4.魔女とお茶会②
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「おーい、イオリ~。戻ってきて~」
「ひぇっ!? はい!」
「さっきまでグルヤさんがいたんですよね。彼から貰った素材に思いを馳せてたとかそんな感じですかね?」
ナーシルに図星をさされて、口にしかけたお茶を吹きそうになる。そんなに自分はわかりやすいだろうか。
「グルヤなら魔物素材も色々輸入しているからなぁ。この国の魔物も何か活用できればいいのに。精々大型のヤツの体内で魔石が育ってるくらいなんだよね」
「魔石がまぁまぁの値段で売れるからまだマシかと。でもやっぱ他の国の魔物は色々副産物があっていいなぁとは思いますよ」
「副産物?」
思い浮かぶのは前世のゲーム。学生時代はクラスメイトたちがこぞってハマッたゲームがあり、その会話を聞いて自分もこっそり楽しんでいたものだ。モンスターを倒すと経験値とお金とたまにドロップ品があるらしい、とか。そんな風にこの世界の魔物も何かを落とすことがあるのだろうか。
少なくとも今まで依織は見たことがないけれど。
「イオリさんが小躍りしてた魔物産の糸はまさにそういう副産物ですよ。あれは隣国の森林に住むジャイアントスパイダーから採れるものなので。最近養殖に成功したとかで少しずつ出回ってますよね」
「!?」
あの伸縮性抜群の糸が蜘蛛の糸だとは。蜘蛛そのものには会いたくないが、糸が取れるなら少し頑張って会ってみてもいいかもしれない。
隣国に行ける日が来るとは思えないという問題点は一旦置いておく。
「とっても美味しい食用肉になる魔物とかもいるよ。一部は品種改良して飼われてたり、魔物使いが管理したりもしてるね」
「それに引き換えうちの国にいる魔物はなんの役にも立ってくれない上に強いんスからやってられないッスよねぇ」
「そ、そうなの?」
「いやだってサソリとか蛇とか」
「……食べれる、よ? おいしくは、ないかもだけど……」
サソリと蛇はオアシスに住んでいた頃、依織の主なたんぱく質の摂取元だった。確かに、味は美味しいとは言い切れないけれど、飲み込めないほどまずくもないはずだ。
だが、そうのたまう依織に男性陣は曖昧な笑みを浮かべる。やはり国のお偉い職に就いている人たちからすると、ちょっと信じられないのだろう。野蛮だと思われているかもしれない。
(うう……視線が痛い気がする。で、でも食べ物がそれしかなかったら食べるよねぇ! ……そういえば蛇革の財布とか前世では高価だったイメージあるけどこの世界はどうなのかな?)
依織がいたたまれない空気から現実逃避していると、ラスジャが慌てて話題をふってきた。
「……あ、ほら。ソルジャーアントとかのアント系列は食べられないッスよ。……食べられないッスよね!?」
「あの、硬いやつ……。あれって、すごく硬い、から……防具素材にはならない、かな?」
「確かに硬いんだけど、素材として利用するにはキズをつけずに討伐しなきゃならないだろう?」
イザークの言うことももっともだ。ソルジャーアントは二足歩行するアリで、まともに戦うとその体力の多さに苦戦する。ただし、依織はまともに戦ったことがない。
「塩で、その……塞げば」
依織が自分の討伐の仕方を口にする。三人の脳裏に呼吸する術を奪われてピクピクと窒息するソルジャーアントが鮮明に浮かんだらしい。どんな生物でも呼吸を奪われたら最後、その先に待っているのは死のみだ。
「それが出来れば確かに有効活用できそうではあるよね。サンドワームも……あ、ごめん。そんな顔しないで」
サンドワームは依織が一番苦手な魔物だ。どれくらい苦手かというと今すぐ目の前から消え去ってほしくて魔法を暴発させそうになるくらいに苦手である。現時点で金輪際出会いたくない魔物ナンバーワンだ。願わくばこのランキングが更新されませんように。……フラグの匂いがするとは言ってはいけない。
「あぁ、そうか。イオリさんは住んでたのが西の方だからっていうのもありますよね」
「?」
