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4.コミュ障とキラキラ男


 やらかした。

 大変やらかしました。本当にありがとうございました。

 はい、実は彼らの会話を聞いてしまったんです。

 勿論わざとではなく。水がどのくらい要るのかわからなかったので、普段使わない瓶に入れてえっちらおっちら運んでいたときに、偶然。


『……ここまでの行軍の間に使用したものがあるのですが』


 私が差し出した布を見て困惑気味に言う隊長さんと呼ばれる人。それに苦笑を返すイケメン。


(や、やってしまった…。私転生しても何も変わらない…。

 テンパリすぎて空回りするやつ!!)


 前世の頃からなかなか治らない悪癖だ。良かれと思ってこちらはしているものの、コミュニケーションが不足しすぎているため、不必要な押しつけをしてしまうやつ。所謂ありがた迷惑、といった行為だ。


「穴があったら埋まりたい…ここは砂漠…。埋ま…ったら熱いからやらないけど」


 あまりのショックに瓶をどこかに置き忘れてフラフラと家に帰ってきてしまった。もうやだ、やはり引きこもりたい。誰とも会わずに引きこもりたい。

 切実に心からそう思うけれど、現実は待ってはくれない。

 自分のふがいなさを床にへたり込んで嘆いていたら結構な時間が経っていた。

 コンコンというノックの音で我に返る。


「魔女殿、もしかしてあの瓶の水は使ってもいいのかな?

 だとしたらありがとう。ところで話があるのだけど…話せるかい?」


「ひゃい!!」


 今更だけど、あのイケメンはイケボだ。こんなコミュ障と話そうという心意気といい、天から二物どころか万物与えられてるんじゃないのだろうか。ちくしょう、コミュ力のところだけ数パーセントわけてくれ。こちとら返事をするだけでも声が裏返るというのに!

 と、心の内では多弁に愚痴りながら扉をあける。鍵なんてついていない押すだけのドアなのに、それでも律儀に待っているあたりホント出来たイケメンだ。


「ど、どうぞ」


 外はまだまだ日差しが痛い。そう思って家の中へ招き入れようと思ったのだが、入るのを躊躇う仕草が見えた。


(もしかして…喪女の生活臭が激ヤバで入るの躊躇ってるんですか!?)


 イザークの方はと言えば、単純に面食らっただけだったりする。今までプルプル震えて警戒心バリバリだった魔女が、相変わらず震えながらも家の中(イコール自分のテリトリー)に招き入れたのだから驚きもするだろう。ほんの少し罠を疑う気持ちもある。

 双方の考えはかなりズレたまま、それでもなんとか会話ができる状態まで持ち込んだ。

 会話をしなくてはいけない、という思いは双方変わりないのだから。


「えぇと、まずは布をありがとう。

 …もしかして、君が織ったのかな?」


 日光を避けるため、部屋の中は薄暗い。だが、そんな室内でもドンと存在感を放つ巨大な機織りがイヤでも目に入った。あのサイズの機織りなら、天幕になるような布だって織れるだろう。


「え、ひゃい、そうです。す、すみませ…」


「どうして? あの布凄く良かったよ。君の腕がいいのかな。

 都で売ったらとても良い値段で売れるよ。自信持って」


 ニコリ、と微笑まれて少し顔に熱が昇る。


(…お世辞でも嬉しい)


 自分の作ったものを認めて貰えるのは素直に嬉しい。自分そのものへの評価ではないせいか、昔から作品に対する評価だけは素直に受け取れた。


「あ、ありがとう、ございまひゅ」


 相変わらず、上手く喋れはしないけれど。それでも、自分の作品を褒められたのならお礼を言いたくて頭を下げた。


「そんなかしこまらなくていいのに。助かったのは俺たちの方だしね。

 あ、あと途中に置いてあった水の入った瓶…あれは貰って良いと解釈していいのかな?」


 問われてあんぐりと口を開けてしまう。慌てて首を縦に振るが、頭の中は消え去りたい気持ちでいっぱいだった。


(そういえば立ち聞きした挙げ句水ほっぽりだしてきちゃったー!

