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13.コミュ障と王様


「ふむ、そなたが死のオアシスの魔女か。イオリといったな」


「…はい」


 きらびやかな室内で、大勢の人間に囲まれながら謁見は始まった。

 砂漠では贅沢品の水がチョロチョロと流れる音がする。イメージとしては日本家屋のししおどしに近い。その他の、例えば依織にしては無駄に垂れ下がっているように見える布もかなり丁寧に織られたものなのがわかる。キラキラと光を反射するのは小さな宝石が散りばめられているからだろうか。とにかく、室内がとんでもなく豪華だった。

 ただ、それをゆっくり眺める精神的な余裕は依織にはない。この時点で依織は気絶しそうなくらい緊張している。

 依織や王の周りを囲む人、人、人。それは万が一何か起きたときのための護衛だったり、それから実務をこなす補佐官達だったり。ともかく物凄いアウェイだ。

 見知らぬ多数の人間にプラスして、この国での最高権力者を前に依織はプルプル震えていた。一応ひざまずいて頭を下げている状態なので分かりづらいとは思うけれど。

 ちなみに、イザークや隊長さんは護衛任務なのかこの部屋に配属されていた。一緒に過ごした時間がある彼らなら依織が怯えてガチガチなのはお見通しだろう。


 しかしながらこの怯えの原因は、依織の勝手な想像のせいもある。

 昨日イザークに言われたワケのわからないことは頭の隅っこにやるとして。その前の、王様情報を思い出す。

 奥さんが現在7人も居て、そのうちの一人は14歳の現在46歳。その情報を聞いて依織は「さぞ脂っこい石油王みたいな人なんだろうな」と思っていたのだ。年齢も年齢だし、富裕層だから少々お腹が出ていて…と言った感じだ。しかし、実際は全く違った。

 光の加減で赤っぽく見える黒の短髪。この国の人間らしく、肌の色はやはり日に焼けた褐色だが、シミなどは見当たらない。威厳と迫力のある目は赤茶色で、見る者を思わず引き込むような魅力と色気がある。目元に浮かぶ皺に少しだけ年齢を感じるが、それ以外はどこからどう見てもイケメン・イケオジだった。そりゃ14歳の少女も押せ押せで迫るはずだ。


(失礼なこと考えてしまってすみませんでした。

 無礼打ちはおやめください。あと早くおうちにかえしてください)


 しかしながら、年頃の娘が熱を上げそうなイケメン・イケオジであっても依織からすれば特に態度に変化を起こすようなことはない。ただただ、こちらとはあまり関わらず、そっとしておいてくださいと願うばかりだ。

 本日の依織の服装は、普段よりも何故かおめかしをされている。一応謁見するとのことでなんかよくわからない間に磨かれてしまった。ドヤドヤと色んな人が入れ替わり立ち替わり、この布は白い肌に映えるだのなんだの。依織が一度に相手を出来る人数を思い切り超過していた。それだけで依織の体力気力は根こそぎ奪われてしまった。

 オシャレが嫌いなわけではない。例えば、ずらっと服が並んだワードローブの前に連れて行かれ「好きなモノを選んで良いよ」と言われたら、それなりにウキウキしながら服を選ぶだろう。そうではなく、たくさんの侍女が入れ替わり立ち替わり服をあてては帰って行ったため、疲れてしまったのだ。

 唯一の救いは与えられた衣装の中にフェイスベールがあったことだろうか。薄い布は呼吸を阻害することなく依織の表情を隠してくれるため大変有り難い。コレのお陰で気絶を免れているといっても過言ではない。いや、マジで。今度似たものを織って着用しよう。


「詳しいことは書面で。

 ともかく、今うちの国はピンチでな。ネコの手も借りたい、という感じなのだ。

 都のオアシスの件、解決出来ればそれでよし。出来ずとも責めんから、とりあえず取り組んでみてくれ」


「承りました」


 たくさん練習したので、これだけは噛まずにスムーズに言えた。

 ほっと安堵の息を吐きたいところをグッと堪える。まだ安心してはいけない。未だ周りには人間が多く気を抜いてはいけない。どんな失態をしでかし、殺されるか分かったものではない。

