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2.魔女と商人

講談社女性向けコミックアプリ『Palcy』にて毎週金曜日に好評連載中です

 グルヤに、なんとなく違和感を覚える。


(なんだろう? 別人がなりすましてるとかいうトンデモ展開ではないと思うんだけど、なんかいつもと違う……?)


「イオリ様? どうかなさいましたかな? お加減がよろしくないのでしたら出直しますが」


「あっいえっ! 元気……でもない? イケメンが……」


 思い出してまた目眩がした気がする。キラキラは体に良くないと思う。


「はっはっは。もしかしてまたナーシル様が? それはそれは」


 ナーシルの暴走はグルヤも目撃している。彼は有数の大商人といえど一市民。この国きっての魔術師相手には何か口を出すことはできないのだろう。助けてほしいとは思うものの、依織は恩人を窮地に立たせることはできない。

 あと、万が一グルヤとナーシルが意気投合した場合収集がつかなくなりそうだ。

 なにせ、グルヤはグルヤで布オタクなのである。オタクとオタクの相乗効果、想像するだに恐ろしい。


「今回の品物はそちらでしょうか?」


「あ、はい。あの、バッグと、それとおそろいの小物入れ、です。布は、もう少し……完成、できそうです」


「ほう、あのハギレたちがこうなるのですな。縫製も確かだ。素晴らしい腕をおもちですね」


「いえ、あの……ありがとう」


 作ったものを褒められるとやはり嬉しい。グルヤは取引相手である依織を手放しで褒めて、そして結構な金額で買い取ってくれるのだ。前世で出来なかったハンドメイド作家として身を立てるという夢を叶えてくれている。


「値付けはまたのちほど。書面にて行いますね」


「あ、あの、あの」


 夢を叶えてくれた恩人だからこそ、依織はグルヤに言わなければならないことがあった。いつも上手く言葉にできなくて言えなかったが、今日こそは!

 そう思って実は数度目。失敗したのは片手の指では足りない。けれど、今度こそ、今日こそは言う。そんな意気込みで依織の声はちょっと大きくなった。

 先ほどの部屋で待っていたナーシルが顔を出すくらいには。


「む、無理してない、ですか!?」


「……無理、とは?」


 一瞬不思議な間があったが、依織は気にせず続ける。勢いに乗らなければ多分言い切ることができない。


「私の作品、手抜き、とかしてない、けど。そんな、高くない、と……。わ、私頑張るので、無理は……その、良くないです」


 前世では毎日毎日尋常じゃない量の作品を作っていた。そうでもしないと生活が成り立たなかったから。その状況や一日に作る作品数は異常だったと、今世でやっと気付けた。

 だから今は楽しめる範囲で作っている。そのため、作り上げる作品は激減した。前世の作品量とは比べ物にならない。

 なのに今依織は暮らしていけるどころか蓄えも出来るくらいお金をもらっているのだ。作品に対する正式な対価だとは正直思えなかった。

 依織の予想としては、王族であるイザークからの紹介だからと無理をしていないか心配だったのだ。

 その懸念が伝わったのか、グルヤが難しい顔をした。


「ふむ。少々説明をさせていただいても?」


「え、えと? はい……?」


「まず、私めは言葉を飾らず言わせていただけるのであれば、それなりの規模の商会を持っております」


「うん、すごい、商人さん」


「お知りおきいただけて光栄ですよ。ですから、私の商会はちょっとやそっとでは傾くことはありません」


「むしろ傾かれたら国がやばくなるレベルですよイオリさん」


 いつの間にか横に来ていたナーシルが説明の補助に入る。


「ひぃっ!? い、いつのまに」


「イオリさんが大声だしたあたりですね。てか、グルヤさん謙遜してますけど、ほんとにすっごい大商会ですよ。この前イオリさんが手にとって小躍りしてた魔物産の糸の扱いはココだけですし。北のスグリト国とのパイプもふっといですから」


「まぁ、そのような言い方もありますね。まずは私の商会は多少の出費で傾くようなことはないことはご理解いただけましたかな?」


「は、はい」


(ちょっとまって小躍りしてたのナーシルに見られてたの!? 恥ずかしい! いやでも今それつっこんでる場合じゃない。なんかグルヤさんの目が怖い気がするよー。私怒らせた!?)


