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28.コミュ障とお試し


「あの…」


「うん?」


「心臓破裂で…死ぬ…」


「はっはっは、大丈夫大丈夫」


 何を根拠に大丈夫と言っているのか甚だ疑問である。

 とても楽しそうなイザークを尻目に、依織は自己申告通り心臓を破裂させて死ぬかもしれないという危機に陥っていた。


 今、依織は何故かイザークの膝の上に座らされている。

 安定しないから、という理由で抱えられているし、依織の腕もイザークの首に回すように言われている。何がどうなっているやらわからないうちに、そうされてしまった。手際が良すぎる。

 安定しないなら下ろしてくれればいいのに、とは思った。が、言葉にはならなかった。意味不明な悲鳴は何度も口から漏れ出たけれども。

 これだけ密着してしまえば、布越しであろうとも肌のぬくもりがわかってしまう。その事実が更に依織の混乱に拍車をかけた。


(汗臭くないですか!?

 っていうか、それ以外にもなんか色々無理!!

 羞恥で死ぬ! いっそひと思いに殺して!!!)


 脳内が物騒な単語で染まっていく。暑さとはまた違った汗が背中を流れていった気がした。

 だって、他人が意味も無くこんなにも近い位置に居るだなんて。

 いや、そういった経験は以前にもあった。ラクダに二人乗りしているときの距離感はこんなものだったのは認める。けれど、それはあくまでラクダに乗って移動、という目的があった。

 今は意味も無く、こんな状況に陥っている。

 いや、イザーク的には意味はあるそうなのだけれど。


「死ぬ…死んでしまう…」


 もう自分が何を口走っているのかもわからないくらい混乱している。

 イケメンは匂いまでもイケメンなのか、ほのかな柑橘系っぽい匂いがした。多分、香水なのだろう。大変ずるい。依織は最低限清潔にはしているものの、そういったオシャレなものは一切合切手を付けていない。急にこんなに大接近するのであれば、もう少しなんとかしたのに。

 そういえば、昨日はちゃんと身だしなみを整えたんだっけ?

 イザークの爆弾発言からのお手紙書きで、正直記憶がぶっ飛んでいる。

 習慣で無意識に昨日の依織がやってくれていればそれでいい。だが、もしやっていなかった場合は…。

 そう考えるだけで冷や汗の量が増えた気がする。

 もう勘弁して欲しい。


(こ、これ以上の密着は無理では?

 おまえをころしておれもしぬ、的な覚悟で逃げるしか…)


 依織のパニックが最高潮に達した辺りで、イザークの拘束が緩んだ。

 穏便に距離をとれるようになったのを察知して、依織は脱兎の如く逃げ出す。

 壁に張り付く勢いでイザークから距離をとった。王宮の離れの壁はサラサラと良い手触りだなぁ。


「いやぁ…予想外の言動の連続で、俺としては大変楽しい。

 でも…死なれても、っていうか、これ以上警戒されても困るから一旦仕切り直し、かな?」


「…」


 恨みがましい目で睨み付けるけれど、そんな依織の視線など何処吹く風でイザークは笑う。その笑顔がなんだかんだ嬉しそうなので、依織もなんとなく許してしまいそうになる。実際、ただのスキンシップなので、なんと咎めればよいかわからないし。

 この世界の恋人同士がどういうものなのかはわからないが、概ね前世と変わらないだろうとは思う。他愛もない話をして、スキンシップをして、多分そういうものなはずだ。


「んー…警戒された?

 お試しだから大分ライトなことをしたと思ってるんだけど…」


「あれで!?」


「もう少し踏み込んでみる?」


 ニッコリと微笑まれてしまったので、全力で首をふって返す。出来れば部屋からも逃げ出したい。けれど、それは失礼な気がするのでできない。八方塞がりだ。


「どうしよう。反応が楽しすぎるけど、あんまりやり過ぎるとなぁ…」


「心臓が死ぬ…」


「ふふ、死なれたら困るけど、俺としては折角の恋人お試し期間に存分に色々知りたいとも思うんだよね」


 お互いの事を知るのは構わない。

 けれど、それで死んでしまう可能性が出てきたので勘弁して欲しい。少なくともコミュ障がこじれて死ぬ可能性は大いにあるのだから。


「ごめんね。これでも結構嬉しくて浮かれてるんだ。

 あ、ところでこれ叔父にも報告していい?」


「え…あ……。

 言わなくても…国外逃亡は、しない、ですよ?」


「俺はそう思ってるんだけどねー。

 でも、叔父はイオリとまともに会って話してないじゃない?

 だから、客観的に見ても国外には行かないって思えるような証拠があった方がいいかと思って」


 理屈はわかる。

 理屈はわかるのだが、何故だか素直に頷きづらい。

 このまま流されるとろくな目に合わないのではないかという直感が働くのだ。


「まぁ、公表したが最後、お披露目パレードまで組まれる可能性は否定しないけど」


「パレードはイヤです!」


「了解。じゃあそういうのを回避しつつ、まずは報告だけにとどめておくよ」


 あ、と思ったがもう遅い。

 いつの間にか報告することは決定事項になっていた。


(無理だよ…絶対に口じゃ勝てない。

 貝になるしかない…。でも、イザークって黙っててもそれはそれでやりやすいようにコトを進めるんじゃ…)


 かたや、生まれながらに王族で様々な駆け引きの場数を踏んできた男。

 かたや、コミュ障をこじらせて死んだ女。

 どこからどう見ても勝負の行方はわかりきっている。


「今みたく本当に嫌なことはちゃんと言ってくれれば俺もしないよ。大丈夫」


 そこだけは保証してくれたので、腑に落ちきらないまでもとりあえず了承する。

 いつまでも壁と仲良くしているわけにもいかないので、警戒しながらも傍へ寄っていった。何せ、この部屋の中で座る場所といったらそこくらいしかないのだから。


「今日は何処かに出かける予定もないし、こうやってお話してるのもいいよね。

 イオリはどうやって過ごす予定だった?

 そういえば端切れで色々作ってたみたいだけど…」


 問われたので、作った作品を何個か持ってくる。

 端切れを裂いたり繋いで作ったヤーンや、それを編んで作ったカゴ。その他にもポーチにつまみ細工の花など。

 一つ一つを見せる度に、イザークは感心したり驚いたりと忙しそうだ。その反応がとても嬉しい。つまみ細工の花などは加工してブローチにしたいと言ってくれた。次のパーティで身につけたい、とのこと。

 ちなみにその流れでパーティも誘われたが、即座に首を横に振った。そんな場所に入っただけで心が死ぬに決まっている。

 ただ、透明人間として覗くのならば楽しそうだけど。きっとこの国独特の衣装が見られるのだろう。それは少しだけ楽しそうに思えた。


 そうして楽しい時間を過ごしていると、突然ノックの音が聞こえた。


 夕飯の時間には早すぎる。

 今までに無かったことなので、いぶかしげな表情を浮かべる二人。

 あまり良くない予感がした。


「どうした?」


 依織がマゴマゴしている間に、イザークがドアをあけた。

 そこには見知った顔が一人。


「隊長さん…?」


 依織の住んでいた死のオアシスまでの行軍の隊長を担っていた人物が、そこにいた。しかも、その表情は明るいとは言い難い。

 ジワリと、嫌な予感が広がっていく。


「イザーク殿、そしてイオリ殿に報告及び相談があります」


「相談?」


 その言葉選びにイザークが眉をひそめる。


「予言師達が口を揃えて予言を出しました。

 七日後、強大な砂嵐が来ます」


【お願い】


このお話が少しでもお気に召しましたら、本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです!


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