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5.魔女とオアシスの荷物

講談社女性向けコミックアプリ『Palcy』にて毎週金曜日に好評連載中です

「イオリ殿。忙しい時間にすまない……ん? なんだ、ラスジャ殿か」


 魔女の一夜城への来客はイースだった。それから


「トリさん!? えっなんで、あああこうげきしないでえええ!!」


 依織のお友達のトリさんだ。

 トリさんはネーミングセンスが欠片もない名前とは裏腹に大変威厳のある鳥類である。ガルーダと呼ばれる種族の魔物であり、通常人に懐くことはほとんどない。魔物使いが使役しようとするのであれば命を三つ用意しろと言われるほどだ。そんな彼(?)がイースとともに現れ、彼の部下を威嚇している状態だ。部下たちは顔色を変えないように努めてはいる。が、中には真っ青になっている人もいる。

 確かに、トリさんの顔はちょっとこわい。


(トリさんの無礼は私の無礼! 一緒に討伐されちゃったらどうするのー!?)


 依織の悲鳴のような声を聞くと、一度トリさんはおとなしくなる。それでも低く唸っているので迫力満点だ。やはり顔がこわい。イケメンの次くらいにこわい。


「一応声をかけて説得を試みたのだが、彼は人の区別がつきづらいようでね。なだめて貰えて助かるよ」


「あっ……あっ……血、血が……」


 イースが腕を上げた際にチラリと赤色が見えてしまった。トリさんの爪がひっかかったのだろうか。

 まさかうちのトリさんが人様に怪我をさせるなんて、とクラリとしてしまう。が、よく考えたら、あのオアシスでも真っ先にならず者たちをバッサバッサ薙ぎ払ってたのはトリさんだ。逆にかすり傷だけなのであれば、手加減はしてたのか。それともイースが強いのか。


「本気のガルーダ相手だとこんなものではすまないので心配はいりません。トリさんでなければかまいたちで切り刻まれてるでしょうからね」


「治癒は必要か?」


「かすり傷ですので」


 イザークの問いにイースは苦笑しながら応える。


「えっ、で、でもなん、なんで?」


「実はイザーク様の命でイオリ殿の荷物をとりにいったのです。その様子を盗賊と勘違いされたのでしょう」


「あぁそうか。トリさんはイオリのオアシスを守ってくれていたんだった。イオリを驚かせたかったのだがその点を失念していたよ。すまないな。全員に詫びとして報酬をはずむよ」


「そうしてくださると部下が喜びます。何せガルーダの不意打ちでしたのでね。彼が我々の装束を覚えていてくれて助かりました。言葉もなんとなくは通じるようですしね。トリさんもこれでわかっていただけただろうか?」


 そうイースが問いかけるとギョエエとトリさんが返事をする。ちょっと申し訳なさそうに頭を下げた。ごめんなさいが出来る良いトリである。

 その後、自分の仕事は終わったとばかりにどこかへと飛んで行った。ナワバリのパトロールに戻るのだろう。


(そういえばトリさんもだけど、イースさんも暫く会ってなかったかも? 何か別の用事あったのかなとかのんきにしてたけど……私の荷物!? どゆこと!?)


 イースはオアシスの塩抜き作業に行く際によく護衛兼案内としてついてきてくれる人だ。暇さえあれば突撃してくるイザークやナーシルの次に会うことが多い人物かもしれない。ただし、彼の場合は王命でありきちんとした仕事だ。

 以前イースは自分のことを身分がないとか言っていたが、それは大嘘である。というか、依織の住んでいたオアシスに来たメンツは全員がなんらかの偉そうな役職についている人ばかりだった。以前ぶっとばしてしまった隊長さんなんか、この国の将軍とかいう役職らしい。それを知ったときは心の底から「無礼打ちされなくて本当に良かった」と思ったものである。


「それにしても皆こちらにおいででしたか。仕事は……」


 少し顔を顰めるイース。

 彼は依織に関わる面々の中では年嵩の方であり、大変真面目な雰囲気がただよう人物である。実際に彼は真面目で口数も少なく、言われた任務を着実にこなすタイプなのは今までの付き合いでわかっている。無茶ぶりも、無駄なキラキラのばらまきもしない。任務を終えたら丁寧にお礼を言って即座に去ってくれるので大変ありがたい存在である。イケメンの過剰摂取をしなくてすむのだ。

 ただ、そのせいで以前かけてくれた言葉のお礼を言いそびれているという事実はある。出会ったばかりのころ、魔力切れを起こしてぶっ倒れた依織に、その真面目な性格からフォローするような言葉をかけてくれたのだ。その言葉で、依織は少し前向きになった。当社比で。あくまで当社比で。


