03.名誉魔導士と恋人(仮)
毎週金曜日20時更新予定です。
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「行くのは、大丈夫、ですよ?」
「え、ほんとに!?」
「意外……って言ったら失礼ですかね?」
二人とも断られると思ってたのか、かなり驚かれてしまった。確かにいつもの依織なら最初は渋っていただろうと思う。
しかし今の状況を鑑みるに、この話にのるのは依織にとって悪くはなかった。
これは流されているわけではない、はずだ。たぶん。
「ただ、あの、この家とか、トリさんとか……」
離れている間に家を荒らされるのも嫌だし、最近入り浸りなトリさんにきちんと事情を話したい。特にトリさんはちゃんと言い聞かせておかないとトラブルの元になりかねない。
そんなことを伝えたいのだが、セリフを準備していないのでこの体たらくである。
以前と比べてうっかり貝にならなかっただけ進歩、なはずだ。
「あぁそうだね。そのあたりはきちんと手配しておくよ」
「トリさんについてはイオリさんから伝えてもらった方がいいッスよね。俺らまだ友達になれてないですもん。あ、イースさんはかろうじて話聞いてもらえそうですけど」
なお、進歩しているのは依織だけではない。依織と関わる人物達は、その拙い言葉を理解する能力が進歩している気がする。
話に出てきたイースとはこのクウォルフ国の軍人さんで、最近は依織の塩抜き任務の専属護衛になってきている気がする人物である。あまり口数が多くないため、依織にとってはまだ接しやすいタイプだ。無理に話さなくていいのが最高にイイ。
「トリさん、今も屋上にいるかも、だから。お話、します」
「それは是非お願いしたい。実はイオリが一夜城を空ける間、早馬の連絡係を此処に来させようと思っていたんだ。で、その連絡係が運んできた手紙を、トリさんに君のところへ運んでもらうというのはどうだろうか?」
「トリさんに、ですか?」
ようするに、伝書鳩ならぬ伝書ガルーダということだ。なんともまぁ贅沢なガルーダの使い方だ。
しかしそれはそれで、プライドの高いトリさんが納得するか少々不安である。
「……頼み方、次第?」
「イオリさんが頼む以外に、なんか効果的な方法ってありますかね? 何の肉が好き、とか。っていうか餌で釣れるんスかね、トリさんって」
ラスジャの言葉に依織は頭をひねって考える。そういえばトリさんの好みなどはあまりわかってなかったように思う。
「ほめると、喜ぶ?」
喜ぶというか、鼻高々になるというか。調子にのるというか。
とりあえずそんな可愛い面があるのは確かだ。
「なるほど。腰を低くして平身低頭頼み込むのがいい、と。連絡係にちゃんと伝えとくッス」
「え、でも……やってくれるかは……」
「そこはどうにかイオリからも頼み込んで貰えないだろうか。というのも、今回俺は同行できそうにないんだ。できたにしても、あとから遅れて行く形になると思う」
「マンティコア騒動にどうしても首突っ込みたいってやった結果、仕事が詰まりに詰まっちゃったんスよねぇ」
本当に困った困った、とわざとらしいジェスチャーをつけてラスジャが暴露する。予測はしていたが、やはりイザークは今回も無茶をしたようだ。
「その件に関しては覚悟してやったのだから後悔していない。実際城に残っていたところでイオリが心配で仕事が手につかなかっただろうからね」
「いやそれはほんと反省してくださいよ。主に俺とか振り回された部下に対して。特別報酬お待ちしてるッスよ」
じとりとした目でラスジャがイザークを見る。
上の人間が色々やってしまったら、その下の人達が大変になるのはそりゃあ当然のことだ。以前王様もなかなか破天荒だと聞いたことがあるし、もしかして血は争えないのかもしれない。
「えぇと、あの、皆さん無理、しないで。その、体調崩したら、大変」
前世の自分を思い出して、余計かもと思いつつ口を開く。体調は大事とか、無理というのはいつまでも続かないぞその内破綻するぞ、と色々言いたい気持ちはある。気持ちだけ。実際に言葉にするのは難しい。
ただ、イザークにだけは依織は転生してここにいる、と伝えている。どうして死んでしまったかあたりは言わなかったけれど、それでもいつもより喋る依織に何か感じ取ってくれたのだろう。ちょっと申し訳なさそうな表情になった。
「あ~……。うん、無理はしないし、させないようにするよ。心配しないで」
「え~と……が、がんばって?」
「ありがとう。でも仕事を片付ける前に憂いを取り除きたいんだ。今回ついていけない分、きっちりと諸々の手筈を整えたい。だから、なんとしてもトリさんに頼んでみてほしい。そりゃもちろん俺からも頼むつもりだけれど……どうも俺は彼に嫌われているみたいだから」
イザークは苦笑してそう言った。
確かに、依織の保護者であると自負しているトリさんは、未だイザークの存在を認めていないフシがある。そして、そのトリさんの気持ちをきちんと理解できているのは、神様から依織のお守りを依頼されたシロだけ。そしてそのシロもまた人間との対話はできない。
依織の保護者達の苦労は今後も続きそうである。
「え、えぇ?」
もっとも当の被保護者である依織はそのあたりの事情は全く気付いておらず、意外とばかりに素っ頓狂な声をあげた。
依織にしてみれば今回ばかりは自分からも望んで行くようなものである。
(正直今回の話って「渡りに船」っていうか……。そんなに過保護にされても……)
と、戸惑う依織の手が突然引きよせられ、なんだか温いものに包まれた。思わず自分の手を見ると、そこには誰かさんの手が重ねられている。
こんなことをするのは一人しかいない。イザークだ。
「頼む、イオリ。俺は君が心配で仕方ないんだ」
「……っ!?!?!??!!」
キラキラしい顔面の暴力ここに極まれり。
その上、筋金入りのコミュ障に対して手を握るという荒業を加えてくる容赦のなさである。依織は悲鳴をあげることすらできず、石化デバフをまともに食らってしまった。失神しなかっただけマシだと思いたいところである。
石化しているはずなのに顔も体も熱くて今にも火が出そうだ。火だけじゃなく手汗とか、涙とかも出てくるかもしれない。
「もちろんトリさんにも出来る限りのフォローをしたいと考えているよ。十分な食糧補給もするし、彼と共にこの一夜城の安全を確保したいという旨はきちんと伝えるつもりだ。だが、やはり俺からの説得だけでは彼は頷いてくれないと思うんだ」
「俺からもお願いしたいッスね~。イオリさんの無事さえ確保されていれば俺を含めた不幸な部下が減ると思うんスよ~。どうか俺らのことを救うと思って!」
ラスジャにも畳みかけられて退路がない。というか後半の彼らのセリフは焦りすぎて上手く聞き取れなかった。ただただ、現状から逃げ出したくて依織は勢いよく頭を縦にふる。
「わかっ……、わかった!!」
「本当? ありがとう。じゃあ早速トリさんを説得しにいこうか」
こうして、依織の鉱山視察は決定したのだった。
(私、また流されちゃった……? でも、あの圧を増したキラッキラの顔面に勝てる方法って、なくない!?)
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