。
(……ウォータースライムとかいたらこの国の水不足一気に解消するんじゃないかなぁ。スライム水……あ、なんか飲みたくはないかも)
「皆、準備は整ったな?」
そんなことを考えているとイースの渋い声が響いた。出発の準備が整ったようだ。
「あぁよかった。間に合った」
「あ、イザーク、と、ラスジャも」
さぁ乗り込むぞ、と言った段階でイザーク達が文字通り駆けつけてきた。王宮では走ってはいけないという決まりはないのか、それとも高位な彼らは見逃してもらえるのか。
ちょっぴり不思議には思うものの、突っ込むスキルは依織にはない。
「やぁ、体調は万全かな? イオリには移動に次ぐ移動で本当に申し訳ない」
「間一髪、間に合いましたね~。まぁ俺らもあんまり時間ないですけど」
「まぁな。でも見送りくらいはしたいじゃないか。イオリ、いつも大変なことを押し付けてすまない」
今日も今日とてお仕事に追われていたらしい二人。郊外にある依織の家に来るという時間的ロスができてしまった分が余計に心配である。
「いえ……。あの、おうちと、トリさん、よろしくお願いします」
色々迷ったけれど、結局「家を見張っている人がいるかもしれない」という話はしなかった。する機会、時間がもてなかったということもあるし、そもそも自分の気のせいな可能性も十分にある。
不確定な情報で忙しいイザークの手を煩わせるのは気が引けてしまったのだ。
その代わりというわけではないけれど、トリさんのことの他に、家のことも見てほしい、と伝えてある。これで万が一があったとしてもギリギリカバーできる、かもしれない。
「うん、任せて。織ってる途中の布とか台無しにされたら物凄い損失だものね」
「え、えぇと……」
確かに途中の作品を台無しにされたら悲しいが、それはまた作ればいい話だ。だが、それを口にしてしまうと「じゃあどうして家もよろしくと言ったの?」という話の流れになるかもしれない。それは、まずい。
「ガ、ガンバリマス」
結局無難な返事はこうなる。頑張る、とはつくづく便利な言葉だ。
前向きに聞こえるし汎用性が高い。
「あー……えっと、あんまり頑張らなくて大丈夫だよ。万全の状態で向かってもらえるように、出来る限りの準備は整えたつもり。道中の魔物だってこの前みたくひっきりなしに出てくることはないだろうし」
「え、でも……」
「なんて言えばいいかなぁ……。イオリは頑張るの限度を知らないっていうか、やりすぎちゃうところあるじゃない?」
「そ、そんなことは……」
「報告を聞いてる限り、魔力切れ起こしたらしいけれど?」
「うっ……」
思わずイースの方を向いたが、彼からはそっと目線を逸らされてしまった。確かに彼の立場上、イザークに報告しないわけにもいかないことはわかる。それでもちょっと手加減して報告するとか、手心を加えるとか。
「ナーシルが帰ってきたら本格的に魔法の授業を組んでもらった方が良さそうだ」
「まぁ……基本ッスからね。魔力切れを起こさないっていうのは。あんま得意じゃない俺でも知ってるというか、そもそも魔力切れを起こしそうになったらなんか……『あ、そろそろやばい』とか『なんか良くなさそう』っていう感覚あると思うんですけど……」
「うう……」
できることならば、ナーシルが教師役はやめてもらいたい。悪い人ではないのだが、相性が悪すぎる。
教えるよりも依織の魔法を解明したいが故に質問責めにしてくるナーシルとコミュ障の相性が良いわけがない。
「魔法の教師役、か……」
旅立ち前のにぎやかなひと時に、ポツリとイースが呟いた言葉を聞いていたのは、たまたま近くにいたトリさんだけだった。
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