 相手はこの国の最高権力者なのだ。

 知らず、ギュウと手に力が入り、握りこぶしを形作る。


「あぁ、楽にしてよいぞ。

 ところで…」


 楽になんて言われて出来るものか、こっちはただの異世界出身の庶民だぞ、と言えるはずもなく。フェイスベールの下の唇がへの字に歪む。きちんと返事をするために、気合いを入れて言っていることを聞きとらなければ…。

 だが、そう思うほどに周りの音声を聞き取ってしまう系コミュ障が依織だ。幸いなことにこの場で私語を楽しむ輩はいないようだが、それでも何故か外の鳥の声なんかまで聞こえてしまう。あぁ、そののどかな音声に見合ったところへ私も行きたい、などと現実逃避がしたくなった。

 だが、現実は非情なもの。王のイケボが室内に響く。


「甥に釘を刺されたのだが、イオリ殿はなかなかに可愛らしいな?」


「はぇ?」


 気の抜けた声が出たが、流石にこれは自分は悪くないぞ、と主張したい。

 何故王との謁見の場で容姿にお世辞を言われるのだろうか。


(あれか? あげまくって逆に落とすみたいな作戦だろうか。それとも気が抜けたところで無理難題を押しつける気か?

 流石王様、色んな手管を知っている)


「っと、睨まれてしまったよ。

 我が甥ながら怖いな。まぁ良い。俺は優秀な人材が流出しなければ良しとしよう」


「はぁ…」


「もしや、ピンときてないな?

 甥とはアレのことだ」


 王が指差すので、思わずそちらを振り向いて固まってしまった。

 そこにいたのは紛れもなくイザークだ。そういえば周囲に監視されながら王様と会うとかいうド緊張シチュエーションで頭の遙か彼方にぶっ飛んだが、昨日イザークがカタオモイだのなんだの言っていた気がする。

 そういえば、似たような言葉も言われたような…。


(目の色とかも似てるし…そうか、言動も似るのか。

 イザークはタラシだったのだ。王様の甥だし第3夫人くらいはいけるクチなんだろうきっと)


 そう思うと、途端にイザークの好感度が下がる。なんとなく見る目が残念なものになってしまうのは仕方の無いことだろう。

 その視線を受けてイザークは慌てた素振りを見せたが、まあ依織には関係ない。

 精々たくさん口説いて子孫を繁栄させてほしいと思う。依織に関係ないところで。

 なんとなく、胸がモヤモヤする。多分、王の親族であることを隠されていたからだろう。知っていたら無駄に会話せず、平謝りしていただろうに。それはそれで問題かもしれないけれど。


「なんだ、教えていなかったのか。

 まぁイオリ殿。オアシスの件、くれぐれも頼んだ。

 褒美もできる限りのことはしよう」


「…微力を尽くします」


 ここで「やったー褒美ー」と、なれるほどイオリは現金でも楽天的でもない。それに、こういう場合は多分遠慮した方が良いはずだ。日本人の謙虚魂を発揮しなければ。

 むしろ褒美として街の一等地に住まいを、なんて言われたら泣いてしまう。依織の望みはいつだって平穏に、人と関わらず、趣味に没頭して生きることなのだから。

 ともかくも、これでこの重たい空気の空間から解放される。その安堵からちょっと体から力が抜けそうになる。気付けば掌がぐっしょりと汗で濡れていた。


 何か声をかけたそうなイザークのことは、とりあえず頭の隅から追いやった。

 明日からは現地行脚が始まるのだ。

 依織は王に再度礼をしてから退出した。意識を保った自分を存分に褒めてやりたい気分だ。



【お願い】


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