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17.コミュ障の王宮離れ暮らし


 王宮の離れでの生活は快適そのものだった。

 勿論、誰とも会わないということはできない。それでも、今までの生活は常に誰かしら傍に居る状態だったのだ。そこから考えれば、とても快適である。

 離れに訪れるのは日に三回の食事を運んでくれる侍女と、イザークくらいだ。


 ちなみに、侍女は依織の世話を焼けないことに大層不満を持っているようだった。それもそのはずで、断れない依織は今まで侍女に言われるがまま、全ての世話をされていたからだ。

 それこそ着替えから風呂に至るまで。流石にトイレの世話をされそうになったときは泣いて、テコでも動かなかったため諦めて貰えたが。ただ、そのときに精神力を使い果たしてしまったため、それ以外で抗う気力すらわかなかったのだ。

 王宮の一室で過ごしていたときの依織は、侍女の着せ替え人形だった、とも言える。


 依織は知らないことだが、王族というのは基本的にわがままなモノだ。しかも王族の女性ともなれば、服から宝飾品に至るまで気分にあったコーディネートができないと外出しない、という剛の者すらいる。要するに、ワガママなのだ。それをなんとか宥めすかして最低限の場所には連れて行く、というのが侍女の務めでもある。

 そんな王族の相手にちょっと疲れていた侍女が、自分の意見をうまく言えない依織でストレス発散をしていた、というわけである。といっても、別に非道を強いられたわけではない。

 ただただ、侍女が依織に似合うと思うコーディネートをし、肌を磨き、見た目だけでも一人前のレディにしただけのこと。その甲斐あって、王との謁見の時の依織は、王族のお眼鏡にかなう逸材になっていたのだ。栄養不足でガラガラだった日本人時代と違い、依織は今、見た目だけなら貴族に張り合える程度にはなっているのはそのお陰だ。勿論、多くが褐色の肌なのに対し、白っぽい黄色人種の肌が珍しいという面もある。

 が、別に見目がどうこうというのは依織の望んでいたことではないわけで。


 王宮の離れでは、食事以外のことは全て依織が自分自身でやっている。

 もともと日本では一人暮らしだし、こちらの世界にきてからはずっと自給自足だ。


(朝起きて、自分で着替えて身支度をする…素晴らしい!!)


 当たり前のことが当たり前に出来る自由を噛みしめている依織の元へ、侍女が朝食をもってきてくれるところから依織の一日はスタートする。ちなみに侍女は他の人間に何か言い含められているのか、依織の手入れをしたそうな目はするものの、何も言い出してこない。

 もともと小食な依織の朝ご飯は簡素なものだ。侍女はもっと食べさせたそうにしていたが、朝から油モノは胃が受け付けてはくれない。

 侍女が依織の食べられるものを観察した結果、豆のスープや果物といったあっさりした食事が選ばれるようになった。それを食べ終えたら外にいる護衛の人に緊張しながら挨拶をして、食器類を預ける。そこからは何もなければフリータイムだ。

 依織はその時間を、ほぼ織物に充てている。ごくまれに、紙を研究するときもあった。

 そうやって作業に没頭しているうちに昼食が運ばれる。胃に入る分だけを入れて、朝と同様に食器を預ける。

 こちらの世界にきて、依織も少しは健康に気を遣うようになった。午後からは肩こり緩和のためにも少し運動をする。体に染みついているラジオ体操をして、ちょっとストレッチをこなす程度。それでも基本的に気温が高いこの国では、丁寧にやるとちょっと汗ばむくらいにはなる。

 その後また織物に戻り、夕食運ばれついでに風呂の世話だけは無理矢理されてぐったりし、時間と体力に余裕があればまた織物に戻り、屋敷内の片付けをして就寝。

 これが今の依織の一日の基本的なサイクルだ。


 しかし、このサイクルに一つだけ、毎日不確定要素が入ってくる。

 それはイザークの存在だ。


「こんにちは。今日は昼食当番の侍女さんに代わって貰ったんだ。

 一緒に食べよう」


 バスケットに大量に詰められたサンドイッチのような食品を見せながらイザークは笑う。

 先日は昼食後にオアシス浄化のお誘いだった。それはまだいい。断り切れなかった依織のお仕事だ。

 しかし、この日のイザークはただ依織とご飯を食べるだけ。

 このキラキラしい顔面と向かい合ってのご飯である。あまりにも無理みが強い。しかしながら、それを断れるならばコミュ障こじらせをとっくに卒業しているわけで。

 依織はイザークと向かい合いながら食事をした。味はわからない。ただ、粗相をしないように極度に緊張しながら食べたことだけは覚えている。


 また在るときは、三時のおやつの時間にお茶と軽食を持ってきた。この世界に間食の習慣があるのかはわからないけれど、雰囲気としてはそんな感じだ。この日の持ってきて貰った軽食はかなりおやつっぽく、甘かったことだけは覚えている。それと、お茶の香りが良かったことも。


 イザークは帰り際にいつも手紙を置いていく。

 それはその日あったことだとか、依織が住んでいたオアシスの現状報告だとか、ともかく雑多に様々なことが書かれている。その中には、どういった食事が好みか、などの質問も含まれていた。

 面と向って聞かれているわけではないので、依織としても幾分返事がしやすい。

 眠る前の時間に、手紙を読んで返事を書く。

 イザークの字は、女タラシ人タラシという雰囲気をあまり感じさせない、綺麗な文字だった。


 また、あるときは布を織っているところを見せて欲しい、と言われたこともある。

 どう断れば良いかもわからず、結局流されるまま依織はイザークの前で作業の続きをした。最初は緊張から糸のかけ間違いなんかを何度もしてしまった。

 誤魔化すように何度も長くなった髪を耳にかける。失敗したのは、髪が邪魔だったせいだ、と言い訳をするように。そもそも、イザークは布の織り方で、何が失敗で何が成功なのかもわからないはずだが。

 そうやって最初は緊張していたものの、人間は次第に慣れてくるものだ。作業を続けるうちに没頭して、イザークがいたことも忘れてしまうほど。

 その日のイザークは予定がなかったのか、数時間ずっと依織が布を織る様を見つめていた。


 オアシスの塩抜きのために依織を外へ連れ出す役割をしているのも、当然ながらイザークだ。そういう日はナーシルと合流し、イザークとともにラクダにのって、現地へ向う。

 ラクダの上で、ポツリポツリと話をする。

 話の内容は手紙の延長戦の様なもの。

 例えば


「前に手紙に書いた、イオリさんの魔力使っている感覚の話なんだけど…」


 なんて感じで会話が始まる。

 手紙に書かれていることは一応頭に入っている。そのため、比較的スムーズに受け答えが出来た。ちなみに魔力に関することを話し出すと、十中八九ナーシルが会話に参加してくる。そうなると議論の中心はナーシルになるわけだが、その話を聞いているのは結構楽しかったりする。

 ナーシルの話は専門的な要素も大きいが、頑張ってかみ砕いて説明しようとしてくれているのは伝わってくるのだ。

 本来の仕事を終えてからではあるが、実際にこの世界の魔法というものを試してみたこともある。ナーシルの見よう見まねで魔力を操った結果、依織にも魔法が使えることはわかった。

 ちょっとお茶を飲みたいときに、火魔法でお湯を沸かすのは便利そうだ、と後日手紙でイザークに伝えたところ変に感心されるというエピソードなんかもある。


 こんな風に、いつのまにかイザークは依織の生活サイクルに食い込んでいた。


【お願い】


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