18.魔女と飛び立つ友
次回更新は月曜日を予定しています。また、パルシィにて漫画が更新されておりますので是非!
トリさんの手当てを終えた夜。
依織はトリさんにグルヤからもらった肉をあげたり、簡易的な寝床を作ってあげたりと大忙しだった。
ちなみにトリさんの寝床は屋上にした。その方が彼が今後立ち寄りやすいだろうと思ったので。錬金術で屋上までの階段をつくり、トリさんが悠々と過ごせるくらいのスペースに日除け砂除け用の囲いを作って終わり。突貫工事にしては中々の出来栄えだ。建物の外観が変わったことにより来訪者はちょっと驚くかもしれないけれど。
そして何より優先したかったのはトリさん用の新しいリボンだ。
トリさんから毒のトゲを抜いたあの魔法陣を応用して、お守りにできないかと考えたのだ。
「徹夜してない。セーフ」
ちょっぴり寝不足ではあるが、ちゃんと寝た。怒られないようにちゃんとベッドにも入った。普段の睡眠時間の三分の二くらいではあるが、セーフだ。たぶん、きっとそう。そもそも言わなければバレない。
お陰できちんとしたお守りリボンができた。試してはいないので毒を分離させる性能はわからないが、少なくとも見た目はかわいい。この前作ったばかりのレーヨンのハギレに魔法陣を刺繍した作品だ。流石の依織でもリボン幅に刺繍をするのは骨が折れたが、出来上がりには満足している。
「トリさんにご飯あげて、私のご飯も食べて。あ、先に結んであげようかな」
昨夜トリさんはお腹が減っていたのか、グルヤに貰った肉をすごい勢いで食べていた。もしかしたらトリさんは肉を食べて怪我を治す種族なのかもしれないと思ったものだ。今朝もあれくらい必要なのだろうかと悩みつつ、とりあえず胃もたれを心配して少量にした。
「トリさん。ご飯持ってきたよ。調子は?」
屋上へあがるともうお日様が全力を出しているようだった。まだ天辺に昇っていないというのに、既に猛威を振るっている。
砂除けの中に収まっていたトリさんは依織の声がするとトコトコと出てきた。依織の後ろにはシロもついてきている。久々の一人と二匹の時間だ。
しかし、暑い。
「ギョエェ!」
依織の手にある肉が目に入ったようで、トリさんは上機嫌になった。肉の皿を地面に置くとすぐさま食いついた。怪我については見たところ問題ないようだ。ちょっと羽がハゲた部分も変わりはない。
「トリさん、胃もたれって概念ないのかも? おかわりいる?」
問いかけると、もちろん、と言いたげな鳴き声が返ってきたので一旦依織は階下に降りる。その間シロとトリさんは二匹きりだ。あの二匹は意外とウマ?があうらしく、意思疎通をしている様子をたまに見ることができる。
「食欲があるなら、きっと元気だよね。治癒魔法もどうにか成功したみたいだし。……とはいえ人にするのは無理だよね。あのときトリさん悲鳴あげてたし」
やってる最中は必死で気に留める余裕がなかったけれど、あの時トリさんは聞いたことのない鳴き声を上げていた。魔力が流れる不快感か、あるいは下手糞すぎて痛いのか。依織にはわからないが、やはり治癒魔法は安易にしないほうがいいと再確認する。
そもそも相手が人間ならあんな近くに寄ることの方が難しい。
おかわりの肉を持って、再度屋上へあがる。グルヤは好意からかたくさんの肉を持って来てくれた。とてもありがたいのだが、多量の肉はこの気温ですぐに傷んでしまう。トリさんがバクバク食べてくれて本当に助かった。
「あ、トリさん。新しいリボンも作ってきたからつけるね」
依織が声をかけるとと、トリさんはおとなしくしてくれた。さぁ、つけるがよい、と言わんばかりの態度である。昨日の苦しそうな姿よりも、普段のトリさんらしくてこっちの方がずっと良い。
足首部分にリボンを巻き付け、魔法陣部分がトリさんの皮膚に触れるように調整する。痛くないように、けれど落ちないようにしっかりと結んだ。
「一応ね、昨日つかった魔法陣をリボンに縫っておいたよ。でも、無茶したらダメだからね。魔法陣の刺繍がどこまで効果あるかわかんないし」
そう言った瞬間、トリさんの目がギラリと光った気がする。もしかして、言ってはいけない情報だったかもしれない。
トリさんは多分プライドが高い魔物だ。誇り高いとか、そういう表現でもいい。そんな彼がやられっぱなしでいられるだろうか、いや無理だ。しかも、昨日依織が使った魔法陣がこのリボンに込められていると知ったら取る行動はおのずと決まってしまうだろう。
「ダ、ダメだからね? 私の慣れない治癒魔法なんだから、まだ傷完全に治ってないでしょ?」
「ギョエッギョエッ」
トリさんは依織に見せつけるように羽ばたく。見た目はちょっとしたハゲがあるだけだ。動きも滑らかには見える。でも病み上がりならぬ怪我上がりなことには変わりない。そんな単語があるのかはしらないが。
一通り羽ばたいて見せた後、更にリボンも見せつけてくる。
「いや、それ本当に効果あるかわかんないじゃない!」
作ったのは依織だが、効果のほどは未知数だ。もしナーシルがいたら解析に躍起になってくれたかもしれないが、彼は今南の鉱山だ。実際に試してみない限りどうなるかはわからない。そこまで信頼されても困る。
だが、トリさんは「当たらなければいいだけだ」とか「もう油断はしない」とでも言いたげにふんぞり返った。最近ドヤ顔で感情を伝える術が本当に長けてきた気がする。
「ギョェエエ!」
トリさんは気合を入れて大きく一声鳴くと、お得意のサムズアップを見せつける。そして、止める間もなく飛んで行ってしまった。
「ど、どうしようシロ!」
ふりかえればシロは「あちゃー」とでも言いたそうな雰囲気である。やはりシロはともかくトリさんは短気だと再確認してしまった。
「お、追いかけなきゃ! でも飛んでったトリさんに追いつくなんて……ラクダ借りなきゃ!」
しかしラクダを借りるためにはラクダを持っている誰かに交渉しなければならない。そもそも、誰かに会わねばならない。だが王都のはずれにポツンとある魔女の一夜城にたまたま人が通りかかるわけが……。
「い、いたー! イザークー!!」
魔女の一夜城に近づいてくる二つのラクダの影。イザークとラスジャである。依織は大慌てで手を振ってアピールする。
一度家の中に入って階下まで降り、玄関から外に出る、という普通の手順を踏むことすらもどかしく、錬金術を行使した。拡張したばかりの屋上から地上を繋ぐ。それなりに急な傾斜の滑り台が瞬く間に出来上がった。滑り台は衣服が引っかからないようにツルツル仕上げ、スパイダーなマンでもない限り昇ることは困難なため防犯もバッチリだ。
まぁ、なんということでしょう。倉庫や作業場、リビングも備えたゆとりある一階。屋上はトリさん専用スペースの他、緊急時は直接地上に降りることができる滑り台が! 錬金術の匠による、なんとも前衛的な屋敷が完成した。
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