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26.魔女と自慢の友

次回は金曜朝更新予定です。

お陰様でpixivコミックの方、4月のTOP10入りしております。今後ともよろしくお願いいたします!

「う、うーん」


 依織が目を覚ましたのは宿の一室だった。若干デジャヴを感じて『私は今ループでもしたの?』と思ってしまった。転生に続いてループだなんて、そんな前世のトレンドに乗らなくてもいい。


「いや、ちがうちがう。私、魔力使い果たしちゃったんだ……」


 以前目を覚ました時とは違い、視界がグルグルと回る。若干気持ちが悪い。なのにお腹は空いている。


(どうしたいのよ、私の体……。回復するまで意識戻らなくてもいいよ~。あ、でもあのあとどうなったかは気になる……!)


 依織が覚えているのは地面の塩も巻き込んで大きな壁を作ろうとしたところまで。壁自体は見えておらず、魔力を思い切り使ったところでひっくり返った。最後に見たのはいつもの砂漠の青い空だ。

 どうにかもぞもぞと起き上がろうとする。視界は多少揺れるが、以前の魔力切れのときよりはだいぶマシだ。少なくともちょっとフラつきはするが動ける範囲である。


「もしかして、魔力の使い方上手くなってたり?」


 依織はそう見当をつけたのだが、実際は魔力の総量が増えたことに連動して、回復スピードもあがった、というのが真実である。ただし、それを依織に教えてくれる者は存在しなかった。

 ともあれ、体調不良はそこまででもなく、どうにか動けそうだ。


「……あれ? シロ、いない?」


 シロと一緒に食堂まで出向けば誰かいるだろう、とベッドから脱出したのだが、肝心のシロがいない。シロという心理的盾及び心の支えがいないというのは依織にとって結構なハードモードだ。


(ど、どうしよう。とりあえず会話の準備しないと。ええと、今何時? 少なくとも外は明るいっぽいからこんにちはから? そこから何を聞けば……。あ、トリさんのことは聞きたい!)


 脳内でアレコレと会話シミュレーションをする。案ずるより産むがやすしということわざがあるけれど、依織の場合はきちんと案じないと産まれてくるのは微妙なうめき声だけになりかねない。

 うんうん唸りながら様々な場合を想定していると、部屋にノックの音が響いた。


「ひゃい!」


 反射で返事をする。声がひっくり返ってしまったが、そこは気付かれていないことを祈るしかない。失礼する、と入ってきたのはイースだった。


「良かった、目が覚めていたか」


「あ、あの! トリさんは!? 壁、大丈夫!?」


 顔見知りであるイースの顔を見て安心した。と、同時に聞きたかった事柄が溢れかえってしまった。折角会話を想定していたのに台無しである。

 だが、イースも依織との会話に慣れてきたようで、苦笑するにとどまった。呆れられていなくて本当に良かったと思う。


「まず壁だが、お陰で人的被害は一切なかった。ただ少々頑丈すぎる。魔力が回復次第一部撤去をお願いしたいところだが……大丈夫だろうか?」


「あ、はい。ごめん、なさい」


 あのときは無我夢中だったため、加減など一切できなかった。当初の予定では塩の壁は数か所通り抜けられる部分を設置するはずだったのをすっかり忘れていたのだ。


「謝ることではない。むしろ誇って欲しい。あの数の魔物を一瞬で封じたのだから。お陰で士気も持ち直している。魔女様がいるならマンティコア相手だろうと、と」


「ぇ……」


 それはそれでどうなのだろう。過大な期待をされた挙句、期待外れだった時が大変こわい。


「あなただけに任せるというわけではない。安心してほしい。それに士気があがったのはトリさんのお陰でもある」


「あ、そうだ! トリさん、無事? つれてた人、は?」


「彼が連れてきてくれた人物こそ行方が分からなくなっていたアウディだ。今トリさんは英雄扱いされている。ただ……」


「?」


 行方不明とされていた人物が生きていたのは大変喜ばしいことだ。トリさんが彼を救ってくれたということも友人として誇らしい。だが、何かまだ問題があるようで、イースは言葉を濁した。


「見て貰った方が早いかもしれんな。……歩けそうだろうか?」


「えと、はい」


 それなりに視界はグラつくし、なんならお腹も減ってきたが、歩くこと自体に支障はない。フラフラしつつも立ち上がりイースについていこうとする。と、ため息を吐かれた。どうしたのだろうと思って彼を見ると、思っているよりも近くにいた。