(お礼、言いそびれてるんだよね。なんかそろそろ時効というか賞味期限切れっていうか……いまさら? ってなりそう。真面目で優しい人だから態度には出さない気はするけど)


 そんな彼なので、用事もなく依織の家にたむろってる姿はあまり好ましくうつらないのだろう。確かに国のお偉いさんと呼べる人たちがこうやって集まってるのはあまり良くないはずだ。ここに居座っている分だけ仕事が滞ってしまう。

 とはいえ、一人ブラック企業と化していたハンドメイド作家の依織からすると、息抜きの重要性はわかっている。なのでなんとも言い難い。王族だろうとお偉い肩書があろうと、休憩は大事だ。是非依織に関係のないところで肩の力を抜いてほしいものである。

 一方人見知りコミュ障の依織はいつだって『帰ってほしい』と切実に願っている。キラキラは体に良くない。乙女心は万華鏡だ。


(そういえば万華鏡を作るのもいいかもしれない……何で代用したらできるかなぁ……)


 イケメンの過剰摂取のせいで精神が追い込まれてきた依織は、ハンドメイド作品のアイデアに思いを馳せて現実逃避をはかる。やはり過剰な人付き合いは健全な精神を損なう。

 そんな依織をよそに問いかけられた面々は少々渋面だ。


「今の僕のメインの仕事はイオリさんの魔法解析なんで」

「あらかた終わらせてからこちらに来ている」


 イースの問に答えたのはナーシルとイザーク。ただし、その目線は明後日の方を向いている。

 本当に? と問い質したい気持ちはある。が、口にはしないできない無理。


「オレはイザーク様がそう言い張るんで仕方なくッスね〜」


 気まずそうな二人に対して、あっけらかんと言い放ったのはラスジャだ。確かにイザークのお付きがメインの仕事であればそれは事実だろう。それに本当に仕事がまずい時は止めていると聞いたことがある。

 イケメンでコミュ力があって有能。たいへんズルイので、顔面隠しの刑に処されてほしい。依織の周囲にいるときだけでいいので。


「くそっ! ラスジャ裏切ったな!?」


「……民を泣かさぬようお願い申し上げる」


 色々苦言を呈したいところではあるが、身分的にはイザークが上。イースは言葉を選んで告げる。ラスジャの注意はさらっと流すイザークではあるが、イースの言葉はちょっと効くらしい。咎められた子供のような表情になった。だがそれもすぐに覆い隠して話を変える。顔面が器用なイケメンだ。


「それはもちろん。ところでイースは……あぁそうか。戻ってきたのか。首尾は?」


「大方はつつがなく。確認は必要ですが」


 話が見えないのでもしかしたら仕事の関係なのだろうか。であれば無関係な依織は部屋に戻ってもいいだろうか。むしろ皆様が王宮へお戻りください案件だ。息抜きは十分できたと思う。

 ジャンルの違うイケメンを浴びすぎて(イケメンを浴びるとは?)依織のライフは限りなくゼロに近い。みんなその顔面をしまえ。


「イオリ殿、今荷物を運び込める部屋はあるだろうか?」


「ひぇっ!?」


 逃避していたところに、突然イースに話をふられて飛び上がってしまう。彼もまたイザークとは別系統のイケメンボイスだ。落ち着いた低音の魅力満載なので声をかける前に合図をしてほしい。それかボイスチェンジャーを使ってほしい。耳の準備がいる。

 イケボに驚きすぎて、何を聞かれたのかを把握できなかった。すると、それを察したのかラスジャが代わりに返答してくれた。


「荷物? それなら倉庫に使ってる部屋が一番じゃないッスかね?」


「わかった。どの部屋だろう? イオリさんは中身の確認を頼む」


「えっ? あっ!」


 そこでやっと脳内で彼らの話が繋がった。

 イースとその部下たちがこの一夜城にオアシスの小屋にあった荷物を運びこみたいということなのだ。


(あああああ私の理解が遅いばかりにイースさんの部下さんたちを日干しに!!!)


 ギラギラと照り付ける太陽。そのうえ、トリさんに襲われた彼らはひどく疲れているに違いない。今すぐ丁寧に土下座をしたい気持ちになったが、彼らに必要なのは土下座よりも一刻も早く日陰に入ることだろう。

 そうして上手く言葉をかけられないまま、依織は仕事をする彼らを見守ることになった。


【お願い】


このお話が少しでもお気に召しましたら、本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです!


作者のモチベに繋がります。


ブックマークも是非よろしくお願いします!


Palcyにて漫画が配信開始です。何卒宜しくお願い致します!

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