7.コミュ障と王都までの道
「うちの国の特徴はそんな感じですかねぇ。ところでイオリさん、尻痛くないです?
ラクダ乗りなれてないですよね?」
「ヘ、ヘイキです…」
今依織はラスジャという青年にしがみつきながらラクダに乗っている。自分なんかが人様にしがみつくなんて申し訳なさすぎて無理、と思っていた。今でも結構思っている。迷惑をかけて本当に申し訳ない。だが、砂漠の歩きにくさは十分わかっているつもりだ。日が沈んだ夜に30分くらい散歩をしただけで、依織の息はかなりあがってしまっていた。さすが引きこもりのひ弱な現代人がベースなだけある。歩くのが大変な分、体力作りという点においては適していたが。
ともかく、王都まではラクダを走らせて二日だ。
その距離を自分の足で歩こうとは到底思えなかった。そのため、依織は今にも逃げ出したい気持ちを必死に抑えて一行の後ろにかわるがわる乗せてもらっている。最初は何故かイザークが自分の後ろでいいよ、と言ってくれたが、それは隊長の反対にあった。ずっと同じラクダに二人を乗せた場合、そのラクダが疲弊してしまうからだ、と。
砂漠では砂嵐や、巨大アリ地獄のようなモンスターが出ないとも限らない。そういった時にラクダが疲弊していては助かる者も助からない。そのため、疲れを分散させる必要があるとのこと。乗せてもらう依織に意見があるはずもなく、色んな人の後ろにたらいまわしにされている、というわけだ。
現在乗せてくれているラスジャという青年は、気遣いができる優しい青年だ。イザークが貴族的な王道イケメンなら、彼はとっつきやすいイケメンといった感じ。都のことがわからない依織にもおもしろおかしく様子を伝えてくれる。もしもこれが、喫茶店などで向かい合って話していたのであれば、依織だってテンパリながらも頷いたり相槌を打ったりしただろう。引きつっていそうだが、笑顔だって浮かべたはずだ。けれど、今はラクダの二人乗り状態。しかもたまに大きく揺れるため必死でしがみついているのだ。
もともとコミュ障な依織が、気の利いた相槌を聞こえるような声で言えるはずもなく、ただただラスジャが話してくれるだけにとどまった。
(すごく話は面白いし、話し上手なんだけど…だからこそ心苦しい!!)
ラスジャは、軍の仲間とよく行く料理店の話から、王都や国の成り立ちまで幅広く話してくれた。記憶に残りやすい話の持っていき方、とでも言えばいいのだろうか。聞いている方の負担にならず、それでいて笑いどころなんかも用意された話なのでとても面白い。もし、依織に質問ができるのであれば更に詳しく色々なことを話してくれただろう。
けれど、そこはそれ。依織である。自分から話しかけるなんて無茶だ。
そもそも、慣れないラクダの二人乗りというだけで頭がパンクしそうなのに。
この集団はラスジャもそうだがイザークなど気さくな人物が多い。後ろに乗せてもらった時、なんだかんだと皆話しかけてくれた。隊長と呼ばれていた人物ともう一人40代に見える男性は少々無口だったが、それ以外の全員が色々な話を聞かせてくれた。
それは実は、女性と共に乗るということがないせいで口数が増えていただけだったりする。しかしながら、それを依織が知る由もない。
案外相手も緊張している、ということに気付けていないのだ。
「あ、あの…お話、ありがとう、ございました。楽しかったです」
大きな岩場を見つけたので、一行はそこで小休止をとることにした。
オアシスから持ってきた水と携帯食を口にする。
そこで一度依織は頭を下げた。咄嗟に上手い返しはできないけれど、話自体はとても楽しかったのだ。そのことだけでも伝えたくて礼を言う。
が、男性陣はその意味が分からず一瞬きょとんとしてしまう。
彼らにとっては同乗者に対する普通の気遣いであり、何の礼を言われたのかがわからなかったのだ。
(……あ、あれ? 私また変な事言った!? 言ったよね、これ言った! 変な事言った時の反応だ!!
頭おかしいって思われた!!?)
男性陣が再起動するまでのわずかな時間にそれだけのことを考えてしまい、ちょっと泣きたくなる依織。これだから自分はまともにコミュニケーションができないのだ、やはり自分から会話をしに行くなどやめた方が良かったと心のなかで数分前の己を滅多打ちにしていると、あぁ、と納得したような声が聞こえた。
「何のことかと思ったら、ラクダの上での話かな?
