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30.コミュ障と風除けの石


 砂漠を疾走中の二人の頭上に現れた影。それは、トリさんだった。

 空に向って大声を張り上げた依織に気付いたのか、トリさんはバサバサと目の前に降りてきてくれた。

 夜であるにも関わらず良く見つけてくれた。

 トリさんは鳥科ではあるものの、夜目もきくのだろうか。


「トリさん! 砂嵐がきて! 石がね! 欲しいの!」


「えーっとね、七日後に…王都、わかるかな?

 あっちの方にある、たくさん人間が住んでるところに、かなり大きな砂嵐がくるって予言があったんだ。

 で、それを回避するために風除けの石、前トリさんが運んできてくれたやつね。あれをとりにきたんだけど、今どこにあるかわかる?」


 軽いパニックになっている依織の通訳をイザークがしてくれる。話し相手はトリさんこと、この一帯を仕切っているらしいガルーダだ。本来であれば恐れられる魔物だが、彼は依織の友達(?)である。

 もっとも、依織はトリさんが人語を理解してくれるということは知らなかったのだけれども。

 ともかく、この広い砂漠の中ですぐにトリさんに出会えたのは幸運だった。彼なら空から依織が置いた風除けの石を見つけることができる。


「ギュエーー!」


 任せろ、とばかりにトリさんが鳴いた。

 心なしか翼の形がサムズアップに見える。


「あの、じゃあ一番遠いとこ、トリさんにお願いしていい?

 私たち、近いところのとってくる、から」


「ギュエ! ギャギャギャ」


 鳥さんが、足先で器用に砂の上に何かを書く。

 が、流石に伝えたいことがわからなかった。


「え? なんだろう…あ、現在位置を教えてくれてる、とか?」


 あーでもないこーでもないとトリさんと話をする。イザークも混ざり、出来うる限りの最善策が練られた。

 置いてある風除けの石は四つ。どこから砂嵐がくるかも、どちらの方向に人里があるかもわからなかった依織は、とりあえず石を四つ作ってオアシスの周りに置いていた。あまりにもオアシスに近いと砂嵐の方向転換が間に合わないかもしれないため、オアシスからはそれなりに離れた場所に置いた。

 また、依織は回収することをあまり想定していなかったので置いた場所が何処だったか曖昧な記憶しかない。そもそも、砂漠には目印になるような箇所が少ないと言うことも大きい。しかも、飛ばされないように埋めたり、岩場の隙間にいれたりした記憶がある。何故そんなことをしたのか当時の自分に聞いてみたいが、今はそれどころではない。


「じゃあ、トリさんに三カ所任せる形で。

 で、俺たちはその場から動かず待機、と」


 結局大半の石回収をトリさんに任せることになった。

 空から俯瞰できるせいか、それとも風の動きでわかるのか。トリさんは正確に石のありかを分かっているようだ。

 この申し出は非常に有り難い。

 二人を乗せたラクダは、ここまでずっと全力疾走させてきている。負担をかけないよう二人とも軽装にしてきた。万一魔物が現れた時のためにイザークが剣を持っては居るが、鎧は置いてきた。何故なら、この砂漠の魔物であれば、恐らく依織が負けることはないから。これは神様のお墨付きである。


「結構過酷な環境だからこそ、多分人と関わらないですむよ。

 ただ、今のままで行くと一日も持たずに死んじゃうと思うから、色々能力オマケしておくね」


 と言われているのである。

 少し出歩いただけで死ぬような半端な能力は与えられていないはずだ。

 事実、イザーク達が来るまで依織は何回か魔物に出会っている。その全てを退けてきたのだから。

 ただ、そう言って説得してもなかなか理解は得られなかった。依織の話術が大変稚拙なせいというのもある。だが、それ以上に目の前のいつでも人に怯えてプルプルしているような女性が、自分でも手こずる魔物を退治したという事実が信じられなかったのも大きいだろう。

 そのため、出発前にその実力を認めて貰うために隊長を吹っ飛ばしたりなどもしてきた。隊長の名誉のために詳細は伏せるが、まぁ、瞬殺だ。

 依織の方はといえば、半べそをかきながら戦いたくない怖いと直前までプルプルしていたのだが。このことは、依織と隊長双方の名誉のために箝口令がしかれていたりする。

 とまぁ紆余曲折あって、夜の砂漠の大移動をしているわけだ。実際は魔物にも会わず、道のりを最短にすることができた。だが、その分、二人を乗せたラクダは休みなしだ。かなり疲労が溜まっているだろうことは窺える。

 ラクダを休ませてやれるのは大変ありがたいことだ。


「トリさんも無茶しないでね?

