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32.コミュ障と王都への帰路


 オレンジ色の光が、白っぽい砂漠を照らす頃、依織達は行動を開始した。

 疾走するラクダの上空には、トリさんが着いてきてくれている。ちなみにトリさんはシロの分離体をがっしりと掴んでいた。


 今回起きると言われている強大な砂嵐は、今のところ進行方向が予測不能。

 十分に精査できていないが、王都を救うと最悪の場合あのオアシスが砂嵐に飲み込まれる危険性があった。

 今までは風除けの石のお陰で砂嵐の被害にあったことはない。けれど、今回はその石を全て持ってきてしまっている。運が悪ければあんな小さな家はすぐに吹き飛ばされてしまうだろう。

 その点に関しては依織はもう覚悟している。

 だが、あの家の管理を頼んでいたシロの分離体は別だ。彼らは彼らで生き抜く力はあるとは思うが、やはり心配なのである。そういった経緯で、トリさんに連れてきて貰ったのだ。

 彼らはラクダの移動速度についてこれないため、一つに合体しトリさんに運んで貰っている。


 砂漠の日は長い。いつまでもオレンジの光が大地を照らしているような錯覚すら覚える。けれど、何事にも終わりはあるもので、辺りは段々と濃い闇に包まれていった。こんな時でなければ、徐々に変わる空の色を楽しめたかもしれない。

 トリさんは鳥目にならないのか、とぼんやり心配しながら、揺れるラクダの上でしっかりとイザークにしがみつく。

 今回は行きよりも余裕があった。

 制限時間がある中で、広大な砂漠の中から石ころを四つ探す作業。トリさんに出会えれば時間は短縮出来るだろうとは考えていたけれど、万が一ということもあり得る。今、自分の行動には王都の民、ひいてはクウォルフ国民の命がかかっているのだ…と思うと緊張で吐きそうになるのも仕方が無いだろう。

 そこから考えれば、石を全て見つけて想定よりも早く帰還できそうな現状、気持ちはかなり楽だ。

 しかも、目的地は王都。夜でもある程度明るく、迷う心配はほぼない。


「見えた!」


 イザークが、いち早く知らせてくれる。

 まだ見えただけ。けれど、ゴールが見えていれば自ずと気持ちも上向きになる。

 これからが勝負ではあっても、とりあえず第一段階は突破、と思えるはずだ。

 灯が見えてラクダもそう思ったのか、スピードを落とさず疾走してくれる。

 ガルーダが上空に飛んでいるのが見えるなら、下手な魔物やならず者は手出しをしてこないはず。ついでにいえば、王都の物見がこの姿を隊長さんたちに報告してくれたらもっとコトはスムーズに行くはずだ。普通に王都にガルーダが来たとなれば大騒ぎだろうが、きっと隊長さんたちならガルーダ=トリさんだとわかってくれるはず。


 そうやって駆け抜けて、明け方頃に見知った顔が迎えに来てくれた。


「おかえりなさい!

 早かったですね!」


「物見がガルーダを見たと報告してきたのでもしやと思ったが…ともかく、そのまま王都に入っては大問題になる。

 郊外に急ぎで場所を作らせた。まずはそこで休んでくれ」


 隊長に言われ、ナーシルが郊外に用意させたという場所に案内してくれた。他にも、依織が住み着いていた離れを警護していてくれた人の顔も見えた。

 ここまで頑張ってくれたラクダには確かに休憩が必要だ。なかなか無茶をさせたと思う。ゆっくり休んでたくさん好物を食べさせてやってほしい。そこまで伝えられたらコミュ障返上できるだろうに、それは言葉にはならなかった。

 用意してくれたという場所は、それなりの大きさのあるテントだ。郊外なため、地盤がほぼ砂である。本当ならフカフカのベッドに倒れ込みたいところだが、そういったモノを用意できるような場所ではなかった。

 それに、依織にはまだやるべきコトがある。


「いえ、あの…石、やる…。

 材料は…?」


「魔力的に問題はありませんか?