どういたしましてー。いやぁ実は俺緊張してベラベラ喋ってただけなんだけど…もしかして、お前らも?」
「あ、なるほど。そういうことかー。じゃあどういたしまして、ですね。
俺も実は緊張して喋ってたんですけど…お礼言われるなら迷惑じゃないってことですよね。よかったよかった」
イザークとラスジャが楽しそうに会話をする。それを皮切りに自分も緊張した、という暴露話が始まった。
(…気を遣われてる、っぽい。
イケメン集団は流石だなぁ)
若干依織の思考がずれてはいるが、それでもなんとか前向きには持って行けたようだ。
少なくとも変な奴だと思われていなかった、という安堵感が大きい。
「ていうか、イオリさんの方が大変でしょ。
こんなむさくるしい集団に突然襲撃されるわ、連行されるわ…。
そういや、俺たちのペースで進んでるけど大丈夫ですか?」
「いや、そこは一応隊長も気遣ってくれてるんだぜ?」
「そうそう、女性でしかも全然鍛えてない感じの人だからねー。無理させちゃダメでしょ…って、うわ、隊長ストーップ!」
事実を暴露された隊長が無言で隊員を威圧する。
仲が良さそうなシーンに思わず笑みが漏れた。そういえばいじめられる前、小学校でも一年生くらいのときだろうか。その頃からやはりコミュ障ではあったけれども、そのときは特に気にしていなかった。周りの子が楽しそうにおしゃべりしたりじゃれあっているのを見るのが好きだったように思う。何故だかそんな幼い頃の記憶を思い出し、自然と笑顔になっていた。
輪に入れなくても、楽しそうな空気を感じるのは好きだ。
「おー…」
「笑えるのか、なるほどなー」
思わず漏れた笑みをバッチリ目撃した男性陣も少々驚いている。
何せ今まで依織はイザーク以外の男性陣には、泣きそうになっているか、必死に謝っているかくらいの表情のバリエーションしか見せていなかったのだから。
そんな和やかなムードに文字通り影が差した。
遮るものなどほとんどない砂漠に、唐突に影が差し、動き回る。
「…あれって、トリさん?」
「別のガルーダか? いやでも恐らくこの辺りはイオリさんのガルーダの縄張りのはずだが…」
「あ、やっぱトリさんです。足にリボン付けてあげたんで」
飛び回る影をよく見るとヒラヒラとした布状の何かがあるのがわかる。以前手当をしてあげた際に、包帯がすっかり気に入ったようなのだ。ただ、包帯をいつまでも巻いているのも厨二的なアレを連想するので、可愛らしく編んだリボンをプレゼントしたのだ。
「なるほど…しかしわざわざどうしたんだろう…?」
「言葉が通じれば早いのですが…」
ただ、言葉が通じていればトリさんと友好的な関係を築けたかは怪しい。人ではないのでまだ付き合いやすいような気もするけれど。
ともかく、この場で考えていてもラチがあかないので、岩陰から出て手を振ってみる。
「トリさーん!」
すると、トリさんもコチラをわかってくれたようで、すごい勢いで降りてきてくれた。
「どうしたんですか?」
問いかけると、ギュエエという鳴き声とともに、足で掴んでいたとあるモノを差し出された。
「これ…私が作った風除けの石…?」
差し出されたのは握りこぶしよりも一回り大きいくらいの石だ。神様がオプションで付けてくれた錬金術の一つで作成したシロモノ。
砂漠では砂嵐が突発的に起こる。神様の用意してくれた家であっても、砂嵐による被害は防げない。そこで、この石を自分で作って自衛しろ、というアドバイスがあった。流石に初めての事なので何度か失敗はしたが、今では無事に完成し、今もその石はほんの少し風を起こしている。
この石の仕組みは単純で、砂嵐の方向をほんの少しだけずらすように微風を常に起こし続ける、というものだ。それをオアシス周辺に配置していつも砂嵐の直撃を免れていた。
それをトリさんがわざわざ持ってきてくれた。と、いうことは…。
「もしかして、砂嵐くるの!?」
そうだ、と肯定するようにトリさんは鳴いた。
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