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閑話 キラキラしい男たちの帰路

講談社女性向けコミックアプリ『Palcy』にて毎週金曜日に好評連載中です!

 荷物の受け渡しがすんだあと。イザークたちは王宮へ戻るべくラクダをすすめる。

 日は傾いており、砂漠の町は赤く染まり始めている。王都ルフルは今の時間帯から活気が増していく。日差しが和らぎ、活動がしやすくなるからだ。

 乾燥した風が、塩混じりの砂を巻き上げ人々の間を通り抜けていく。昼間の熱気が吹き飛ばされていくようだった。


「どう思う?」


 ゆったりと歩くラクダの上で、イザークは二人に問いかけた。

 彼らは都民にも顔が知れているので、時折挨拶をうける。笑顔で手をふりかえしながら真面目な話をするというのも、もう慣れた動作だ。

 少しの間ののちにイースが言葉を返してくる。


「少なくともナーシルに漏らすのはやめたほうが良いかと」


「オレもそれに一票ッス」


 ラスジャもイースの言葉にのっかったが、イザーク自身も同じように考えていた。

 白紙の本の話題が出たあとから、依織は面白いほどに不自然だった。普段から挙動不審ではあるものの、今日は輪をかけておかしかった。

 どう考えてもあの本が原因だ。


「そうだな。泣かせたくはない」


 ただでさえ今依織は半泣き状態でナーシルの魔法解析に付き合っている。バカでかい塩の塊を瞬時に作り上げることはできても、その理論を彼女は知らないのだ。基礎も何もかもすっとばしたその魔法の解析は今のところ難航している。

 その原因の一つはナーシルと依織の相性かもしれない。

 ナーシルは魔法解析の際、大変イキイキとしている。それ自体は悪いことではないのだが、彼は魔法に関して人一倍、いや十倍くらい熱心だ。

 魔法に関してはとにかく見境がない。話し始めるとやめられない止まらない。

 今までは砂漠の魔女というVIPに対する遠慮がほんの僅かながらあったものの、現在は王命を受けて彼女の魔法を解析している。要するに、大義名分を得てしまったわけだ。彼の歯止めを取り去ってしまった形となる。

 コミュニケーションが困難な依織と、魔法に関して歯止めが効かないナーシル。相性が良いわけがない。

 そこで更にあの見えない魔法の本の存在を知ったらどうなるか。

 ギリギリかろうじてほんの少しだけ残っていた自重が遠い彼方へと飛んでいくに決まっている。下手をしたら魔女の一夜城に住み込みかねない。


「泣くだけではなく、そのまま逃げられても困るのでは?」


 流石にそんな蛮行は何を使ってでも阻止するつもりだ。だがそうでなくとも、ナーシルの圧がこれ以上強くなれば、依織は逃げてしまうかもしれない。


「イオリさんだと何処ででも生きれるからありえちゃうんスよね」


 依織と言えば怯えて泣き出しそうな表情が真っ先に浮かぶが、その実力は恐らく軍が束になってかかっても敵わないだろうことはわかっている。なにしろあの隊長、もとい、この国の将軍を秒でぶっとばした実力の持ち主だ。逃げようと思えばいくらでも逃げられるはず。


「ですが、神様直伝の魔法とやらは惜しいのでは?」


 本は自分たちには白紙に見えた。けれど、依織の挙動から察するに彼女にだけは見えているのだろう。それが三人の共通見解だった。

 自分たちが見たことも聞いたこともない魔法が存在するかもしれない。


「そりゃ王家に連なる者としてはそうなんだけどね。俺個人で言えば正直なんとも」


「まぁ、そうですね。神様、と言われても国の大半の者はピンときますまい」


 この国のある砂漠は『神に見捨てられた地』とも呼ばれていた。いや、今も口さがない人間や信心深い者はそう声高に言うこともある。

 そんな地に根を下ろしたこの国の始祖は、だからこそ人気が高い。


『祈っても助けてくれない神を頼るな』


 そんな国風だからこそ、他国で罪を犯したならず者が逃げてくるという一面があるのは否定できないが。


「イオリさん、この国にきたのはよかったのか悪かったのか。微妙なところッスよね」


「信心深い国ならば、神子あるいは聖女とでも呼ばれて崇められていただろうな」


「それで毎日人に押しかけられて、常に張り付かれて〜って、イオリさんそんな環境ならストレスでひっくり返っちゃいそうッスよね」


「どうだろう? あの国でポロっと神様に転生させられました、とか言っちゃったら不敬な輩めって殺されそうじゃないか? 逃げられるとは思うけど。うーん、やっぱウチにいた方がイオリも幸せだと思う」


 依織の出生については、国王と一部のメンバーしか知らされていない。あまり公にすることではないと依織自身も自覚しているようで話が漏れる気配はなかった。

 本人の平和のためにも『謎の魔女様』でいた方がよいだろう、と周囲の意見は一致している。


「そう思っていただけるように、もう少し彼女自身にも知識をつけてもらうべきかと」


 彼女はこの世界の常識にとても疎い。イザークが思うに彼女の前世の世界はここと全然違うのだろう。その後はあのオアシスでのサバイバル生活。無理からぬことだし、こちらの常識を押し付けたいとは思わない。

 それはそれとして、あまりにズレていると本人が気にしそうなので、今徐々に教えているところだ。その歩みはかなりゆっくりになってしまっているが。


「おいおいね。さりげなく雑談交えて教えてるところ。ナーシルが毎日押しかけてるところに一般常識の授業したらパンクしちゃうでしょ」


「パンクというか、見知らぬ人間に講義をされても、いつもの彼女の様子からすると講義内容が頭に入らない気はしますね。……そもそも講義になるのか」


「いやぁ……ムリムリ。それに興味のない勉強って苦痛なだけじゃないッスか? この前話したこの国の地理だって制作物の素材があるかもってことで食いついてくれたワケですし。イースさんだって戦術本は興味あっても経理の本読みたいと思います?」


「……人には向き不向きがあるな」


 イースがスッと顔をそらす。その様子がおかしくてイザークとラスジャは少し笑ってしまった。


「イオリに何が向いているかはわからないけど、少なくとも人付き合いは完全に向いてないんだよね」


「そッスねー。そもそも人付き合い大丈夫そうだったら王宮にいてもらったほうが色々楽ですし」


 死のオアシスに押しかけたメンバーであれば、ギリギリ名前と顔を覚えて怯えずにすんでいる。そんな印象がある。

 グルヤは押しかけメンバーではないが、彼女が恩を感じているようなので特例だ。彼女の中で、ものづくりで生計を立てるというのは強いこだわりがあるのだろう。だから、そこは尊重したいと思っている。


「そうそう。だからこそ俺が足しげく通ってるわけ。ちょっと入り浸ってるのは目をつぶってほしいねぇ」


「そこに私情は?」


「アリかナシで言えばオオアリッスね。スケジュール調整するこっちの身にもなってほしいんスけどー?」


「おっとそろそろ着くね~。さて残りのお仕事やっちゃいますか~」


 ヘラリと笑ってあからさまに話題をそらすイザーク。イースとラスジャはわざとらしく大きなため息をついてから、そのあとに続いた。

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