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24.コミュ障と徹夜の代償


「あ、すごい…この手触りは初めてかも」


 依織はたくさんの端切れに囲まれてご満悦だった。

 グルヤとの交渉は、あの後すぐお開きになった。ひとえに依織の口下手のせいである。依織がこの端切れから、どんなものを作ろうとしているのかを上手く伝えられなかったのだ。そのため、布以外のものは実際に完成品を見てから判断しようということになった。

 現在は、お土産としてもらった端切れの仕分け作業中である。

 依織は前世の職業柄、様々な布に触れてきた方だ。それでも、見たことのないもの、さわった事のないものはいくらでもある。世の中にはまだまだ未知の素材があるのだと少しワクワクした。恐らく、グルヤもそういう心持ちだったのだろう。彼の場合は豊富な語彙力と商人として鍛えてきた話術が爆発してしまうことに問題だが。


「ファスナーとかがないから作れるものも限られちゃうけど、これだけあれば色々できちゃう…。

 まずはこのヘアピン入れつくろうかな」


 イザークからもらったヘアピンのようなアクセサリーは大変キラキラしいが、大きなものではない。決まった保管場所がないと見失ってしまう可能性があった。使用していないとき、たとえば就寝時に置くためのアクセサリー入れのようなものがあれば便利だろう。


「このあたりの細長い布を裂いてヤーンにすればカゴが編めるかな?

 編み針は…今度木で作ってみよう。木と小刀をお願いして…え? 話すの? 無理。お手紙に書くかな…。もしかしたらあるかもしれないし。

 とりあえず今は指編みでいいか。久々だー」


 毛糸やレース糸ほどの細さであれば無理だが、布を裂いたヤーンであれば指でも編むことはできなくはない。小皿のような形の小物入れなので、そう時間はかからずにできた。

 そうなると、次が作りたくなる。

 何せこれだけ材料があるのだから。


 ヘアピンを保管するための小物入れを筆頭に、ポーチなど。パッチワークもしたため簡単なバッグなども完成した。創作意欲が次々に湧いてきて楽しい。

 その結果どうなったかというと。


「まさか徹夜すると思わなかった」


「大変申し訳ありませんでした」


 護衛のため屋敷の外にいた兵士にチクられ、イザークに説教される羽目になった。作業があまりにも楽しすぎて、眠るのを忘れてしまったというのが正しい。侍女が朝食を持ってきてくれたノックの音にも気付けなかったため結構大事になってしまった。

 中で倒れているのではないかと心配されてしまったのだ。

 イザークが突入してきたのは朝食というよりも、昼食に近い時間になってからだ。


「今日は外出予定なかったし、お昼食べたらそのまま寝てね」


「えっ…」


「…寝るよね?」 


「はい…」


 本当はまだまだ作りたいもの、作れそうなものがたくさんあるのだが、有無を言わせない笑顔で迫られてはイエスという他ない。実際、多方面に心配をかけてしまったという自覚はある。


「寝るまで見張るから」


「えっ…!?」


「あのね?

 俺ものすごく心配したんだよ?

 確かに伯父に言われたから、イオリの面倒を見るのが仕事っていう部分もあるのは否定しないけど。

 それでも報告受けたときに心臓飛び上がったんだから」


「大変申し訳ありませんでした」


 謝罪の言葉であれば淀みなく出てくる自分の口に感謝しつつ、もそもそと昼食を食べる。徹夜したせいか、少し胃が重く食事が進まない。

 それでもなんとか完食する。


「食べてすぐ横になると具合悪くなる人もいるから、少しお話でもしようか」


 この場合のお話というと、お説教に間違いないのだが、それを拒否する権利は今の依織にあるはずもない。ダラダラと冷や汗を流しながらイザークと対峙する。


「まったく…眠らせないって拷問もあるのに、自主的に眠らないってどうなの?」


「す、すみませんでした」


「いや、まぁ起きちゃったことは仕方ないから、今後はやめてね?

