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13.魔女と塩抜きの依頼

Palcyとpixivコミックにて佐藤里先生の漫画が好評連載中です!

次回更新は水曜日朝を予定しております

 ナーシルが南の鉱山へと旅立って数日。

 依織は一夜城にて、ハンドメイドを満喫していた。


(……最っっ高!! 徹夜にだけ気を付ければ、作り放題の日々……!)


 勿論来訪者はそれなりにある。イザークはラスジャを連れてしょっちゅう顔を見せに来てくれるし、イースは塩抜きの仕事の関係で来ることが多い。グルヤやその商会の人が商品を受け取りに来ることもある。

 だがそのどれも長くて3時間程度。特に一番太陽が苛烈なお昼の時間帯は避けてくれている。そのため、依織は作品を作り放題だった。いかにナーシルが入り浸っていたか、おわかりいただけたと思う。

 ただし調子にのって徹夜をすると、怒りのイケメン大魔神が召喚されてしまう。そこだけは細心の注意を払わねばならない。イケメンこわい。

 一日三食、定時に就寝。前世では考えられない健康第一な生活である。

 ただ、うーん、と伸びをすると肩がバキバキと音をたてた。肩だけでなく腰も少々凝っている気がする。これは健康に含まれるのか、要審議かもしれない。審議会場にイザークを入れる予定はないので、現時点では放置が決定している。


「ぶっ続けでやったら、うん、しょうがないよね。タイマー欲しいかも……作れるかなぁ……いやいやいや、流石にそれは、ねぇ?」


 いきなりタイマーがこの世界に現れてしまっては大騒ぎになるかもしれない。今はまだ保留にしておこう。

 それに完成品を前にすればその程度の痛みはなんのその。創作には代償もつきものなのだ。たぶん。

 今回作り上げたのは、爽やかな緑色の薄い布だ。材料は錬金術で作り上げたレーヨンと従来のコットンを混合。一応日よけのために頭部に巻くことを想定していたものだ。白のままだと前世の花嫁のヴェールが頭をよぎり、気恥ずかしくなって染めてみた。

 かなり薄いものの光にかざしても透けることはない。そして、それなりの吸水性と滑らかな肌触りがあり、なかなかの出来だと一人頷いた。


「次、塩抜きの依頼が来たら使ってみようかな。耐久性も知りたいし」


 端の処理まできちんと終わらせたものが何枚か積み重なっている。それの一つを実際に身に着けてみた。

 風通しもいいし、とても軽い。


(これに合わせた留め具を考えるのも楽しそう……。あーでも服っていうかマントとか作るのもアリかなぁ。どのくらい日差し遮れるかなぁ、これ)


 次の作品の構想が湧き上がってきて依織は顔をほころばせる。

 そんな風に浮かれていると、玄関のベルが鳴った。


「この時間だと、イザークよりは塩抜きの依頼、かな?」


 そうつぶやきながら玄関へと向かう。扉をあけると予想通りイースとその部下の人達が立っていた。


「大変申し訳ないのだが、また塩抜きの作業をしてはもらえないだろうか?」


 イースの後ろには今まで見たことのない部下さんが二人。ただし、依織の人の判別能力はトリさんといい勝負ができると思って欲しい。丙丁つけがたい戦いになるに違いない。人外レベルの認識能力という時点で大変悲しいものがある。

 ともかく、見覚えのない人がいる。どうにか軽く会釈はしたものの、とても緊張してしまう。


「ぅえ、あ、はいぃ」


 緊張が声にも現れてしまったがこれは不可抗力だろう。どうかそんな心配そうに見つめないで欲しい。いたたまれなくなるから。


「あの、じゅ、じゅんび、してくる、ます」


 視線から逃げるようにバタバタと室内に戻る。先程までウキウキで手に取っていた新作の布をまとい、以前イザークに貰ったヘアピンで留める。


(早めのおためし、イイコト、だよね。日光に負けない布だといいな)


 そんなことを考えつつ、シロをかかえてイースのラクダに乗せてもらった。

 

「今回は、町の北のはずれの方にある水源をお願いしたい」


「わかりました」


 イースとの二人乗りは、なんとかギリギリ慣れた。少なくとも失神はしていない。会話が噛み合うことも、若干増えた、気がする。コミュ障はナメクジの歩みレベルではあるが成長しているのだ。


「ぉわ……?」


 基本魔女の一夜城に引きこもっている依織にとって、この任務は結構楽しかったりする。町並みを見るのはとても楽しいのだ。ただ、今日は少し急ぎ気味なのか、いつもよりラクダの背が揺れる。


