21.魔女の目覚め
次回更新は月曜予定です。本日パルシィの漫画が更新されております。是非チェックしてみてくださいね!
目が覚めたとき、依織は暫くの間状況が理解できなかった。
見たことのない天井、見たことのない部屋。そして、今までとは違うシーツの感触。これはこういう織り方かなぁと触りながら考えてしまうのは最早職業病だ。
そこで急速に意識が浮上し、ガバリと起き上がって辺りを見回す。
ぽよんぽよんと部屋の中を探検しているシロがいなければパニックに陥っていたかもしれない。
「あ、そか。着いて、すぐ寝ちゃったんだ……」
辺りを見回す。現在居る場所はちょっとお高そうな宿の一室だった。ベッドは広く2人は余裕で寝転がれる大きさだ。小さなテーブルも備え付けられている。人を呼ぶために使うのであろうベルや、筆記用具なんかもあった。
「すぐ寝こけちゃった私に、こんないい部屋用意しなくても……」
調査隊の目的地であるウダカの町に到着したのは想定どおり、夜明けの時間帯だった。到着後、依織はすぐ宿へと案内された。これまでの長い馬車移動とコミュニケーション能力の酷使により、疲れを感じていたのは確かである。たった数時間、ろくに会話をしていないとしても、情けないことに依織にとっては酷使といって差し支えないのだ。
しかも到着後イースたちのやることは、先行した部隊との情報共有だという。依織はそういう場面で何一つ役に立たないので、ありがたく休ませてもらうことにしたのだ。
(イースとか、他の隊員さん休まないのかな? 交代で休むのかな……。ううう、一人だけ休むのってなんか気まずい。でも、確かに色々限界なんだよね)
その時すでに、ずっと手すりに掴まっていた左腕はだるかった。ちょっぴり筋肉痛の予感がするくらいには。
それに今までになく魔法を連発したことにより、頭も少々霞がかっているような感じがした。
大人しくシロを抱えて案内された部屋に行き、ベッドに横たわる。
すると、ストン、と意識が落ちた。
そして、現在に至る。夢も見ずにグッスリだった。
「外、出てみようか、シロ。お腹空いたし」
いつもであれば一食抜いたところでどうということもないのだが、今は何故か妙にお腹が空いていた。気を抜くとクゥと鳴き声をあげそうだ。
「……魔法、たくさん使うとお腹減るのかな?」
尋ねたところでシロは震えるばかり。しかし、ポヨンポヨンと後についてくる素振りを見せてくれたのでそれでヨシとした。
軽く身だしなみを整えて、廊下へ。
宿に到着した時は、腕の筋肉酷使・魔法の酷使・コミュ力の酷使のお得な三点セットで疲れ切っていたため若干記憶が曖昧だ。
「たしか、こっち……?」
ウロ、ウロ、と歩き回る。人に会わないのでなんだか心細い。まるで不法侵入したような気分だ。
一瞬部屋にあったベルを鳴らした方が良かったのではないかという考えがよぎる。しかし、人を呼びつけるのはどうにも気が引けてしまったのだから仕方がない。呼びつけたあとうまく会話できる自信もなかった。
コミュ障はつらいよ。
「あっちから人の声するなぁ……」
お腹は空いた。しかし、人がたくさんいる気配がする場所に行けるかというと、ちょっと無理だ。
依織の容姿は、褐色がデフォのこの国ではとても目立つ。ローブを羽織ってくれば良かったとも思うが、室内でローブを被っている人間はこれまた少ない。すぐに目立ってしまうのが目に見えている。
何せ、ここは灼熱の砂漠の土地。とにかく暑いのだ。日差しがない室内は薄着で過ごすのがこの国の当たり前だし、依織だってできればそうしたい。
肌の色を隠しても目立つし、隠さなくても目立つ。どうあがいても目立つ。これは詰みだ。
「……一食くらい抜いても、いやでも……」
楽しそうな人の声がする。そこにスッと入って馴染んで存在感なく過ごし食事を終えられるだろうか。
正直言ってそんなビジョンが全く浮かばない。
だがしかし、依織のお腹は切実に空っぽであると訴えている。
「あぅ、もどろ……って、シロは!?」
