24.魔女の微成長
次回の更新は月曜朝予定です。本日パルシィにて最新話更新していますので是非~!
「まだ一組戻ってきていない偵察部隊がいますが、それ以外には毒のことは通達できました」
「よ、よかった……」
街道警備隊及び調査隊の面々が利用している宿の食堂にて、依織はイースからそう報告を受けた。安心から今にも座り込んでしまいたくなったが、それを堪えてグッと足に力をいれる。
「あ、あの。これ……」
「紙? いや、魔法陣か?」
イースに手渡したのは魔法陣の描かれた紙だ。宿の部屋に備え付けてあった紙をフル活用させてもらった。
「これで、毒……トリさんの毒を、毒のトゲ、消し……消した、ので」
正確に言えば、この魔法陣を地面に描き、トリさんに刺さっていた毒のトゲを浄化した、なのだが練習もなしにそんなことを説明するのは依織には無理だった。それでも、自分が伝え損ねたせいで、という後悔はしたくない。そんな思いでたどたどしく話す。
(今回はたまたま、誰も傷ついていなかった。けど、私のコミュ障のせいで誰かが傷つくかもって気付いたときの血の気がひいた感じ。あんなのもう絶対味わいたくない!)
気持ちは逸るものの、それだけでコミュ障が治れば苦労はしない。いつにも増してカミカミな気がする。情けなさが頂点に達して泣きそうなのだが、どうにか堪えた。泣いてしまったら伝えることがより困難になる。
「あと、これ。毒のトゲ、の……絵、模写? です」
あのトゲは魔法陣でキレイさっぱり分解してしまった。じっくり見る時間の余裕も心の余裕もなかったため結構曖昧な点は多い。それでも、覚えている限りの特徴を描きだした。
一応、依織はアクセサリーやバッグ等のデザインもしていたので、見るに堪えないほど絵が下手なわけではないはずだ。と、本人は思っている。
「これは……」
「魔法陣、は……効果、わからない。けど、あの、行くヒト、えと、調査の、に……配って」
イースはイザークたちと比べて口数が少ない人だ。普段はどれだけイザークたちに甘えていたんだろうと思いしる。依織の少ない言葉の中から的確に意図を汲みとる技はもはや匠だ。顔面にもコミュ力にも恵まれているとか、本当になんてうらやまけしからん人たちなのか。とりあえず顔面隠して欲しい。
イースはイースでキラキラ眩しいというよりいぶし銀な輝きがあるから隠してほしいのは同じである。
「ありがとう」
「ひぇっ!?」
突然礼を言われて戸惑う。本当は伝えようと思っていたことが脳内で渋滞していたのだが、今ので全て吹っ飛んでしまった。イケメンのイケボはコミュ障の健康に大変よろしくない。
「……自分も、口が達者な方ではない。だから、上手く伝わるかわからんが」
「……?」
「伝えようとしてくれれば、汲み取る努力はできる。だから、諦めないでほしい、と。そういうことを言おうと思っていたのだが……あなたは言われるまでもなく努力してくれた」
「ぅぇ、あ、と、その……」
前世では。
伝えられなくて、言葉が足りなくて、いつもいつも注意されていた。最終的に、疎外されていたし、自分でもそれを望んだ。輪から外れれば少しは楽に息ができた。
「自分も言葉が足らんとよく言われる上に、汲み取ることもまだまだだ。なので手数をかけると思うが、ともに頑張って貰えると嬉しい」
だから、そんなことを言われるなんて思ってもいなかった。
正直に言えば、伝達を怠ったことで叱られると思っていたのだ。予想外の言葉に、どうしていいかわからなくなる。
「あぅ、あの……」
そこへ、シロがよじよじと登ってきた。そして、頭の上で跳ねる。
シロが何を意図してそこにきたのかはわからない。けれど、彼が心配してくれているのはわかる気がした。お陰ですんなりと言葉が出てくる。
「ありがと、です。私、も……頑張る、です」
依織の言葉に、イースも微笑を浮かべてくれた。いぶし銀の微笑である。全力全開のキラキラとはまた違った破壊力に、顔面に布を叩きつけたい気持ちになった。
それはそれとして、とても安堵したものだ。
