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3.魔女とお茶会①

講談社女性向けコミックアプリ『Palcy』にて毎週金曜日に好評連載中です

 グルヤが言った通り、ラスジャを連れたイザークが遊びにきた。


「こんにちは。今日は外国の菓子を持参したんだ。一緒に食べよう」


 キラキラの笑顔を浴びせてくるイザークに、それを苦笑しながら見ているラスジャ。

 致死量を越えるイケメンに囲まれて死にそうという問題点をのぞけば、かなり平和な日常である。


 お土産のお茶菓子を受け取ってキッチンに向かうとラスジャがついてきてくれた。


「手伝うッスよー」


「あ、じゃあ、お茶を……」


「イヤイヤお茶はイオリさんがやんないとー。どこかの誰かさんの機嫌上昇と疲労回復のためにもよろしくおねがいしゃーす」


「……そ、そうなの?」


 依織がお茶を淹れてもそんな効能は生まれないとは思う。しかし、そこはノーと言えない日本人選手権で好成績を残し続けているコミュ障だ。別にイヤな訳ではないこともあって流されるままお茶の準備をする。


「どーせナーシルが入り浸ってるだろうからって多めに買ってきて正解正解。ナーシル付きの奴らも大変だろうし」


 ナーシルの暴走癖は結構有名なようだ。

 話しながらラスジャは皿を並べ、手土産をその上に置いていく。どうやら今日の手土産はタルトのようだ。


「うん、タイヘン。すごい」


 本当に色んな意味でナーシルはすごいし、それに付き合っているお付きの人もすごい。

 魔法研究の熱意で暴走しがちなナーシルは、しょっちゅうこの一夜城に泊まりこみそうな勢いを見せる。その度にお付きの人々が全力で説得するのだ。宥めたり脅したりと本当に大変そうである。

 当然ながらその間依織は無力だ。おちおち口を出したら逆に丸め込まれて迷惑をかけかねない。


「ちなみにイザーク様の暴走を止めてるオレも相当すごいッスよ」


「うん。ラスジャ、すごい。いつもありがと」


 王族であるイザークを茶化しつつもうまく操縦する様は本当にすごいと思う。前に聞いた話だとスケジュール管理からお茶汲みまで手広くやっているんだとか。今もこうやってさらっと手伝ってくれるあたりとても助かる。

 何せ依織はお湯沸かし待ちの間に新しいアイデアを思い付き、お茶を淹れるのを忘れたりするときがあるので。


「いろいろ、すごいよね、ラスジャは」


 彼の器用さが心底羨ましい。距離感の測り方も彼が一番うまい気がする。顔面は眩しいが、顔を見なければ一番話しやすいかもしれない。当社比で。

 そんな気持ちで依織なりに精一杯褒めると、何故かラスジャの姿が見えない。

 視線を下に向けると、彼はしゃがんでいたようだ。ラスジャがしゃがみ込んでいるところは少し陰になっている上に、この国の人間は肌の色の変化があってもちょっとわかりづらい。だから、依織はさっぱり気付いていなかった。


「? あの、何か落とした?」


「イヤイヤイヤお気になさらず。落としてないッス大丈夫ッス。オレはほら、器用貧乏ってやつッスから」


「……?」


 そうかなぁと思うものの、うまく言葉が見つからない。彼が器用貧乏なら依織はなんだというのか。手先は器用ではあるし、今はもう貧乏ではないが、ラスジャと比べるべくもないという自信がマンマンで満ち満ちているというのに。


「あ、えーとほら。そろそろ湯もいい頃合いでは?」


「んぇ? あ、そか」


 この国の人はお茶の温度に結構厳しい。なんでも熱すぎてはお茶の香りがとんでしまうし、かといってぬるければお茶の効能が発揮されなくなる、らしい。前世ではお茶を買うお金すらもったいなく、水道水をそのまま飲んでいた依織からはよくわからない感覚である。

 けれど、淹れ方を教えてもらうのは意外と楽しかった。

 今日のお茶は少しミントティーのような清涼感のある、淡い香りのお茶だ。チョイスはラスジャである。きっと手土産と合うだろうから、とのこと。


「んじゃあと運ぶのはオレやりますんで」


「え、でも……」


「スッ転ばない自信、あります?」


 にまーっと笑われてしまうのは、転んで盛大にお茶をぶちまけたことがあるからだ。その現場はラスジャは勿論イザークにも見られていた。


「うぅ……」


「火傷されたらイザーク様が魑魅魍魎に変化しちゃうかもしんないんで。オレを助けると思ってあっちで待っててくださいな」


「ハイ」


 こうまで言われてしまえば完敗である。そもそもイケメンに勝てる道理などなかった。

 すごすごとイザークたちがいる部屋に戻ろうとすると、ナーシルとイザークが何やら話し合っている声が聞こえる。


「本当に、本当に何もないな?」


「いやもうイザーク様しつこいですって~。そのしつこさ本人に見せたらどうです?」


「いやだ」


「はぁ~……」


 何やら言い争っている様子が感じられたので入りにくい。どうしようかとオロオロしているとラスジャがお茶と茶菓子を載せたお盆を持ってこちらにくる。


「どしたんです?」


「な、なんか……入っていい、のかなぁ? みたいな」


「あぁ~~。ま、だいじょぶだいじょぶ。入りますよ~っと」


(ラスジャ、つよい)


