31.魔女と祝い事
このお話にて2章完結です。暫く充電期間をいただきまして、3章の方も更新していければなと思います。漫画ともどもよろしくお願いいたします~!
「ドウシテ……」
某月某日。
砂漠は今日も雲一つない快晴。ジリジリと身を焼きにくる太陽が少し陰った、まだ明るさの残る時間帯。
依織はこの日も死んだ目をして、イザークに付き添われていた。片手をイザークに預け、もう片方の手は放してなるものかとシロを抱きしめている。シロが今の依織の精神的命綱だ。
「やっぱお祝い事はねぇ、主役がいないとねぇ」
本日もイザークはキラキラしている。
が、服装は王族として慶事に出るには少々地味だ。地味だけど質の良さはバリバリに主張するその刺繍、あとで詳しく見せていただきたい。それとも刺繍ではなく布の織り方から何か秘密があるのだろうか。
ともかく、イザークは比較すると地味だ。何と比較したかと言えば、依織の衣装とである。
「ドウシテ……」
依織の白い肌に合わせた肌触りの良い白の布。その上を色鮮やかな糸が縦横無尽に走り、緻密な模様を描いて華やかさをプラスしている。この国の女性の正装は肌を露出するものが多いのだが、それだけは頼み込んでやめていただいた。色んな意味で無理すぎる。
頼み込んでやめてもらえるのであれば、この式典自体参加したくなかったのだが、そうは問屋が卸さないらしい。悲しい。
「だって、伝説の魔物を討伐した勇気ある功労者たちを称えなきゃ国のメンツが、ね?」
ね? の破壊力がすさまじい。なんでその一言と共にキラキラが飛んでくるのか。頼むから顔面をしまっていただきたい。
「イースたちだけで十分じゃ……」
「彼らだけだと塩で固めて倒したっていう現状と齟齬が生まれちゃうんだよね。民に全くの嘘を発表するのは流石にまずいから。それにウダカの町であんなに派手な塩の壁作ったわけだし」
「証拠隠滅は、大事だった……」
確かに当時はとにかく必死で、力を隠すとか、出し惜しみするなんていうことはできなかった。馬鹿でかいものを作ってしまったという自覚はあるし、あれは確かに自分以外には無理だろう。
「隠滅だなんてとんでもない。そのうち観光名所になったりしてね」
「ひからびちゃうから、やめよう……」
ついでに式典もやめよう。そうは思うが、やめるわけにいかないのはわかっている。
伝説の魔物が出ました。そのせいで普段は現れない魔物が群れをなして街道を脅かしました。そんな襲い来る魔物とともに、伝説の魔物も退治しちゃいました。なんていう一連のビッグニュースの顛末を隠してしまったら、国民が不審に思ってしまうのは当然だ。
自分が担ぎだされてしまうという現実に泣きたくなるだけで。
「トリさんは免除なのに……」
担ぎ出すというのなら、マンティコアを真っ二つにしたトリさんがいなければ始まらないだろうに。
そんな依織の思考を知ってか知らずか。イザークは聞き分けのない子に言い聞かせるように話す。そんな子供ではないというか。前世から考えれば齢うん十年になってしまうわけで。いい年して駄々をこねている自分が大変恥ずかしくなる。
が、それはそれとしてイヤなものはイヤだ。
「流石にトリさんが民衆の前に姿を現すとパニックになるかも、と思ってね。あと言うこと聞いてもらえるか若干心配だし」
今回は依織だけではなくトリさんとシロもなんとかという勲章を貰えるらしい。とはいえ、魔物の二人にホイッと手渡しても失くすか壊すか。ということで、依織の手に託されることになった。暫くは一夜城に飾っておく予定だ。
「シロも式典には参加してくれるから、まだ心強いでしょ?」
「それは、そうだけど……」
依織は腕の中のシロをぎゅうと抱きしめる。いつもながらのスベスベ具合とちょっとひんやりな触感に少しだけ癒される。
今回のことで、依織とシロとトリさんは正式にこの国の国民だと認められ、国民にも周知されるらしい。ウダカの町を救った話は、既に結構な誇張をされて噂になっていると聞いた。シロもトリさんも魔物ではあるのだが、好意的に受け止められているらしい。
「遠慮なく受け取ってよ。名誉王宮魔導士って役職」
「……うぅ」
いらない、とまでは言えない。この役職に就けばクウォルフ国民としての権利を得られる上に、英雄としての働きによって免税までされるらしいので。
なんだかんだ言っても、この国における今の環境はありがたいのだ。
だがしかし、いらないオマケがボロボロとくっついてきている気がするのは気のせいではないと思う。
「今後イオリたち専用の部屋、というか屋敷も王宮内に建設予定だから期待しててね」
イザークはキラキラを振りまきながらそんなことを言う。
なんでも、トリさんがいつでも遊びにこれて、お肉を貰える場所らしい。グルヤに貰った肉をかなり気に入っていたトリさんにとってはこの上ないご褒美だろう。
だが、依織にとっては友達が質に取られているように感じてしまう部分があったりする。
「不安?」
聞かれて思い切り頷く。すると、イザークにはおかしそうに笑われた。こっちはかなり切実なのに。
「まずね、名誉職だから働け! とかは言わないから安心していいよ。ただ……某魔法オタクの突撃だけはちょっと止められないんだけど」
「ううう……」
「まぁ魔法研究に少しのご協力ってことで、そのあたりはよろしく」
「う゛ー……」
「そんなに嫌がらなくても……。それに、生活自体はあまり変わらないと思うよ? 好きなものを作りつつ、たまに俺やナーシルが訪ねてきたり、塩抜きのお願いされたり」
「……ほんとに?」
「というか、そんなに大事件が何度も起きられても困るよ。俺も穏やかに生きたい。復興もまだ残ってるしね」
(……これを人はフラグと呼ぶのでは?)
今依織がそう口にしてしまうと本当になりそうで、言葉を飲み込んだ。
依織のコミュ障なりの気遣いである。流石のイザークもそれに気付くことはなく、いつも通りのキラキラを遠慮なくぶつけてきた。キラキラぶつけ罪とかも新役職と一緒に新たに作ってはくれないだろうか。
「まぁそんなわけで、魔女様これからも末永くよろしくお願いします」
「善処シマス……」
とりあえず、この式典を失神せずに乗り切ろう。そう心に刻む。
その結果がどうなったかというのは、関係者全員に箝口令が敷かれたことでお察しいただけるかと思う。
砂漠は今日も変わらず快晴だ。
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