 私たち、日よけする場所作って休憩してるから」


「ギュエ!」


 元気よく返事をしてトリさんは飛翔していった。

 月明かりに照らされて飛ぶ姿は、かなり神秘的だ。異世界、という感じが今更ながらにする。


「じゃ、俺たちも行こうか。

 お前ももう一踏ん張りたのむぞ」


 イザークがラクダの背を撫でる。

 バシバシまつげのラクダは、多少疲労を滲ませながらも嫌がる素振りは見せなかった。




「探知魔法とか…あればよかったのに」


「それはないんだ?」


「生き残るのに必要な魔法ではない、と判断された…かも?

 っていうか…ある?」


「使えるヤツはいるけど…そんなに便利でもなかったような気はするね」


 恐らくこのあたり、という場所までは来た。が、残念なことに詳細はあまり覚えていない。

 空の端が薄明るく、もう少しで全てを焦がす太陽が昇ってくる。

 体力のことを考えるのであれば、そろそろ物陰を見つけて休憩時間に入りたい。少なくともラクダには休憩が必要だ。


「あぁ、岩場が見えたね。あそこかな?」


「た、たぶん」


 正直適当に置いたのであそこにあるという確信はない。それでも、ラクダを休ませるという意味ではあそこに行く必要があった。


「ありがとう、ございます。

 あの、休んでて」


「…そりゃまぁ…守る必要もない、のはわかってるんだけど」


 イザークも、依織が隊長を吹っ飛ばした現場を見ている。そのため、一人で何かあったらどうするんだ、とは言いづらいようだ。


「大丈夫」


 それをわかっていて、依織はイザークを岩陰に置いていく。

 口にはしないが、イザークだってかなり消耗しているはずだ。依織を落とさない程度に、けれどできる限り早く移動しなければならないというのは中々骨が折れただろう。依織はしがみついて乗っているだけだったので体力には多少余裕がある。


「…逆に変な魔物がイザークたちに行く方が心配。急ごう」


 日が完全に昇りきる前に石を発見したい。

 岩場を一周すればおそらくは見つかる…はずである。


「多分あっちがオアシスで…どうせ私のことだから近場に…。

 あ、でも風の方向考えたりくらいはする、かも?」


 捜し物をするときは過去の自分との心理戦、という人がいる。まさに今、依織は過去の自分の心理を探りながらの石を探し回っていた。


(岩の隙間に挟んだ覚えはあるんだよね…落ちてなかったら岩の隙間が怪しいはず)


 記憶を辿りながら、あちこちの岩場の隙間を見て回る。

 幸いこの一角はあまり大きなものではないようで、そこまで時間をかけずに一周できそうだった。


「…あった!」


 過去の自分との心理戦に無事に勝利し、目当ての風除けの石を発見した。

 やはり記憶通り、割れた岩の隙間に突っ込んでいた。微かに風が吹いていたので思っていたよりも見つけやすかったのは大きい。


「良かった…。あとはトリさんを待って…帰ったらすぐ作業をはじめて…」


 とはいえ、今すぐに出来ることは少ない。

 休みなく走ってきたのでイザークとラクダの疲労がピークだろう。うまいこと岩に穴をあけて、日差しを避けながら休憩をとる。これが一番効率が良いはずだ。


「…ん?」


 トコトコとイザークが待つ場所まで戻ろうと足を動かす。が、耳をすますと何やら不穏な音が聞こえてきた。


「まさか…」


 依織は嫌な予感に駆られ、砂に足を取られながらも走り出した。




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