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15.魔女の不安な夜

Palcy(次回4月28日更新)とpixivコミックにて佐藤里先生の漫画が好評連載中です!

次回の小説の更新は月曜日を予定してます

「あっ……」


 依織は何度目かの糸のかけ間違いに気づいて小さく声を上げた。

 間違えるのはこれで片手の数を超えている。集中力がとっくの昔に切れているのだ。手を止めて、小さくため息を吐く。

 そんな依織を心配したのか、シロがピョンと跳ねて膝の上に乗ってきた。

 シロを撫でながら思い返すのは昼間のことだ。コミュ障を発揮しまくった馬車内のことではなく、その前。街道での異変の話だ。


「シロはどう思う? トゲネズミの群れのこと……」


 少なくとも依織は今までに群れで動くトゲネズミを見たことがない。何度か倒したことはあるが、トゲネズミは群れずに行動する魔物だと思い込んでいた。

 倒すのが大変面倒な相手なのだが、この国の軍の人たちであればイチコロなんだろうか。


「見くびってるわけじゃないけど、私とシロとトリさんでもアレが集団だったら結構めんどくさい、よね」


 依織が今まで見てきたトゲネズミは成人の背丈を軽く超えるものばかり。

 退治したときは依織はシロと協力して塩魔法を使い、トリさんは物理的に攻撃していた。

 物理攻撃を通すためトゲを切り落とすのに苦労したトリさんは、依織が塩魔法で倒すのを見て以降、ジッとこちらを見てくるようになった。お前らがやれ、の無言の圧を感じたものである。

 そんな魔物が群れで街道を塞いでいる。

 魔物と対峙する軍の人たちも心配だし、グルヤの商会だって心配だ。

 依織を送ってくれた人たちは大変気さくで、いい人達だった。依織が渡した布のことで少々モメていた気もするが、皆会話が苦手な依織にとても優しかった。魔物の問題がなんとかならなければ彼らも商売あがったりになってしまう。

 かといって、依織がホイッとしゃしゃり出て、ハイッと解決できるかというと、チョット違う気がする。

 だってトゲネズミが群れた原因がわからない。退治するだけなら可能かもしれないが、それでは根本的解決に至らないのではないか。


「天変地異のときって、動物逃げるよね。もしかして魔物も……?」


 ザワザワと嫌な予感が胸を占めて、うまく織物に没頭できない。


「……もう早めに寝ちゃおうかな」


 この国の人間は意外と宵っ張りだ。勿論灯りの問題があるので人それぞれではあるものの、やはり日の高い時間帯は動きづらい。暑すぎるので。依織も集中してやるなら暑さが抜けた夕方以降の方が作業しやすい。

 ただ、日が落ちると共に就寝する人もいるとのことで、今依織が寝てしまってもそこまでおかしいことではない。夜はモヤモヤが増幅されてしまうから、無理なら早めに休んだ方がいい。今のような状態で続けても悲惨な作品が出来上がるだけである。


「でも、寝れなかったりして」


 寝ると決めてもそう簡単にスッと入眠できたら苦労はしない。イザークにもらった香りのいいお茶でも入れようかとキッチンへ移動する。

 シロも心配そうにポヨンポヨンと跳ねながらついてきてくれた。その様子に大変癒される。


「どうすればいいかなぁ、シロ」


 お湯を沸かしながら、シロに尋ねてみる。当然ながら返事はない。水が、お湯に変わっていく音だけが響く。

 どうするもこうするもない。ただ、連絡を待つしかないのだ。もしかしたら、その後どうなったかなんて知らされない場合もあるかもしれないけれど、そのときはどうにか聞いてみる。コミュ障だって、やるときはやれる、かもしれない。

 今依織が原因を調べに行ったところで、砂漠で迷子になるのがオチなのだから。


「実際問題として、この世界の東西南北の概念一緒かわかんないし……」


 ここは異世界だ。

 今まで気にせずに話を聞いていたが、太陽が東から昇るとは限らない。西からかもしれないし、北や南からということだってあるかもしれないではないか。ちなみに確認する勇気もない。そこまで世間知らずだったのかという目線に耐えられる気がしないので。