「……失礼する」


「ひぎゃ!?」


 言うが早いか、抱きかかえられた。所謂、お姫様抱っこというやつだ。確かにフラついていたが、歩けないほどではないのだが。

 それよりも、イケメンが近い方が大問題である。イケメン接触罪で死刑かもしれない。あと単純に怖い。距離があまりにも近すぎる。


「歩くのが辛いのであれば言って欲しい」


「いや、あの、でも、あの……」


 脳内で死罪の判決札を持った謎の人物が駆け回る。そこはせめて有罪で勘弁してもらえないだろうか。死罪確定なのか、と自分の脳内にツッコミたい。勿論現実逃避である。助けて。

 依織の脳内では死罪パレードの真っ最中なのだが、当然イースは気付くはずがない。大変冷静に振舞われた。


「伝える努力をお互い頑張ろう、と話したはずだが?」


 声が良い。今すぐ離れていただきたい。切実に。


「そ、それはした、けど、でも、あの」


 どうにか言葉を絞りだしたけれど、それは何か意図が伝わるようなものではなかった。テンパっているとか、慌てていることくらいは伝わったかもしれないけれど。是非とも伝わってほしい。


「何よりあなたに何かあると、自分の怠慢になってしまうのでな。魔力切れを起こさせた時点でイザーク様が心配でどうにかなりそうな気もするが……。ともあれ、行こうか」


 ここで暴れて降りるほど依織に体力は残っていなかった。気力体力が満タンでも暴れるという選択肢はなかったと思うが。

 そんなこんなで、依織はイケメンに抱きかかえられながら移動するという偉業を達成してしまった。周囲から刺さる視線で死を覚悟した程である。視線をよこした人たちはあまり気にしていなかったのだが。


「様子は?」


 抱えられて連れてこられたのは宿の裏手にある空地だった。兵士が複数人忙しそうに動いている。イースに声をかけられた兵士は苦笑を返してきた。


「あまり変わらず。珍しい光景すぎてちょっと笑っちゃいそうなのが問題と言えば問題ですかねー」


 そんな会話をする二人の目線の先には――。


「シロ!? トリさん!?」


 小さな体を目いっぱい大きくしてプルプル震えるシロと、その前で大きな体を小さくしているトリさんがいた。トリさんは人命救助をした英雄だというのにこれはどういうことなのだろうか。

 依織の気配に気付いたのか、二匹の魔物はこちらに寄ってくる。依織はイースの服をぐいぐいと引っ張って一旦おろしてもらうことに成功した。多少ふらつきつつも、どうにか自力て立ち、二匹に目線を向ける。


「何があったの?」


 そう問うてみるが、二匹は人語では答えられない。代わりにイースが依織が見ていなかった二匹の様子を教えてくれた。


「自分たちには二人の会話は聞こえない。が、どうやらシロ殿がトリさんを止めてくれたようだ」


「そうなの?」


 二匹に聞くとトリさんは不服そうに鳴き、シロは自慢気に震えたように見える。


「トリさん、無茶したらダメだよ? 私、追っかけてきたんだから」


「ギョ、ギュ……」


 トリさんはバツが悪そうにそっぽを向く。よく見ればつけてあげたばかりのリボンはもうボロボロになっていた。あちこちで羽が傷んでいる形跡もあり、あのあともう一戦くらいしかけたのかもしれない。


「でも、兵士さんのこと助けてくれてありがとうね。もしかして、鎧の特徴とか覚えててくれたのかな?」


 この国の兵士たちは基本お揃いの鎧を着ている。階級があがるとなんとなく豪華に見えるものになるが、意匠自体はあまり変わらない。トリさんはそれを覚えていてアウディなる人物を助けてくれたのだろう。ただのならず者であれば、彼は容赦なく見捨てたはずだから。

 依織に褒められて、トリさんは大層ご機嫌になった。ふふん、と胸を張りふんぞり返っている。そこへ、シロが嗜めるように塩を飛ばした。シロはシロで心配していた、ということなのだろう。


「シロもトリさんが無茶するの止めてくれてありがとうね」


 お礼をいうと、シロも嬉しそうに揺れた。大変癒される光景である。


「もし良ければ彼らとも足並みを揃えてマンティコア討伐に向けての話し合いをしたいのだが……」


 イースがそう提案したとき、キュゥウと切なげな音が響いた。あまり大きい音ではない。しかし、周囲にいた人間及び二匹の魔物にその音はバッチリと届いたようだった。

 音の正体は、依織の腹の虫である。


(どうして!? どうしてこのタイミングで!?)


 全員が優しかったので、聞かないふりをしてくれた。

 が、その後開かれた作戦会議の場で、依織の目の前にはたくさんの美味しそうな食事が並べられたのだった。

【お願い】


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漫画のはパルシィとpixivコミックにて好評連載中です!

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