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2.コミュ障とキラキラの軍団


 無駄に キラキラしい 集団 が 現れた。

 イケメン恐怖症も患っている依織に効果はばつぐんである。

 人数は8人くらいだろうか。何せ狭い家の入り口から見ているだけなので全員の顔は見えやしない。ただし、その顔面が無駄にまばゆいということだけはわかる。なんかわかる。怖い。

 本来ならば、逃げる一択だ。

 けれど、その場合この家を捨てることになる。この住処を無くしたら生きていける気がしない。いや、神様から無駄に様々な能力を貰ったので出来るのかもしれないけれど、したくない。

 ならば、どうにかして会話を試みるしかない。…それが出来ていればコミュ障という称号をとっくに返上している。


 相手もクソ暑い砂漠を頑張ってわざわざ行軍してきたのだから、コチラに用事があることは明白。前世のネットの情報で知った雇われの悲哀を考えると、関わりたくはないが話くらいは聞かないと彼らが可哀想な目に遭うかもしれない。

 それはなんか後味が悪い。


 では、どうやって対話をするか。

 この場合普通はどうするのか。一生懸命考えたがわからなかった。わかったところで口から言葉が出る気があまりしないというのはある。


「…あの、えっと…」


「あぁ、そうかすまない。

 女性の一人暮らしの家に大勢の男が押しかけるのはよくないな。

 ねぇ、隊長俺が話してみてもいいです? ある程度権利譲渡されてるし」


「しかし…」


「大丈夫大丈夫。

 ていうか、こんなプルプル震えてる子に、デカイ野郎どもが威圧してる絵面の方がヤバくない? 国の威信に関わるって。だれも見てないけど」


 なんと返事をすればいいかオロオロしていたら、群を抜いてキラキラしいイケメンが先頭にいた人物とそんな会話をしていた。逆光でもイケメンとわかるとかどんだけだ。そのイケメンの声を合図に、彼らは家の入り口からどいてくれる。それだけで圧迫感が随分少なくなった。

 どうやら代表の一人だけが会話するスタイルにしてくれるらしい。大変嬉しい配慮だがそれでも会話が出来るかどうか…。

 ともかく、気遣ってくれたのならばお礼は言わなければならない


「…あ、りがとう、ございます」


「いやいや、こちらこそ申し訳ない。砂漠の魔女さん本当に女性一人暮らしだったんだねぇ。

 なんか不便とかないんです?」


 不便を感じたことはない、むしろ一人で大変快適です。と、言葉に出来たらいいのだが、依織に出来るのはただ首を振るジェスチャーのみだった。

 必死に言葉を探しているうちに沈黙が続く。それが気まずくて泣きそうになった。

 これだから、人と話すのはイヤなんだ。


「えーと…しゃべれない系…ではないですよねぇ。お礼言ってくれたし。言葉も通じてる。

 怖がらせちゃったかなぁ…」


 キラキラしいイケメンは心までもイケメンらしく、いつまで経っても返事ができない依織を気遣って色々喋ってくれる。が、それはそれでしんどいのだ。何に対して返事をしていいかわからなくなってしまう。


「ご、ごめん、なさい」


 で、やっと出てくるのは謝罪だ。いつもそう。

 気まずくしてしまってごめんなさい。会話ができなくてごめんなさい。

 姿勢を低くして、謝ってやり過ごす以外の方法がわからない。


「いやいやいや、謝って欲しいわけではなく…。

 うーん、困ったなぁ。こういうのは想定してなかった」


 たまに、こんな風に優しい人もいた。気を遣って色々声をかけてくれる。慣れればそういった人とは話すことも出来たこともあった。ただ、ずっと気を遣って貰うのが申し訳なくて、自分が情けなくて、なんとなく距離を置いてしまう。

 昔から何一つ変わっていない自分を再認識して、依織は泣きたくなった。

 転生したとしても、神様から色々な能力を貰ったとしても、心根が変わっていなければ異世界でもどこでも生きていけるはずがない。

 今更だが、砂漠で生き抜く能力よりもコミュニケーション能力を貰った方が良かったのではないだろうか。何かあったときのためにとこちらの世界でも読み書きに困らない翻訳能力はもらったのに、その辺りを失念していたことに頭を抱えたくなった。


「えーと、とりあえず俺たちに攻撃の意思ないのは分かって貰えるかな?」


 こくん、と一つ頷く。


「じゃあちょっと質問に答えてもらいたいんだけど、それも大丈夫?」


 また一つ頷く。

 相手はイエスかノーで答えられる、もっと言えば頷くか首を振るかのジェスチャーだけで答えられる質問に切り替えたようだ。

 このイケメンは気遣いも完璧らしい。なんでそんなに能力を持っているのだろう羨ましい。


「うん、ここまではオーケー。

 あとは…どうしようかなぁ」


 そこまで会話をしてふと、相手がジリジリと日光に焼かれていることに気付いた。

 砂漠の日差しは熱いというよりも痛い。いくら日光避けのヴェールや布を纏っているとしても相当な暑さだろう。それに、神様からここと人里の距離を大まかに聞いたことがある。この塩に飲まれかけている小さなオアシスに一番近いのは、実はこの国の都らしい。そこまではラクダを走らせて2日ほどかかると聞いていた。都に行く気などサラサラなかったので今の今まで忘れていた。

 ということは、彼らは最低2日、徒歩ならばもっと多い日数を砂漠の太陽に照らされて歩いてきたことになる。


(もしかして、要求は水かな?

 なら、水を渡したら追い返せないだろうか。あと、2日も移動してきたならおなか空いてるかも?

 食料とか、そういうのの補給だろうか)


 家の中に入れるのは論外だし、そもそもあの人数は入らない。けれど、以前織った大きめの布を渡して、椰子の木にでも結んで貰えば天幕もどきはできるだろう。それに水ならオアシスから汲めばいいし、食料も多少であればある。最悪暫く水だけで生きることはできるはずだ。

 そう思い立ったが吉日、イケメンに背を向けてごそごそと布を探す。

 幸い本当に大きな布だったためすぐに見つかった。それを持って、イケメンに差し出す。


「…?」


 そこで、やらかしたことに気付いた。

 唐突に布を渡されたとしても相手は何が何やらわからないだろう。


「あ、あの…天幕、大きい布…。

 水とか、食料、も、ある、あります」


 お前は何人だ、と自分自身に問いたい。いや、日本人であり、ここでは異世界人ではあるのだが。それにしても酷い言葉だ。

 人と話したこと自体久しぶりなせいもあるだろう。以前よりも格段に会話能力が悪化している気がする。


「…もしかして賊の類いと間違われてる?

 いやでも水とか食料わけてもらえるのは嬉しいんだけど…強奪する気とかないからね?」


 身なりでそれはわかっている。ブンブンと首が千切れんばかりに頷けば苦笑を漏らしながらも了承してもらえたようだ。

 なんとか水と布を受け取って貰うことに成功した。

 あとは食料も押しつけて穏便に帰って貰おう、そうしよう。

 バタバタと家の中から保存食をまとめる。女の一人暮らしなのでそうたくさんの食料はないが、そこは勘弁して貰うしかない。

 そんな依織の背中を黙ってイケメンは見つめている。


「魔女っていうからどんな恐ろしい女性が出てくるかと思ってたんだけど…どう見ても小動物だよなぁ…。

 いやしかし、コミュニケーション困難なのは困ったな。見てて面白いんだけどね」


 ポツリとキラキラしいイケメンが呟いた言葉は、依織の耳には届かなかった。


【お願い】


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