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27.魔女と襲い来るキラキラ

次回更新は月曜朝を予定しております。

また、本日はパルシィの更新日です。みんな大好き(?)あのキャラの初登場シーンが……!!漫画の方もよろしくお願いいたします!

 真面目な会議がはじまる宿の食堂には、大変いい匂いが立ち込めていた。主に、依織の眼の前で。


(は、恥ずかしい。でも、おなかすいた……)


 魔力切れを起こしてグルグルと気持ち悪さがあったはずなのに、食べ物を前にするとそのあたりは全て吹っ飛んでしまった。何より、栄養をとれば魔力の回復も早まるんだろうなという確信めいたものがある。

 実際、この世界の魔力を行使する人間は見た目よりもたくさん食べる傾向がある。食べ物から魔力を回復させているのだ。依織もその例に漏れないのだが、神様が気を使って多量に食べなくても睡眠でなんとか補えるようにした経緯がある。過酷な砂漠生活ではそこまで豊富に食料が手に入らないだろうと考えたからだ。また、依織自身が食に執着しないというのも神様はわかっていた。だって、神様だから。

 しかし、依織の体のベースはこの世界仕様。イザークによる食育の結果、依織の体が『あ、食べ物でも魔力回復できるじゃーん』と自覚してしまったのである。

 そんなわけで、依織の体は食べ物を欲しているのだが、依織の精神の方はその変化についていけていない。あまり食べなくても平気だったはずなのに、と絶賛困惑中である。


「ほら、たーんと食べな。あんたの魔法すごいんだねぇ」


 上機嫌でドン、ドンと大皿をおいてくれるのはこの宿の女将さんだ。彼女は依織の作った塩の壁を野次馬しにいったらしく、しきりに褒めてくれている。そして、アタシのおごりだよ、と言って料理を並べてくれているのだ。

 食欲をそそるスパイシーな香り漂う肉に、豆のディップ。薄焼きのナンが添えられていたので、これらの具材をくるんで食べる。依織もだいぶこの国の食事に慣れてきたものだ。最初はサソリを食べてたことを考えると驚くべき進歩である。


「足りなかったら言っておくれよ! ドンドン作るからね!」


 そういっておばちゃんは厨房の仕込みへと戻っていった。

 相手がコミュ障でも一切気にしない、おばちゃんパワー恐るべしである。


(そ、そうは言っても、これから会議なのに一人もぐもぐしてるのって、お作法的にいいの!?)


「イオリ殿、遠慮せずに食べると良い。表でトリさんも肉をたらふく貰っているところだ」


 美味しそうなご飯を前にためらっている依織に、イースが声をかけてきた。


「そ、なんだ?」


「トリさんは我が軍の恩人だからな。おかげで優秀な兵を失わずにすんだ。本当はシロ殿にも何か渡したいところなのだが……」


「シロ……塩?」


 シロといえば塩。あと好んでしていることといえばひなたぼっこだろうか。


「塩ならば本当に掃いて捨てるほどにある。ともかく、遠慮せずに食べると良い」


「う、あ、はい……」


 こうして、一人が黙々もぐもぐしている奇妙な作戦会議が始まった。


「まずウダカの町周辺の報告です」


 兵の一人が報告を始めた。依織は絶賛もぐもぐ中である。食欲には勝てなかったよ……。


「東方に作られた塩の壁により、ウダカの町には魔物はほぼ侵入できなくなりました。ただ、壁に沿って南北に流れていく可能性はあります」


「そこは魔女殿にご助力願えないだろうか?」


 隊長から話を振られ、依織は急いで口の中のモノを片付けようとする。が、それよりも早くイースが答えてくれた。


「正直イオリ殿には魔力回復に専念して頂きたい。代わりに、シロ殿とトリさんに助力を願えないだろうか?」


 確かにシロがいれば塩の壁の除去はお手の物だし、そこらの魔物はトリさんでイチコロだろう。

 なかなかに強いペアだ。


「お願い、してみる」


 食べ終わったらお願いしてみようと思う。お肉をたくさんもらってご満悦なトリさんならばOKしてくれそうな気がした。シロも頼りになるのできっと大丈夫な気がする。何より、人間にモノを頼むよりも二匹に頼む方がずっと気持ちが楽だ。


「あ、それとこれは副次的な効果なのですが、塩の壁建設により、一部塩の砂ではなく地面が出た場所があります。ラクダを走らせる際は少し注意が必要です。また、あのあたりに何か植えられないかと住民からの要望がありました」