「今は王都の端を移動しています。街中を歩くとイオリ殿は少々目立ちますので」


「そか、肌の色、とか」


 褐色の人々に依織が交じると確かに目立つだろう。異国人は珍しくないかもしれないが、それが砂漠の魔女だと別かもしれない。

 大勢の視線に晒される可能性はできる限り避けたい。イースの気遣いはありがたかった。


「あまり人が集まってくるのは得意ではないでしょう? もし街中を見学したいのであればその旨イザーク様に伝えますが。その場合は馬車を使うことになるかと」


「あ、いえ。だいじょぶ、です」


 元々忙しいイザークにそんなことはさせられない。それに馬車という密室でいったいコミュ障に何を話せというのか。

 街の様子に興味はあったが、依織としては断念せざるをえなかった。

 人を避けて、ラクダは進む。

 目的地に近くなってきたのか、徐々に建物が増えてきた。


「北は、倉庫とか、多いんでしたっけ?」


「えぇ、そのとおりです。商会の倉庫や、キャラバンの休息場など。あぁ、あとラクダや馬の厩舎も多い」


「ラクダ……」


 一人で乗れるようになった方が迷惑をかけずにすむのだが、練習したいと言い出すのはとても気が引けた。コミュ障であることはもちろんだが、依織はあまり運動神経の方もよろしくないからだ。

 自分が一人でラクダを乗りこなすビジョンが全く浮かばない。大変悲しくなる。


「ソルトスライムのテイムがなかなか難しいらしい。何度も手数をかけてすまないな」


 やはり魔物を使役するというのは難しいらしい。実際依織だって、シロとトリさんを使役しているわけではない。ただのトモダチだ。それはそれで難易度が高いかもしれないけれど。


「無理やりテイムしようとして頭から塩まみれになったやつもいるからな。ソルトスライムもただのスライムから変化した上位種族なのだからテイムが大変なのも当然かも知れないが」


 シロは、見ている限りだいぶ温厚なソルトスライムである。楽しそうに日光浴をしているかと思えば、そのまま寝ているんじゃないかという時もある。愚痴を言っても全て受け止めてくれるぽよぽよむにむにとした柔らかさは大変魅力的だ。だがそれはシロの特性であってそれとスライム全般がそうであるとは限らないらしい。


「イオリ殿になついている二匹はどちらもかなり温厚なようだ」


 その話を聞いて少し笑ってしまいそうになる。イースはこの前トリさんに怪我をさせられたばかりなのに。


(トリさんは結構短気な気が……。普通の魔物ってよくわからないから比べられないけど)


「しかも今はテイマーが別件で出払っていてな。イオリ殿には苦労をかける」


「え、あ、いえ。へいき」


「そういってもらえると助かる」


 どうしてテイマーたちがいないのだろうとは思うものの、そこで疑問を言えればコミュ障ではない。不思議に思いつつも、その話はそこで終わった。

 目的地に着いたからだ。

 場所が変わっても塩抜きでやることは変わらない。シロと分担を決めてそこにある塩水から塩を抜くだけ。

 錬金術も慣れたもので、今はシロと力を合わせれば、前のオアシスの倍くらいの広さは簡単に塩抜きできるようになった。


(使っていると魔法も上達するのかな? それとも、練習もせずアレだったのが相当アレでアレなのかな……。どうしよう想像上のナーシルがめちゃくちゃうなずいてる)


 ナーシルの幻覚に気を取られつつも、今回も特に問題なく塩抜きが終わった。

 ひと仕事終えたシロも、心なしか誇らしげだ。あとはまたラクダに乗せてもらい帰路に着けばいい。

 そう思っていた矢先、遠くから悲鳴が聞こえてきた。どこからだろうと依織が辺りを見回すより早く、イースが部下たちに指示を飛ばす。


「周囲を警戒しろ! イオリ殿の安全が最優先だ!」


 そんなことを口に出されてしまい、大変いたたまれなくなる。


(私を守るために誰かが怪我するくらいなら私魔法ぶっ放しますからぁ……って言いたいけど、相手もわからないし。あううう)


 魔物相手であれば、依織が一発ぶちかました方が早い気がする。が、そう思った時点で屈強な男たちに守られ、周囲の様子がわからなくなってしまった。流石軍人の皆さま、背も高ければ体格も良い。

 変なことに感心していると、切羽詰まった男性の声が聞こえてきた。


「た、助けてくれ! 魔物が――」

【お願い】


このお話が少しでもお気に召しましたら、本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです!


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ブックマークも是非よろしくおねがいいたします


漫画のはパルシィとpixivコミックにて好評連載中です!

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