 ポコポコとお湯がわいたので火を消す。ちなみにこの世界には前世のコンロのような便利なものはない。火をつけるのも、火を消すのも全て魔法ですませている。幸い魔法が使えない人用に火をつける魔道具なるものはあるらしい。ただちょっとめんどくさそうなので、魔法が使えるわが身に感謝だ。あの神様に感謝はしたくないが。


「魔法が使えたって、現状をどうすればいいかっていうのはこう……知恵とか、そういうのが必要なんだよね」


 コポコポと音を立ててお湯を注ぐ。茶葉を蒸らしている間にもお茶の香りがふわりと広がって、少しだけ心が落ち着いた気がした。

 色々心配だ。グルヤも、街道のことも。今までは人の心配をしている余裕なんてなかった。自分のことだけでいっぱいいっぱいだったから。

 けれどこの世界に来て、妙に強い魔法を手に入れた。それから、信頼できる人たちと出会った。だからだろうか。もし、自分に何かできるのであれば手伝いたいと思ってしまう。


「うん、やっぱり明日、聞いてみよう。人、来てくれるかわかんないけど」


 ぐ、と手を強く握る。確かにコミュニケーション能力には多大なる難があるけれど、それでも役に立てることもあるかもしれない。


(まずは、何を聞くか考えて、あとセリフも考えなきゃ)


 そう意気込んたところで、何故か来客のベルがなった。こんな時間に、と疑問に思ったものの、反射的に玄関へと向かう。


「はい? イザーク!?」


「あ。良かった。寝てなかった。こんな時間にごめんね?」


「ど、どうし……なにか、わるいこと…!?」


 こんな時間の訪問は今までなかった。それ故に依織の頭の中に悪い想像が巡っていく。


「いや、違う違う。すごく依織が不安そうだったとイースや、あとグルヤの商会の人にも話を聞いてね。早く伝えようと思って」


「う、うん。あの、なか、どうぞ」


 とりあえず話を聞こうと一夜城の中へと促す。だが、イザークは首を横に振った。苦笑している気配もある。


「心の揺れるお誘いだけど、流石にこんな時間だからね。ここで立ち話にさせて。そう長い内容でもないから」


 そう言われてちょっと恥ずかしくなる。日も沈んだ時間に男性を招くのははしたない行為だったのかもしれない。近いうちにこの国の風習についてきちんと学ぶべきだろう。異国人、異世界人と知っている人たちが大半とはいえ、失礼はない方がいい。


「あのあとすぐに討伐隊が組まれたよ。もう既に出発している。うちには街道警備隊っていうのもいるんだけど、その話はしたっけ?」


「えぇと、商会の人が、言ってた、けど」


「なるほど。まぁ名前の通り街道を警備する専門部隊だね。うちでは魔物退治に特化している軍って言ってもいいかも。そういう、専門職が出てったから心配しないでねって伝えにきたんだ」


「良かった……」


「ただ、専門職とは言えトゲネズミの群れっていうのがちょっと、ね……」


「あ、あの……トゲネズミって、群れる?」


「依織も気になってた? そう、そこなんだよね。今まで俺はトゲネズミっていうと単体のイメージしかなかったから。依織も西のオアシスで遭ったのはそんな感じなんだよね?」


 聞かれて勢いよく頷く。イザークも同じ点を不審に思ってくれていたようで少し安心した。


「じゃあ、やっぱり少し調査してみた方がいいかもしれない。明日進言してみるよ。だから、イオリは安心してちゃんと寝てね? 進展があれば細かいことでもまた遊びに、じゃない、報告にくるよ。もし俺がこれなくても手紙出すから」


 イザークはそう言うと、依織の頭をポンポンとしてから帰っていった。イケメン接触罪という言葉が脳内で大運動会を開催したものの、安心できたのは否めない。

 その夜はイザークがきたせいですっかり忘れさられてしまった、煮出しすぎた苦いお茶をお供に眠りについたのだった。

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