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21.コミュ障と魔法オタク


「変じゃないわよね…」


 室内に依織の声が響く。依織の目の前には鏡。といっても、この国の鏡はあまり映りが良くなくてイマイチわからない。前世のものと比較してはいけないとはわかっているが、こういった場面ではついやってしまう。砂漠という物資が流通しづらい土地柄で、逆に良くこれだけのモノがあるな、とは常々感心してはいるのだけど。

 そうは思っても、目の前の映りの良くない鏡では自分の姿が思っているよりも確かめられないのは事実だ。

 依織は今、貰ったヘアピンで髪を留めている。

 この世界に来てから髪は一度も切った覚えがない。というのも、扱いやすい刃物が手元になかったのだ。流石に小刀で髪を上手く切れる自信はない。そのため、依織は栗色の髪を前も後ろも伸ばしっぱなしだ。

 この長い髪が、たまに布に巻き込まれる。結構痛い。そのため、イザークからの贈り物であるヘアピンはとても重宝した。

 ただし、使い方があっているかがわからない。


「…今日もくるはず、だし」


 昨日はさぁどうぞとヘアピンを手渡され、そのまま返すことも出来なかった。

 むしろ、返す方が失礼だろうとは思う。ただ、夜中に「一度ぐらい遠慮すればよかった! 日本人的に!!」と自分の気のきかなさにもんどり打ったけれども。

 ともかくも、受け取ってしまったのだから有効的に活用するべきだ。

 実際、これのお陰で髪を巻き込む事故は格段に減った。似合っているかはわからない。それに、このキラキラしいヘアピンのようなものは、普段使いしていいものかも依織には判断がつかない。それでも、貰えて嬉しかった、という気持ちは伝えたいものだ。


「こんにちはー。

 イオリ、開けてもいいかい?」


「あ、はい」


 イザークの来訪をドキドキしながら待っていると、外から声がかかった。なるべくいつも通りを心がける。が、すぐさまいつも通りが分からなくなった。そもそも普段から緊張しているのだから仕方が無いことかもしれない。

 結局ギクシャクとした動きでドアを開け、中へイザークを促す。


「今日は外でお昼一緒しようかと思って。

 んで、そのあといつものをお願いしようと思ってたんだよね」


「あ、はい。わかりました」


 外に行くとなると、一度このヘアピンは外さなければならない。確かシェーラを留めるのにも使っていいとのことだったのでそうしよう。

 一度室内に戻って、外出用の身支度を調える。

 何度もおかしくないか確認したのに、あまり見て貰えず外すことになって少々残念な気持ちになった。


「折角それつけてくれたのに外させちゃってゴメンね。

 でも、シェーラの上からでも大丈夫だから…あ、良かったら俺がつけようか?」


「へぁ…?」


 モタモタと準備をしていると、まるで依織の気持ちを見透かしたようにイザークが言葉をかけてくる。そんなにわかりやすい態度をとってしまっただろうかと頬が熱くなった。

 そして返事をまともに出来ないまま、あれよあれよと面倒を見られてしまう。


「うん、よかった。さっきのも良かったけど、シェーラの上からでも似合ってるよ」


「あ、ありがとうございます」


「気に入って貰えた?」


「えっと、はい。

 すごく、キレイです」


 完全なる語彙力の敗北。

 それでも、依織の言葉を聞いてイザークは嬉しそうに笑ってくれた。


「じゃ、いこうか。

 昼食とったらナーシルと合流して、今度は東の端っこのほうのオアシスの浄化をお願いしたいんだ」


 そんな言葉と共に自然な形でエスコートされる。


「っ!!??」


 今までは先導するように歩くイザークの後ろを、見失わないように着いていくだけだった。だが、今日は何故か手をとられ、共に歩いている。

 繋いだ手が暖かくて、妙に現実感がない。


(は? 手汗、やば。むり。助けて)