 あ、それとも寝るまで毎日見守る?」


「いえ、それは…あの、むり。

 …じゃなくて! ええと…迷惑、そう、迷惑になる、ので」


 おはようからおやすみまでを見守られたら、製作どころじゃなくなってしまう。というか純粋に迷惑だろう。断固として阻止したいため、足りない語彙力をフル回転させて言葉を紡ぐ。

 あまりに必死に言葉を探している様子が面白かったのか、イザークはとても楽しそうだ。

 機嫌を損ねたワケではないことに安堵する。


「ははは、半分くらいしか本気じゃないから安心して」


 半分は本気なのなにそれこわい。

 と、口に出せたらコミュ障卒業である。いや、この台詞はこの台詞で問題あるので、結局はコミュ障かもしれないけれど。

 思わず何言ってんだこいつ、という目で見てしまったがそれに関しては依織は悪くないはずだ。


「あはは、目線が冷たい」


「…」


 心配をかけて申し訳ない、とは思っている。思っているが、からかわれるとやはり良い気持ちにはならない。

 そういえば、この人は女タラシ人タラシの家系だった…と思い直してしまう。

 いい人だとは思う、けれど、油断するといつの間にかスルリと心の内側まで入ってこられそうだ。


(…一番の問題は、それが特にイヤって思っていない現状かも…)


 正直に言えば、イヤではないのだ。

 世話をやかれることも、ラクダに一緒に騎乗することも。今までの依織であればどちらも酷く恐縮して、消えたい気持ちになった。

 こんなに親切にしてくれるのに、自分には何も返せるモノがない、と。

 今だって、何か返すモノがあるとは言い切れない。なのに、イザークは「それでも、少しくらいは甘えていいんじゃないか」という気にさせてくる。この人タラシは本当に侮れない。


「おーい、自分の世界入っちゃった?」


「あ、…えと、はい」


「素直だ! いや、イオリは元々素直なんだろうけど。そういうとこもいいなぁって思うよ。

 ともかく、心配させないでねって話だよ」


「頑張ります」


 さらりと混ぜられた口説くような言葉を聞かなかったことにして、後半の心配させないでという部分にだけ返事をする。


「んー…わかってるんだかわかってないんだか…。

 今ね、イオリはこの国にとってかなりの重要人物なんだよ?」


「へ?」


「あ、わかってなかった」


 自分の世界に籠もって考え込んでいたせいで、イザークの話の大半を聞いていなかった。

 国にとって重要人物と突然言われて戸惑ってしまう。


「国の危機を救ったって言えばわかりやすいかな?

 今イオリに教えて貰った方法を色々試して、国は少しずつ力を蓄え始めてるんだ。まだ実験段階のものも多いから目に見えての進歩ではないけれどね。

 わかりやすいところだと、イオリがあちこちに出向いて飲み水を増やしてくれているお陰で今年は死者が激減した…っていうと、すごさを分かって貰えるかな?」


「え…でも、それは…」


 確かに依織は塩に浸食されているオアシスから塩を除去して回っている。でもそれは、依織が神様から貰った錬金術を行使しているだけにすぎない。

 それが善行のように言われても、自分の事のようには思えなかった。


(…自分の力ではないから、そんな風に言って貰える資格ってないと思う。

 だから、かな。

 色んな人から好意的な目で見られても、結局は私じゃなく神様の力を見てるって思うから素直に受け取れない)


「イオリの活躍を知ってる人は皆イオリに感謝してるよ。

 だからもっと自信持って。で、自分のことちゃんと大事にしてね」


 特に口説くわけでもない、紳士的なイザークの言葉に依織は泣きそうになった。

 そんな風に言われるような人間じゃない、と言えればどれだけ楽だろう。

 感謝している人も、イザークも本当の事を言えばきっと依織自身には見向きもしなくなるはずだ。


(…本当のことを言って、ひとりぼっちに戻る方が楽…って今までなら思ってたはずなのに)


 もともと人付き合いを避けてひとりぼっちを望んでいたはずなのに、いつしかこの環境になれている自分がいることに、依織は気付いていた。

【お願い】


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