 疲れている時にやると、最悪失敗してしまうのでは…?」


 出発する前に、石を合体させるために必要な材料を用意して貰うようナーシルにお願いしていた。彼が此処にいるということは、きっと材料は揃えられたのだろう。


「まだ、平気…多分…」


 大丈夫、だとは思う。

 今まで魔力を使い果たしたのは塩ドームを作ったときくらいだ。おそらく依織の魔力は多めに設定されているはずだ。多少眠い気はするけれど、疾走したラクダやそれを御していたイザークに比べれば依織が疲れていると申し出るのは憚られた。

 何より、一刻も早くなんとかしたいという焦りにも似た思いがある。

 早速取りかかろう、と石を取り出したところで、その石をひょいと取り上げられた。


「あっ…」


「はい、無理はダメー。徹夜禁止です。

 今日は栄養とってきちんと休んで下さい」


「で、でも…」


 取り上げたのはイザークだった。

 彼と依織はそれなりに身長差があるため、彼に取り上げられてしまっては依織には取り返す術がない。無論魔法で吹っ飛ばせばいけるだろうが、仮にも恋人に対してする仕打ちではないだろう。


「まず一個目。

 体調が万全じゃないのは誰の目にも明らかだね? 都をなんとかしようと思ってくれる気持ちは嬉しいけど、万が一があったら取り返しがつきません。

 ちなみにだけど、予言及び砂嵐予測に進展はあった?」


「はい。詳細は後ほど文面で渡しますが、結論から言えば直撃想定日はほぼ予言通りで確定です。

 つまり、今すぐ石をどうこうしなければいけないわけではありません」


 イザークからの目配せを受けた隊長が最新情報を教えてくれる。

 確かに、その通りであれば今急いで作る必要は無いのかも知れない。


「あと魔法的観点から言わせていただきますと、肉体的疲労はダイレクトに魔法に影響します。

 例えば、ちょっとしたきっかけで暴発などがしやすくなっちゃうんですよね」


「…心当たりあるね、イオリ」


「うっ…」


 突然のサンドワーム襲撃に驚いて、瞬時に巨大な岩塩を作り出したり。

 トリさんの接近に気付かず、鳴き声に驚いて洞窟を作ろうとしていたのにトンネルを作ったり。

 身に覚えがありすぎた。


「あ、もしかして既に予兆ありました?

 ならもう絶対に休んで下さい。とくに魔力を通すなんていう繊細な作業なんでしょう?

 集中力は不可欠です。きちんとした睡眠に食事をとらないと…場合によっては明日以降の方がいいかもしれません。

 あ、あと落ち着いてからでいいので暴発事例教えて下さい興味深い」


「それはあとだ」


「あとでいいですって言ったじゃないですかぁ…」


 相変わらずなナーシルだが、言っていることの前半はとてもまともだ。

 確かに繊細な魔力操作を必要とされることは想像に難くない。体調が万全でないのなら避けるべきかもしれなかった。


「本当は王宮に連れて帰って侍女達にマッサージでもさせた方がいい気もするんだけど…」


 不穏なイザークの言葉を聞いて反射的に全力で首を振る。

 誰かに世話をされるなんて恐れ多い。そっちの方が気疲れて色々磨り減ってしまう。


「うん、予想通りの反応ありがとう」


 イザークはともかく、ナーシルも隊長さんたちも依織が嫌がることはわかっていたらしい。全員が苦笑している。


「じゃあ今日は大人しく休むこと。

 食事は多分持ってきて貰えるんだよね?」


「はい、今手配させてます」


「んじゃ休もう。明日…もう今日か?

 今日の、夕方の涼しくなってきた頃にやるのでも十分だよ。

 勿論イオリの体調が良くなければそれ以降に延期してもいい。

 ともかく、イオリは焦らず体調管理に専念すること」


 じゃないとつきっきりで俺が寝かしつけるよ? と依織にだけ聞こえる声量で囁かれ、依織はあえなく撃沈した。


【お願い】


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[気になる点] 魔力切れたことないって言ってるけど、塩ドーム作ってぶっ倒れたのは無かったことになってる?
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