 心の中の声でさえ、語彙力が敗北を喫する。

 この日、ナーシルに会うまでの記憶が大変朧気だ。食事もしたはずなのに、一切合切を覚えていない。

 王宮内ですれ違った侍女たちには「オニアイデスネ」「ステキナオイロデヤケマスネ」などという呪文を唱えられたような気がするが、上手く言語としてとらえることが出来なかった。

 ナーシルはナーシルで


「あー…もう独占欲爆発しちゃったんですね、イザークさん」


 などと、のたまっていた。

 意味が分からない。 


 だが、意味がわからなくとも仕事は仕事である。

 指定された場所で魔法陣を作って塩を分離させる。手慣れた作業なのでほぼ失敗しない。万一失敗していてもナーシルが鑑定してくれる上に、シロもきちんと連れてきているので安心だ。


「うーん、仕組みは結構分かってきたんですけど…その模様がやはりわからないですね」


「ご、ごめんなさい」


「あぁ、謝っていただきたいのではなくて…えぇと…その模様の意味とかわかります?」


「えぇと…その」


 神様から貰った知識なので原理はわかりません、と正直に伝えるわけにもいかずしどろもどろになってしまう。

 また、ナーシルが持ち出す専門用語がわからないのもあり、混乱は最高潮だ。


「まぁまぁ。

 …というか、素朴な疑問なんだけど、その模様って紙に書いちゃだめなの?」


「あっ…そっか。そんな手がありましたね。

 というか、紙に書いたらダメだったりします?」


「えっ…と…」


 想定していなかった質問に頭が白くなる。聞かれたことを整理して、自分の中で答えを見つけるのに少し時間がかかった。


「やったことがない、ので…わからないです」


「なるほど!

 では、帰ったら早速やってみてもいいですか?

 もし紙に書いたものでも効果があるのでしたら、これからわざわざイオリさんが出向かなくても大丈夫になります! そうでなくても、紙を見て図面を覚えれば他の者も出来るようになるかもしれません!

 色々研究しがいがありますよ、これは」


 大興奮して鼻息が荒くなるナーシル。

 その様子に若干引いてしまう。ナーシルの好きなモノに一直線の姿勢は個人的には好ましいと思うし、話を聞いているのも結構好きだ。が、その対象が自分となるとちょっと無理だ。

 ただでさえコミュ障なのに、相手の立て板に水のような言葉がダバダバと注がれてしまっては、あっという間にキャパオーバーすることは間違いない。いっそのことナーシルとも文通をした方がいいかとも考えたが、恐らく文通というよりも文献に近い分厚さのモノが届きそうだ。それはそれで怖い。とても怖い。下手したら一晩かけても読み終えられない可能性すらある。


「ナーシル突っ走るなって言われてるだろー?

 とりあえず今日イオリは俺とデートだから、帰ってからすぐはダメだ。

 それと、魔法の基礎知識がない人に文献送りつけんなよ」


「やだなぁ文献なんて送らないですよー」


 そう言うナーシルの目は軽く泳いでいる。

 どうやら言われなければやるつもりだったようだ。釘を刺して貰えて本当に良かった。

 が、その前の言葉が大変気にかかる。何か今また理解不能な単語を口にしなかっただろうか。

 怪訝な顔でイザークを見ると、やっぱりキラキラしい顔でコチラを見ている。


(最近分かってきた。この無駄に華やかさを増した笑顔って、多分有無を言わせたくないときに使ってるんだ…。

 顔面ヨシオさんはそんな使い方も出来るんですね)


 なんとなくイザークという男が分かってきた。

 たぶん良い王族なのだろうけれども、やはり人に命じたりお願いしたりするのには慣れている。依織に兄弟はいないけれども、おねだり上手な弟とはきっとこういうモノなのだろう、と感じた。

 不敬ながらも、弟なんだろう、そう思うことにした。

【お願い】


このお話が少しでもお気に召しましたら、本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです!


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