「な、なるほど? ただ、そのあたりは我々の管轄外だな。しかるべき場所へ報告だけはしておこう。とりあえず、現状はまだ魔物の脅威があるため許可できないとしておく。ラクダについては皆に周知しておこう」


 思いがけない報告を受けて隊長は少し戸惑いながらも返事をした。住民たちが脅えてパニックになるよりも、このくらい逞しい方が安心な気がする。


「了解です」


(全力で塩を分離したら、畑とか広がる、かも? でも毎度倒れてたら流石に怒られちゃいそう……)


 スパイシーな何かのお肉の味わいを楽しみながら、依織はそんなことを思う。頭の片隅に大変心配性なキラキラ眩しいイケメン様が浮かんだ。想像しただけでも物凄く眩しい。


「魔女殿にお尋ねしたいのだが、魔力の回復までにどのくらい時間を要するだろうか?」


 隊長から問われて、少し考え込む。その間にとりあえず食べていたものを飲み込んだ。


(前は一日休めばほぼ大丈夫だった、気がする。でも、自分の魔力の総量とかサッパリわからないからなぁ。ナーシルがいたら違ったんだろうか)


 少しだけナーシルが恋しくなってしまう。ただ、実際目の前にいたら逃げ出したくなっているとは思うけれど。

 依織の思考が緩やかに脱線している最中、イースが助け舟を出してくれた。


「以前は丸一日休息をとってもらえれば支障はなかったように思う。今回も丸一日時間をあけてはどうか」


「あ、あの、それで、おねがいしたい、です」


「それと、今回トリさんの戦力をアテにするのであれば、彼の都合も考慮したい。マンティコアに奇襲をしかけるのであれば、日がある時間帯の方が良い」


「ガルーダはやはり夜はあまり戦えない、と?」


「動けなくはない、と、思う。でも、たぶん、苦手」


 死のオアシスで暮らしていたときも、トリさんは夜の散歩にはついてきた試しがなかった。自分は家を守っていてやる、というような態度だったのを良く覚えている。

 風の石を見つけられるくらいなので、全く見えないということはないだろうが、やはり夜の闇は不利に働きそうだ。


「では、明後日の早朝にうって出ましょう」


 隊長のその一声で皆に緊張が走った。やはりマンティコアとかいう伝説の魔物と相対するのは怖いのかもしれない。依織はといえばどうしても現実味がなく、緊張したくても出来なかった。倒して良い魔物相手よりもよっぽど対人の方が緊張する。

 その後、隊長やイースたちの綿密な打ち合わせが入り、依織は蚊帳の外になった。ただ、ご飯がまだあるので全部食べきってしまいたい一心でその場に残っている。


 と、にわかに宿の玄関の方が騒がしくなった。


(なんだろう? またトラブル?)


 ざわざわとした騒ぎが段々こちらに近づいてきた、気がする。逃げようか、しかしあとちょっとご飯が残っている。お腹の隙間にまだ余裕はあり、折角作ってもらった料理を残すなんて罰当たりはしたくない。どうにか空気になってやり過ごせないだろうかと考えていたところで、その騒ぎの中心にいたであろう人物が顔を見せた。


「皆、ご苦労だった。現在の状況を聞かせてもらえないか?」


「イザーク様!?」


(うわっっ眩しい!! 現実の方が想像の100倍はキラキラしいよ!! キラキラの暴力反対!!)


 何故ここに、と思う暇もなく必死に久々に彼から駄々洩れのキラキラに耐える。彼が報告を受けている間になんとかキラキラ耐性を作らなければ危うい。隣にはラスジャもいるので目に痛いキラキラの暴力は相乗効果を持っている。こうかはばつぐんだ。

 だが、そんな依織の切実な抵抗は、当然のように無駄に終わった。


「イオリ、無事でよかった。いや、魔力切れは無事とは言い難いけど……」


「ひゃい……」


 日数的にはそこまで離れていたわけではない。それでも久々に浴びる生のキラキラに依織は圧倒されてしまった。わけがわからない。ちょっとそのキラキラしい顔面をしまえ、話はそれからだ。

 そう依織が口にできるはずもなく。

 依織が彼のキラキラに慣れる日は果たしてくるのだろうか。いや、ほぼ不可能。妙に悟ってしまった依織は遠い目になった。

【お願い】


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ブックマークも是非よろしくおねがいいたします


漫画のはパルシィとpixivコミックにて好評連載中です!

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