「それから、前々から感じておりましたがイオリ様はご自身の価値を低く見積もりすぎではありませんかな?」


「かち……?」


 火打ち石の音と、背中に火をつけられたたぬきが頭に思い浮かんだが多分違う。


「あ~それは会った時からですねぇ。その時よりは砂漠の砂粒分くらいマシになってる気もしますけど」


「えぇ?」


「ふむ。一度きちんと申し上げた方がよろしいでしょう。イオリ様。あなたさまはこの王都を砂嵐直撃の危機から救ったお方。そして、今もなお水不足解消のために働いてくださっている砂漠の魔女様でございます」


「各地で拝まれてるくらいなんですけどねぇ。怯えて逃げちゃうからどうしようってイザーク様とかイースさんがあたま抱えてましたよ」


「まさに民衆に大人気の救国の魔女様、というわけですな」


 大変恥ずかしすぎる称号であるが、そういうことになっているのは知っている。返上してひっそり生きていきたい。だが、それはイザークもナーシルも許してくれないだろう。イケメンこわい。


「その魔女様が時間をかけて作ってくださった作品です。それだけで十分な価値がある」


「え、えぇ?」


(それ、ぼったくりって言うんじゃ……)


「それ以上に、イオリ様の作品はうちの針子たちのやる気に繋がるのです」


「……へ?」


「うちの針子たちにイオリ様の作品は大人気ですよ。斬新な発想で作られる作品、その上縫製の技術も見事すぎる、と。特にハギレを使った花の数々は針子のみならず皆の創作意欲を掻き立てるようですなぁ。イオリ様の元から戻った時などは、商会長である私が皆に胸倉をつかまれんばかりですよ。魔女様の新作を早く見せろ、とね」


「プロから見てもすごいんですね、イオリさんの作品」


「あ、あう、あう……」


 グルヤとナーシルの言葉に顔があげられなくなる。作品の大元は前世の誰かが出したアイデアだ。斬新な発想と言われてもパクッたみたいでだいぶ後ろめたい。

 その一方で、この世界の素材に合わせて製法を考えたのは自分だという気持ちもある。完全なオリジナルではないかもしれない。けれど、あの作品たちを作ったのは紛れもなく自分で、それをこの世界のプロたちが認めてくれている。

 それが、たまらなくうれしい。


「今うちの従業員たちが模倣して作っておりますが、そこから更に別の作品が生まれるかもしれないと私はワクワクしているのですよ。ですから、イオリ様は自信をもって代金をお受け取りください。むしろ、私の方が対価が足りないのではないかと考え込む日々ですからな。入り用なモノがございましたら何としてでも手に入れますよ」


「あぅ……あの、あり、ありがとう、ございます」


 賃金の値下げ交渉をしようとしたら、まさかの褒め殺しにあってしまった。


「そもそも生粋の商売人のグルヤさんが自分の不利益になることしないですよ、イオリさん」


「ほっほっほ。当然ですなぁ。しかし、イオリ様との取引を任せていただけたのが私で本当によかった。まさか値上げならぬ値下げ交渉をされるとは……。心配すぎて他の人間には任せられません。いつ騙されてしまうか気が気ではない。イザーク様が過保護になるのも無理からぬことですなぁ」


「ひぇ……か、かほごって」


「ん? おや、過保護なお方がいらっしゃったようですな。私は見咎められる前にお暇するといたしましょう。イオリ様、あなたさまこそ無理をなさらないようお気を付けください。身体を壊しては元も子もありませんからな」


 そう言ってグルヤは一礼すると去っていった。確かに彼の馬車が滞在しているとイザークたちが入れない。王族に裏手に回ってもらうのは心苦しいのだろう。

 とはいえイザークに挨拶もせず去っていくのは少し珍しい気がする。


(馬車停めるとこ、拡張しておこうかな? 馬が休む日陰も用意して……あれ?)


 そこまで考えて、依織はようやく彼の違和感に気付く。


「ね、ねぇ。ナーシル。グルヤさん、忙しいの、かな?」


「え? どうしてです?」


「顔色、とか? あと、急いでる……?」


「顔色……すみません、そこまでよく見ていなかったのでちょっと……。ただ、忙しいのはそうだと思いますよ。なんてったって大商会の商会長さんですからね」


「……そっか」


 なんとなくグルヤの様子が気になったものの、襲来したインパクトのある顔面の攻撃力にその違和感はふっとんでしまった。

 キラキラの暴力代表イザークとラスジャが手土産をもって遊びに来たのである。

【お願い】


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