「そういえばそうか。王都の西側の魔物は比較的強くないんだ」
「なるほど。だから、暮らしやすかった」
「不毛の地が暮らしやすいっていうのはイオリくらいだろうね」
「東は、強い、の?」
「強いというか……でかい? イオリが住んでいた方面は死の砂漠って言われてたって話は知ってるよね?」
それは神様からも聞いていたため事前情報としては知っていた。頷いてみせるとイザークは言葉を続ける。
「イオリの住んでたオアシスを抜けると、あとは塩と砂が延々と続いて、最後に海にでる。当然だけど水を補給できる場所なんかないから生物が生きていけないんだ。勿論魔物も。生きてられるのはシロみたいなソルトスライムか、小さな生物を糧にできる小さな魔物くらい」
「逆に東側に進むとちょこっとだけ緑があるんスよ。緑っていっても今にも枯れそうな草とか、背の低い木なんスけどね。でもそういうのが自生できるってことは多少の水があって、そうなると動物とかもいるワケで」
「そういうのを食べて栄養たっぷりに育った巨大ネズミに巨大アリ、巨大サソリに巨大サンドワームが東の砂漠にいるんだ」
「ひえっ」
砂漠で見かけたときにバカでかい虫だこわいと思ったサンドワームの、更に巨大なやつ。聞いただけで鳥肌が立ってしまった。
「他に比較的よく見かけて、てこずるのはガルーダかな。トリさんが同族を説得してくれてるのか、最近は全然見なくなったけど」
「建国時にはキメラにマンティコア、コカトリスもいたって話ですよね。あとドラゴンにジンでしたっけ?」
ラスジャが並べたのは、そういった魔物に疎い依織でも名前は聞いたことのあるものたちばかりだ。前世の物語やゲームで大活躍してきたモンスターたちがこのあたりにいたらしい。
「そうそう。俺の伯父さん、デーヴァター三世のご先祖様がそういった伝説級の魔物をバッタバッタとなぎ倒して建国したっていうのがうちの国の成り立ちなんだ」
「な、なるほど。すごく、強い人」
依織の中で王様のご先祖様は、筋肉ムキムキのボディビルダーが王冠をかぶったイメージになってしまった。
「流石に眉唾だとは思うけど、でもやっぱそういう冒険譚には憧れるよね。流浪の果てに強い魔物をなぎ倒して根を下ろしたっていうのは。もしよかったらクウォルフの建国記読んでみて」
「子供にも大人気の寝物語なんですよ。僕は始祖様のパーティにいる魔法使いの話の方が好きですけど」
さすがナーシル。ぶれない。しかしそういった冒険譚は確かに楽しそうだ。今後グルヤにお願いしてみるのもいいかもしれない。
お願いが口にできるとは限らないが。
「今は、その魔物とか、いない?」
「いないよ……と、言い切れないのがなんともだね」
「え?」
「どの国もそうだけど隅々まで目が行き届いてるわけじゃないんだよね。うちはその範囲がちょっと広め、かな。それこそ、ならず者が住み着いちゃうくらいには」
「人里離れた遠くに生息してるって言われても不思議ではないって感じですね。ジンとか居たらいいんですけど。是非目の前で魔法を使ってもらいたい」
「いや、それ王都壊滅フラグだからヤメテ!?」
伝説級の魔物に魔法を使われたらどう考えても壊滅フラグだ。ただ、そんな危険な魔物がいるところに神様が依織を放り込むことはありえない。よくわからないけれど、依織をこの世界に転生させた神様は依織に長生きしてほしいらしいので。
(ちょっと魔法を与えたくらいの凡人がそんな強そうなモンスターに勝てるわけないもんね)
そんなことを考えていると、また来客を告げるベルが鳴った。
「……?」
「今日は来客多い日ッスね。オレが行きます?」
普段来るメンバーはもう既に会っている。これ以上魔女の一夜城を訪れるメンバーがいるとは思えなくて首を傾げるとラスジャがそう提案してくれた。
「え、えと……」
「悪いが頼めるかラスジャ。俺に伝令かもしれないし」
「了解ッス」
頼まれたラスジャがフットワーク軽く腰を上げた。
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