 両手にお盆姿のラスジャについて、一緒に部屋に入る。


「……ナーシルはほどほどにするように」


「え~。王命でもあるんですけどねぇ」


「あ、あの、あの……」


 よくわからないがモメている空気は苦手だ。かといって仲裁ができるような気の利いたセリフがコミュ障の口から飛び出るわけがない。どうするのが正解かわからずオロオロとしてしまう。


「イオリさーん、ほっといて大丈夫なんでお茶やってほしいッス。お二人さんもツンケンしてるとモテないッスよ~」


「うっ……」


「僕は魔力にモテたい……」


 魔力にモテるというのはどういう状況なのだろうか。そう心の中でツッコミをいれつつ、ラスジャが置いてくれたカップにお茶を注ぐ。お付きの人たちにはラスジャが配りにいってくれた。彼らは隣室で待機になるらしい。特にぐったりしていたナーシル付きの人たちにはよい休憩になると良いのだが。


「魔法の解析は難航してるみたいだね」


「ご、ごめんなさい」


「いや、責めてるわけじゃないよ。ナーシルとの相性も正直良くないだろうし」


「えっ僕のせいですか!?」


「イオリさんじゃなくてもナーシルの勢いにはドン引くでしょうよ。正直オレそんな能力なくて良かった~って思いますもん。イオリさんとは別方向ではあるけど天才だって自覚した方がいいッスよ」


「そうだな。俺もお前と同レベルを求められては困る。それはそれとしてイオリの魔法が解析できればいいとは思ってるので困ったものだな」


 二人の雰囲気が少し良くなってホッとした。イザークは空気の読める男だし、ナーシルも魔法さえ絡まなければ大丈夫らしい。ラスジャのからかうような雰囲気も相まってちょっと重かった空気が緩和した。

 お陰で手土産のタルトとお茶を心置きなく楽しめそうだ。

 暑い気候のクウォルフ国だが、伝統的にお茶は温かいものを好む。というより、キンキンに冷やすような技術がまだないのだろう。当然ながら冷凍庫なんかはない。大きな商会や王家が保冷庫を所有しており、食料はまとめてそういったところに保管されているらしい。

 なので、冷たい飲み物というのは金持ちの贅沢なのだそうだ。


(でもそれって逆に夏バテしそうよね。温かい飲み物飲んでる庶民の方が元気に働けてるのかも?)


 そんなことを考えつつ、タルトにも手を伸ばす。


「あ、おいしい」


 酸味が強めなフルーツのタルトに、清涼感のあるお茶がとても合う。前世で食べたフルーツタルトよりもタルト生地がズシッと重い。なかなか食べ応えがあるので、ちょっと夕飯は控えた方がいいかもしれない。何せイザークたちと出会ってから食生活が変わりすぎている。

 今までの人生(前世含む)において、太るという現象が起きたことがなかった。故に、どのくらい食べるとアウトなのかがわからない。少なくともイザークのお世話になってから、あからさまに肉がついた。これ以上はちょっと抵抗がある。

 そうはいうものの、美味しいモノに罪はないわけで。自然と顔がほころんでいく。


「それはよかった。隣国で流行ってる菓子らしくてね。あちらで学んでいた職人が戻ってきて頑張っているらしいんだ」


「隣国、えぇと北の?」


 以前雑談で聞いた気がするこの国周辺の地理を脳内から引っ張り出す。この国が国境を接している国は二国しかなかったはずだ。


「そうそう。スグリト国ね」


(北の方ってなると此処よりは暑くないのかなぁ。そうなると、布とかもきっと違うよね。羊とかいるのかな……羊毛、フェルト、いいなぁしばらく触ってないなぁ。他にも珍しい材料あるのかな。そういえばグルヤさんの扱ってる魔物産の糸もその国からだっけ……)


 当然だが、この世界にはこの国だけでなくたくさんの国が存在している。つまり、たくさんの見知らぬ素材があるのだ。未知の素材からはどんなものが作れるのだろう、と一人の世界に入り込む依織だった。

【お願い】


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