 あああ、もう穴があったら埋まりたい。でも砂は熱いからイヤ…本当にもうどうして私はこうなの…)


 先ほど褒められて嬉しかった気持ちが途端に萎んでいく。

 自分の欠点ばかり目について消えたくなった。そんな気持ちを知ってか知らずか、イザークは明るい声で続けた。


「ありがとう。綺麗な水はとても助かるよ。

 それで本題なのだけど魔女さんは…って魔女さんって呼び続けるのもアレかな?

 名前を聞いても大丈夫? 俺はイザークっていうんだけど」


「あ…い、依織、です」


「アイイオリ?」


「イオリ、です」


「イオリ…なんか不思議な響きの名前だね。うん、了解。

 で、イオリさん…話すの苦手?」


「はい!」


 己の中ではあまりにも自明の理すぎて、思わず元気よく返事をしてしまう。その勢いが面白かったのか、イザークはおかしそうに笑った。なんだかいたたまれない気持ちになり、依織は身を小さくする。


「ごめんごめん、笑ったりなんかして。

 それでね、色々俺たちとしては伝えたかったりお願いしたいことがあるんだけど、会話が苦手なら大変だろう?

 それで筆談できないかと思ったんだけど…読み書きできる?」


 問われてブンブンと首を縦に振る。神様からもらった能力でこちらの世界の言語はほぼ読み書きは出来るはず。それに、筆談の方がまだ熟考する時間があってマシだ。

 その様子に安心したようにイザークは続けた。


「良かった。じゃあ…えーと申し訳ないけど筆談できるような何かってあるかな?

 行軍に余計な荷物は積めなくて俺たち誰も持っていないんだ」


「あ…えと…待って、待ってください」


 言われて、広くもない家の中を探る。

 申し訳程度にある棚から、依織はそおっと茶色い紙を取り出した。現代日本人の依織からすれば、分厚くゴワゴワで、インクの水分が多すぎると滲む粗悪品だ。

 あるとき「サボテンの繊維で紙が織れないか」と思いついて作った試作品である。形にはなったが、思っている以上の作品は出来なくてほったらかしていたものだ。この家にある紙はこれ以外ない。糸を染める配合をメモする程度ならこれで十分だったのだ。


「これ、と…これと…」


 普段から使用しているペン代わりの動物の骨、それから墨も用意してイザークに渡す。


「…もしかしてこの紙、手作り?」


 受け取ったイザークは興味津々で問いかけてきた。


「え、あ、ひゃい。そうです、すみません」


 試作品の粗悪品ですみません、でもコレしかないんです勘弁して下さい。という気持ちを込めて謝る。だが、イザークは楽しそうに続けた。


「すごいね。布だけじゃなく紙も作れちゃうんだ。

 魔女というよりは職人かな? 器用なんだねぇ」


 現代人の感覚からすると粗悪品でしかないソレを、イザークは手放しで褒めてくれた。折るとそこから千切れそうになるし、分厚く手触りも悪い。自分では頑張ったつもりだけれど、欠点ばかりが目についたもの。それを、本当に心から感心したという風に褒められる。

 認められたような気持ちになった。

 褒められたのは紙なのだが、それでも嬉しさが熱になり、頬に昇ってくる。熱いのは、砂漠の熱気のせいだけではなくなってしまった。


「ありがとう、ございます」


 なんとかそれだけを口にして、頭を下げる。胸がいっぱいになりすぎて、噛まずに言えたのがちょっとした奇跡だ。


「紙とか布とか、本当にありがとうね。

 じゃあお手紙まとめて書いてくるからまたあとで」


 筆記用具一式を持ってイザークは出て行った。

 一行が待つ天幕までの短い道中の独り言は、砂と乾いた風にしか届いていない。


「いやぁ…面白いというか…可愛い、よなぁあれは。

 誰だよ魔女って言いだしたの」



【お願い】


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