その後すぐ、二人での確認タイムに入った。ド級のコミュ障と、ごく普通の口下手の二人でのことなのでそれなりの苦労は当然ながらある。それでも、前世からは考えられないほどに依織は自分の考えを伝えることができた。大変な快挙である。
イースはそれをすぐに調査隊員へと周知してくれた。
「防毒、ですか!?」
ワッと歓声があがる。依織お手製の魔法陣が描かれた紙を見て、隊員たちは目を輝かせていた。
正直そんなに期待されても困ってしまう。何せ試運転もしていないのだ。
その辺りはイースにきちんと伝えている。
「いや、まだ試作段階だそうだ。過信は禁物だぞ」
注意するイースの声が届いているのかいないのか。その場はかなり盛り上がっていた。それでも冷静な人は若干名いたようで、数人がこちらに声をかけてくる。
「もしよろしければ毒を調達して実験してみますか? 対魔物用の毒であれば備えがあったはず……」
「これ使い切りです? お試しで効果が切れたらもったいなくないか? ……魔女様、これはすぐ用意できるものでしょうか?」
「うぇっ!? は、はい。えと…か、かみが、えと」
突然話を振られるというのも一応想定はしていた。していたけれど、やっぱりままならない。知らない人相手だと依織のコミュ障は五割り増しになってしまうのだ。
あぐあぐと返事を上手くできなくてイースを見る。
「効果のほどはこちらでもわからないので実験できるのはありがたい。紙とインクの用意を頼む。……で、大丈夫だろうか?」
最後のセリフは依織に向けて。それに対して依織は首を縦に勢いよく振った。事前に打ち合わせをしておいて本当に良かったと、心の底から思う。
隊員たちはそれぞれモノを調達しに走っていった。
「ついでに解毒剤の準備もだ! 次に調査にいく者は万全の備えをしておけ」
街道警備隊の隊長が場の皆にそう声をかける。現場の指揮権はあくまでも先にウダカの町に到着していた街道警備隊にあるようだ。ただ、様子を見ていると地位などはイースの方が上らしいけど。
(なんか、こういうの、大人って感じがする)
ごく普通の社会人経験が少ない依織としては、ちょっと興味深い光景だ。年功序列でもなく、地位でもなく、その場に居る皆で力を合わせて何事かを為す。そして、その輪に、端っこでもいさせてもらえるというのがなんだか少しくすぐったい。
応、という男たちの勇ましい声にビクつきながら、依織は紙とインクの到着を待った。
正直言えば活気ある場所は大変怖い。逃げ出すか、埋まるかしたい。それか、隠れたい。だけど、頑張ると決めたから。
「それにしても……第3部隊、少し遅くないですか?」
ガチガチに緊張しすぎると、逆に周囲の声が色々と聞こえてきてしまうことがある。今の依織はそんな状態なようだ。その中で、気になる声を拾った。
不安そうな若い隊員が隊長に話しかけているところだ。
「確かに。他の部隊はとっくに戻っていた記憶がある」
「今朝の時点で第1,第2の帰還は俺も確認したな……」
イースが渋い顔をしながら辺りを見回す。彼は第3部隊に所属しているのが誰かというのも覚えているようだ。流石デキるいぶし銀は違う。依織はかろうじて街道警備隊の指揮をとっている隊長の顔がわかる程度だ。
その隊長も、同じように渋い顔をしている。
「……だれか、第3部隊の担当区域の確認を頼む!」
隊長はその場にいた手が空いている隊員にそう指示を出した。
テーブルの上に地図が広げられる。依織もなんとなく目線をそちらに向けた。
「第3の担当区域はこのあたりです」
「第1、第2はその周辺を調査し、異常は見当たらなかったとの報告を受けています」
話しているうちの一人が指で示した場所を、皆が無言で見つめる。そこに、何かがあるのか。
そんな沈黙は、隊員の声で破られた。
「報告です! 第3部隊が帰還しました! ……ですが」
報告に来た隊員が一瞬口ごもる。
「どうした!?」
「1名、行方不明。1名は正気を失っております……」
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