27.コミュ障と恋愛……?
更新が遅れて申し訳ありません!
「よく考えなくても、大変失礼だったのでは…!?」
後から考えれば、大変見当違いな手紙を送りつけ、かなり年上なのを暴露。その上、年上らしい落ち着きも何もなく、泣いて話ができないという失態をしでかした。
そんな依織をイザークは責めたりはしなかった。その点は救いではあるものの、顔面蒼白ものの大失態には変わりない。
「たっぷり慰めてあげたかったけど時間がなぁ…。
仕事ってめんどくさいね。
じゃ、また明日。楽しみにしているよ」
そう言って、イザークは仕事に戻っていった。
つまり依織は、日付が変わって明日、彼と会うときに返事をしなくてはならない。
「…失礼をぶちかました上に、自分の気持ちをまとめて報告書を仕上げなければ…??」
報告書ではないのだが、そういう表現にでもしないと依織の中で折り合いがつかない。
好きだと言われたあとに、自分の気持ちを整理して相手に伝えるための文章を書く、なんて。
そういうのを、世間では恋文とかいうのではないだろうか。
(…え、いやでも…はぁ!?
ど、どうすれば…)
正直に言えば、依織は自分が嫌われるモノだとばかり思っていた。
今までずっと「借り物の力で自分たちを騙していた」なんてことを言われるとばかり考えていたのだ。そしてその後、どうやって逃亡しようか、というところまでも考えていた。
逃亡計画は無駄になってしまったが。
「イザークは…なんて言ったっけ?
なんか…色々関係なく、どう思ってるか、みたいなことを…。
え? そもそも私、告白されたの? …された、気がする」
あのときはいっぱいいっぱいでよくわからなかったが、多分彼のあの言葉は告白だ。
自意識過剰でなければ告白だと思う。
マジか。
正直、台詞の詳細は覚えていない。
ただ、たくさん嬉しい言葉を貰って、嬉しい気持ちでいっぱいになって、感情が溢れた。というか決壊した。涙、という形で。
で、キャパオーバーしてしまい、今に至るわけで。
「お、落ち着いて。書こう、紙に」
言われたことを思い出して書き出し、のたうってもう一度向き直り、というのを繰り返す。
好意を向けられたこと自体、凄く久々な気がする。前世の後半は、業務としてしか人と関わっていなかった。家族はいるし、嫌われていた、と言うほどではないが、持て余されていた記憶しかもう残っていない。
だから、好意を向けられているという事実を認めるところからして少し問題があった。久しぶりすぎて、その事実を受け入れるのが難しい。しかもイザークがこちらに向けているのは恋愛感情、らしい。
「…キャパオーバーでしかない。
いや、でも…今はあちらの気持ちじゃなくて、こちらの感情の話であって…」
だが、冷静に考えようとしても無理がある。
そもそも相手から純粋に好意を向けて貰えている時点で、こっちの好意も、うなぎ登りなのだ。素直に発露できるかはともかくとして。
少なくとも嫌える要素が何一つとしてない。
気遣いができるイケメンが、こちらに好意を向けている状況で、果たしてどのくらいの女性がその好意を無碍にできるだろうか。
しいてあげるならば、女タラシ要素でちょっと引く、というのはあるかもしれない。けれど、それも確定してはいないわけだし。女の扱いには慣れていそうだけど、それはそれで個性なのであろう。
王族という立場もあるからそれはしょうが無い。ちょっとムッとする部分はあってもしょうがないったらしょうがない。
「……そもそも恋愛って何?」
よく考えれば、依織は恋愛経験は皆無だ。
それもそうだろう。対人経験からして、あまりないのだから。
もちろん、人並みに恋愛漫画や恋愛小説は読んだことはある。ただ、これは物語であって自分の身には降りかかるはずもないという気持ちがあった。だって、主人公達は皆、周りと意思の疎通が出来ていたのだから。依織とはその時点で何もかもが違う。
だから、自分の身に「恋愛」なんて現象が降りかかってくるなんて思ってもみなかったのだ。
「……どうしよう、さっぱりわかんない。
わかんないけど…いや、わかんないが答えでいいのかな…?
