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7.魔女と神様の本

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「こちらの本なのだが……白紙なのは元からだろうか? 何らかの要因で劣化してしまったのか?」


 そんなことを聞かれて依織は一瞬何を言われたかわからなかった。

 これはコミュ障をこじらせ、イケボ耐性が低い依織の耳がバグったからというわけではない。断じてない。確かにそういうときがあるのは否定しないが、依織だって聞き取れることもあるのだ。

 だが、思わず聞き返してしまう。


「えっ?」


 だって、イースが見せてくれた本にはびっしりと文字が書いてあるから。

 この国のレベルからするとちょっぴりお高そうな良い紙が紐でガッチリととめられ、豪華な装丁がされている本だ。その開いて見せられた紙自体は淡いクリーム色だが、そこに黒々としたインクで色々書かれている。もちろんイースの指がおさえている部分の下にもだ。内容は『治癒魔法について』となっている。あとで読むのもありかもしれない。もしそんな魔法も使えたら何かのときに役立つ可能性がある。

 だが今向き合わなければならない問題はそこではなく。


(えっなに? ドッキリ? コミュ障には理解できない冗談とか? 砂漠ジョーク? そんなんあるの? で、でも他の誰かならともかくイースさんがそんな冗談言うはずないし……)


 イースの表情は至って真面目で、こちらをからかうような雰囲気は微塵もない。かつて悪質ドッキリをしかけてきたいじめっ子たちとは全然違う。そもそもイースはいじめっ子がいたら淡々と叱ってくれそうなイメージだ。間違ってもドッキリをするタイプではない。

 だから彼には本当にこの文字が見えてないのだろう。

 この場合、おかしいのは依織の目の方なのだろうか。

 次々に疑問が湧いてきて、依織はフリーズしてしまった。そこへ依織の異変を感じ取ったらしいイザークが声をかけてきた。


「どうかしたのか?」


「こちらの白紙の本もイオリ殿の持ち物かと確認していたのですがその……固まってしまい……」


 イースも困惑しているが、依織だって困惑ワクワクワケワカメだ。

 しかしふと、依織の脳みそに浮かんだことがある。

 イースが手にしているのは、依織がこの世界に転生した際にもらった神様の本だ。その中には砂漠での生活を楽にする様々な知恵が書かれている。その割にまともに読んだのは錬金術の項目ばかりだが。


(そうだよ、私も考えてたじゃない。技術とか魔法とか、ならず者に悪用されたらどうしようって)


 そんな爆弾のようなモノを、神様がなんの処置も施さないなんてありえるだろうか。


「あの、えと……イザークは、本、どう……見える?」


 生まれた疑念を確かめるために、イザークにも尋ねる。別に依織が悪いことをしているわけではないのだが、妙に心臓がバクバクした。

 おかしな緊張をしている依織をイザークはどう思ったのだろう。依織は普段から様子がおかしいから気にしていないのか、それとも、気にはなるけど王族ポーカーフェイスを発動しているのか。もし前者だとするとちょっぴり悲しい。


「どうって、白紙の本、かな? 紙の質はとても良いけど」


 やっぱり! と依織の頭に雷が落ちた。ピシャーンゴロゴロといった効果音まで聞こえてきそうである。ただし、あくまで依織の心象風景での話。


「ん、わ、わかった」


(やっぱり皆には見えないんだ……。つまり、情報漏洩するなら私ってこと!? なんでそんな責任重大なことを……あ、コミュ障だから人に伝達できないと思ったとか!? だから転生者に選ばれたの!?)


 正解かどうかはまさしく神のみぞ知ることだろう。だが、もしこの仮説が正解であれば思い切り塩をぶつけてやりたい。悪神退散。

 もっとも、魔法の使い方は神様から教わっているので効かない気がするけれど、何か一矢報いないと気がすまない。


「イオリ?」

「ひぃ!? な、なんでもない! だいじょぶ」


 傍から見れば何一つ大丈夫ではないのだが、依織はそれに気づけない。

 どうしたものかとイザークとイースが目で会話をする。


(気にはなりますが、お任せします)

(そりゃもちろん。砂漠の魔女様担当は俺だからね。譲る気はないよ)

(……ゆめゆめ仕事に影響が出ないようご注意ください)


 目の前の無言のやりとりにまったく気付かず、依織はぐるぐると考え始める。こんな大きな秘密をどうやって守り抜けばいいのか。

 そして同時に気づいてしまった事がある。


(ナーシルに本を渡して逃げるという選択肢はこれでなくなったってことよね。つまり、これからもあの突撃を受け続けなきゃ、ということで……。まさかこの世界のために私が公害ならぬイケメン害の犠牲になるなんて……うううやだよう、イケメンこわいー!!)


 自分の世界に籠ってしまった依織を見つめながら、イザークは苦笑した。


「イオリ、こっちの束はどうする? なにかのメモっぽいけど」


「ひええ、ごめんなさい! すみませんでした!」


 思わず謝罪の言葉が口をついて出たが、もしかして不自然だろうか。いや普段から『謝り癖、なおらないねぇ』と苦笑されてはいるけれど。


(あやしまれちゃいけない、ふつうにふつうに、ふつうってなに!? 謝り倒していた方が実は私の普通なのでは!?)


 ある意味では正しいかもしれないが、いくらコミュ障の依織であっても質問に謝罪を返すなんていうことは……あるかもしれない。あるかもしれないが、それでもヒトとして、きちんと受け答えをしなければ。

 そんな思いで頭をフル回転させる。フル空回りともいう。


「メモ! メモは! あ、あとでなんとか」


「重くないかい?」


「ワ、ワタシ、ちからもち!」


 傍から見れば大嘘だ。依織の腕はこの中の誰よりも細い。しかし、砂漠の魔女である依織なら、魔法の力技で解決する可能性も否定できない。

 依織の人見知りっぷりをあまり知らないイースの部下たちは、困った顔で上官を見つめる。


「お前たちはこの部屋の入り口まで荷物を頼めるか。配置するのは俺とイザーク殿でやろう」


 部下に気を使ったイースは彼らにそう指示を出した。自覚はしていなかったが、知らない人たちが大勢出入りしていたこともちょっとしたストレスになっていたかもしれない。


「あ、あの、すみません」


「気にしないで大丈夫だよ。とりあえず大雑把にでいいから荷物分類して置いておこうか」


「ひゃい」


 どれだけ挙動不審であっても、いつものメンバーは気にしないでいてくれる。慣れた、というべきか。

 その対応に少しずつ依織も落ち着いていった。


「そのうち棚を頼むことも検討したほうが良いかもしれないな」


「あ、あ、つ、つくる、ます」


 棚を頼むということは、人様に迷惑をかけるということ。そう脳内で変換した依織はすぐさま棚作りに取り掛かる。魔力を流して砂岩を変形させた。その間宣言してからわずか数秒。

 ナーシルがいれば「だから、解析のためにゆっくりやってくださいといつもいってるじゃないですか」と嘆かれること請け合いだ。

 ナーシルが帰っていて大変よかった。


「さっすが砂漠の魔女様~。んじゃポンポン置いてっちまいますね~」


「あまり重いものはあげぬ方が良いだろうな」


 その後なんとか、いつも通りに近い状態で荷物の配置を終えることができた。


(あやしまれてない、よね? ふつうの態度、がんばった……もう今日は早めに寝ちゃおう。ものすっごい疲れた……)


「それじゃ、またね」


 手を振り王宮へと戻る彼らを見送ると、依織はそのままベッドに吸い込まれたのだった。

【お願い】


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