食欲とコミュ障がせめぎあい、結果コミュ障が勝利した。今にも唸り声を上げそうなお腹をなだめて部屋に戻ろうとしたが、今度は後ろをついてきていたはずのシロがいなくなっていた。
「も、もしかしてシロ、行っちゃった?」
あの、賑わっている部屋の方へシロが行ったかもしれない。
「ど、どうしよ……。お、おいかける? でも、そんなニンゲンが、たくさん……」
オロオロ、そして、ウロウロ。
どうすべきか決断できないでいると『ニンゲンたくさん部屋』からニンゲンがこちらへ来る気配がした。
一人だけであればなんとかなるかも、と身構える依織。逃げる準備は万端だ。
「イオリ殿、おはようございます」
登場したのはイースだった。その後ろにシロの姿もある。シロはもしかしたら彼を呼びに行ってくれたのかもしれない。いや、賢い彼のことだから多分そうだ。
「ぴゃっ!? ご、ごめんなさい!」
「……?」
ただ、依織は何度も言うようにコミュ障である。シロに促されて来てくれたイースに対し、思わず奇声をあげて謝罪してしまう。コミュ障の悲しきサガである。
そんな依織に声をかけたイースは不思議な生き物を見る目をしていた。凄く、大変、いたく、いたたまれない。
「あ、イースさん。あの、おはようございます……」
どうにか仕切り直したがなんとなく気まずい。
「あの……」
「今は昼食の時間帯で、食堂がとても混んでいます。よろしければ部屋まで食事を運ばせますか? 会議はその後行われますのでその頃迎えにあがります」
「えっ、えっ……?」
矢継ぎ早に告げられてちょっと脳みそが追いつかない。
確かに人がたくさんいる場所での食事は落ち着かないので、最初の提案はありがたい。だがその後の会議とはなんだろうか。
「あ、えと。ありがとう、ございます。食事、一人、うれしい、ので」
「わかりました。そういたします」
聞きたいことは山のようにある。トリさんの目撃情報だったり、町に襲来している魔物の情報だったり。だが、聞ける気がしない。なのでひとまずお礼だけでも伝える。
すると、イースの雰囲気も柔らかくなった気がした。
(あ、もしかしてイースさんも人見知りとか。人見知りというより、私の扱いに慣れてないだけかもしれないけど)
「それと、質問事項等あれば書き出していただけるとスムーズかもしれません」
「うぇ!? あ、そう、かも……? はい、がんばる」
「では、先程の部屋でお待ち下さい」
そう言って彼は騒がしい方へと戻っていった。シロは依織の足元でプルンプルンと震えている。心なしか得意げに見えた。
「シロもありがとうね。お部屋戻ろうか。で、質問事項まとめないと……」
来た道を戻っていく。その間も人には会わずに済んだのでとてもホッとした。
部屋に戻って小さなテーブル前の椅子に座る。紙と筆記用具を手に色々と書き連ねる。何か作るときのアイデア出しと同じ要領だ。
紙に書くと、依織がやりたいことが整理されていく。
まず、一番はトリさんの無事を確認したいこと。
そして、彼が許してくれるなら、彼が苦戦した魔物を一緒に退治してしまいたい。勝てるかどうかはわからないけれど、シロとトリさんと自分であれば多分いけるような気がする。
ただ、トリさんは結構プライドが高いので、一羽でやりたいと言うかもしれない。そこは説得次第だろうか。
ただ、それをするにはまずトリさんの現在地がわからないことにはどうしようもない。
なので、手間をかけるが現地の人達に協力してもらいたい。
(協力してもらう分、こっちも協力しなきゃだよね)
となると、依織にできることを提供すべきだろう。
「私達にできることっていったら、やっぱりオアシスの整備かな? この町にもあるよね」
シロを見ると、任せろといった感じで跳ねる。大変頼もしい。あと癒やされる。
「あ、あと、シロはこういうのってできるかなぁ?」
思いついたアイデアをシロに相談する。アイデア出しはやはり楽しい。
集中しすぎて、食事を持って来てくれたイースの声掛けに悲鳴をあげてしまうのはそれから数分後のことである。
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