いや、いい歳してわかんないってアリなのかな?
でも…わからないものはわからないし…」
わからないのゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。
混乱した頭のまま、自分で作った紙に書き連ねる。
書いて、書いて、書いて。
そうしてようやく結論が出たのは、空が薄明るくなった頃だった。
「…仮眠くらいとらないと…怒られちゃう。
朝ご飯いいから寝よう」
その旨を紙に書いて、護衛の人に見せる。
ずっと起きていたせいてボーッとなった頭は、ほどよく人見知りを緩和してくれた。
その日の昼過ぎ。
しっかりと睡眠不足を補った依織の前にイザークが現れた。
「実は午前にも一度来たんだけどね。護衛に事情を伝えていてくれて助かったよ。
寝不足にしてしまったのは、昨日の会話のせい…だよね?
明日まで、なんて言ったから無理をさせたかな?」
焦らす意図はなかったんだけど…と、イザークは苦笑する。
そんな彼に手紙を渡す前に、依織から話しかける。
「あの…」
「うん?」
「たくさん、考えたのですけれど…」
用意していた言葉を唱える。
最初の言葉は、自分の声で、と眠る前から決めていたのだ。
文通がダメというわけではない。
文字でも、紙でも、上手く伝えられるのであればそれでいいと思う。この世界にはないけれど、電話だってメールだってチャットだって、なんだっていい。
なんだっていいけれど、今は自分の言葉で伝える方がいいのではないか、とそう思った。
言うべき言葉も、ちゃんと決めたから多分、大丈夫。
「私の答えは、わからない、でした。
…好きになるとか、好かれるとか…そういう経験が、ないから」
詳しくはWEBで。
ではなく、手紙で、ということを示すために手紙を渡す。
伝えるべきことだけは多分伝えられたので、あとは手紙にお任せだ。
下手に喋りすぎると過呼吸を起こしそうな気もするし。気持ち的に。
「あ、うん。
ここから先はお手紙ってことね。わかった、ありがとう」
ここまで来て、随分紙作りの方も上達した。まだまだ満足いく出来ではないが、当初よりも薄くインクも滲みづらい。
指摘されて初めて気付いたけれど、神様からのもらい物はあれど、自分の創意工夫でなんとかしてきたものもそれなりにあった。
依織が、卑屈になってそう受け止められていなかっただけで。
「しかし、わからないっていうのは予想外の答えだなぁ」
「あ、そっか…えっと」
わからない、ということを伝えられただけで安心してしまった。もう少しだけ続きがあることを思い出す。
「えっと…好きか嫌いかであれば、間違いなく好き、です。
その、恋愛かがわからなくって…」
「…それ先に言って!?」
「うぇ!? は、はい、ごめんなさい」
手紙を読んでいたイザークが、依織の言葉にガバリと顔を上げる。
「嫌いではないってことでいいよね?
じゃあ、お試しで付き合うのはどう?」
真剣な表情のイザークに詰め寄られる。
あぁ、ほんと顔がいい。
「お、お試し?」
「そう、お試し。
とりあえず恋人っぽいことしてみよう。で、イヤならすぐイヤって言ってくれればやめるし!
…あ、言えない?」
「……言えない、かも?」
ノーと言えない日本人代表と言っても過言ではない依織である。
「でも…無理なことは、多分、無理って…すぐ言う…ときも、あります」
「あー…そういえばそうだったかも。
イエスかノーで、少しでも迷うと結論が出せないって感じだったもんね」
この短い期間でよくそこまで依織のことを見ているモノだ、とちょっと感心してしまう。
どうあっても無理であれば、依織は即座に却下することが多い。逆にイエス・ノーどちらにもメリットデメリットがあって結論を瞬時に出せない時の方が言葉に詰まってしまう。どちらかを選ぶのが苦手、といっても良いかもしれない。
「ん? てことは、お試しお付き合いはいけそうだよね。
即座に却下されてないし」
そのことに気付いたイザークの笑顔は、大分明るいモノだった。
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