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12.コミュ障とキラキラのイケメン


 イザークという男は出会ったときからイケメンだった。

 まず所属している軍団(のちに軍の人間と分かったが今でもホンマかいなと思っている節がある)がキラキラしい。だって、無駄に顔面がいい。もしかしたら魔女を顔面で陥落するために、様々な年代のキレイどころを揃えたのかもしれないけれど。ともかく、そう思われても仕方が無いようなキラキラしい集団の中で、イザークは群を抜いてキラキラしかった。

 この地域の人間らしい艶めかしいチョコレート色の肌。最初はクトゥラで覆われていて分かりづらかったがその下にある髪も、濃紺でとてもキレイだ。目の色は赤みの強い茶色だが、いつも柔らかな光をたたえていて優しげ。10人いたら389人くらいイケメンと言う、そんな感じ。

 また、容姿だけでなく中身もイケメンだ。

 まず、依織と会話が成り立つように会話をイエスかノーで答えられる質問形式にしてくれている。コミュ障的に大変嬉しい。また、今持ってきてくれた食事だって豆と山羊乳という栄養満点かつ胃に優しいものだ。

 何よりも依織にとって印象的だったのは、依織の作品を褒めてくれたこと。

 あの時の表情は、裏表なく本当に感心してくれていた。打算も何もなく、褒められたことが今でも鮮明に思い出せる。そしてうっかり赤面だってできる。

 まぁそういう感じの、完璧なイケメンだ。


 そのイケメンが、カタオモイ?

 なにそれ、美味しい? という世界だ。

 

「いや、実はね。君のことペラペラ話しちゃってね、王様に」


「はぁ」


 そこからどうしてカタオモイとやらに繋がるのだろうか。ただ、浮かんだ疑問をわざわざ口にする気にもならず、気の抜けた相槌をうって先を促した。


「可愛い子だーとか、織物がすっごい上手とかね。

 あ、紙も思わず見せちゃったんだ」


「あ…あの試作品を…!?」


 そこは聞き捨てならない。あれは失敗作に近い試作品だ。そりゃあ文字は書けるけれど、折り曲げたら千切れてしまう上にペン先が引っかかる粗悪品。

 アレを見せたのか。というか持ってきたのか。

 ツッコミどころが満載だが、残念なことに依織はパクパクと口を開閉させることしかできなかった。抗議の言葉が咄嗟に出てこない自分が心底恨めしい。

 せめて言ってくれれば織り直したのに。そんな時間なかったのはわかっているけれど。


「あ、ちゃんと試作品だよっていうのは言っておいたよー。

 …布は普通に作品でいいんだよね?」


「あ、はい…そうですけど…」


 布はきちんと自分で色々考えて織ったモノだ。それでも、天幕用にと渡したやつは一番シンプルなヤツである。お偉いさんに見せるのであればもっと色々あるのに。グラデーションにしたやつとか、模様を織り込んだものとか。


「まぁそれでね。うちの王様ちょっと変わってて…いや、為政者としてはアリなのかな?

 とにかく有能な人が好き、ついでに女の人も大好きって人でさぁ…。

 わかってて話しちゃった俺らも悪いんだけど、下手したら『第八夫人に!』とか言い出しかねなくって」


「はち!?」


 財力を持ち、次世代を残さなければならない立場の人間がお嫁さんを複数持つのはよくある話だ。だが、それにしたって第八夫人というのは多過ぎだろう。現時点で7人いる計算ではないか。


「うん。ちなみに君よりも年下であろう14歳のお嫁さんもいるから年齢でアウトはないと思うな。ちなみに王は今46歳です」


「………えぇ…?」


 日本人的感覚の依織からすれば困惑しかない。

 今現在の依織の体は恐らく二十歳そこそこ。前世の分もカウントすれば、46歳の王様は許容範囲内としても構わないだろう。許容はしたくないけれど。

 だが、14と46は依織的にはアウト中のアウトだった。14歳少女の人権はどうなる、と思ってしまう。


「あ。14歳の第五夫人は本人が押して押しての仲だから心配しないで。この国の成人である18歳になるまでは手ぇ出さないって公言してるから。

 だからそんな軽蔑した顔しないで!」


「…あっはい」


 自分が50になっても手を出すつもりはあるのか、というツッコミはしなかった。


「まぁそんな感じに女好きかつ優秀な人が好きでね。すぐ囲いたがるんだよ。

 だから、俺が今片思い中で相手も憎からず思ってくれそうな気配があるから手を出すな、口説くな! って言ってあるんだ。

 だから、そういう感じで話を合わせてくれると助かるなーとね」


「はぁ…」


 一応こちらを守るつもりで、そういうことを言ったらしい。

 それならばまぁ、わかる。今の依織は身分も何もないただの女性でしかない。一国の王様に「嫁になれ、八番目だけどな!」なんて言われても断れるはずがないのだ。依織の場合はそれ以前に断りの台詞を失礼なく言えるのかという問題もある。


「ほんと、優秀な人が好きなだけで悪い王じゃないからさ。

 略奪愛とかしないし。だからそういっておけば安心だから…多分」


 多分なんだ、とは言葉にしなかった。

 ともかく事情はわかった。依織としてもこれ以上厄介事に巻き込まれるのはごめんなのだ。そもそも、ここにくるだけで大変疲労している。錬金術で魔力切れを起こしたせいだけではなく、精神的な疲労が酷い。

 ここまで他人と長い時間関わったのは、前世の修学旅行以来ではないだろうか。あれは…地獄だった。

 修学旅行に比べれば、唯一の女性として気遣われたしマシだったのかもしれない。でも、辛いものは辛いのだ。

 嫌なことを思い出してしまいそうになり、依織はそれを振り払うようにフルフルと首をふった。今世は心穏やかに、人と関わらず、織物を趣味として生きるのだ。既に一国の王とかいうビッグネームと関わらなければならないイベントは始まっているので、少々不安があるけれど。


「それにしても、イオリさんほんと変わってるよね。

 第八夫人とは言え王さまのお嫁さんになることに全く興味ないんだ?」


「…ない、です」


 一瞬言い切ってしまうのを躊躇った。ここまできて無礼打ちされるのは避けたい。しかし、イザークは何やら王様に対してフレンドリーだし、それはないだろうと思って言い切る。

 実際、為政者の身内なんてとんでもなくめんどくさいに決まっている。おとぎ話の王子さまに嫁いだ女性陣の気が知れない。文化も違えばしきたりも違う場所に自ら飛び込むなんて依織には全く考えられない行動だ。

 自分は自分らしく、身の程を知って慎ましくささやかに引きこもりたい。いっそのこと花とか石ころに生まれ変わりたい。それが依織の切なる願いだった。

 神様とやらにその願いは踏みにじられたけれども。


「綺麗な服とか、美味しい料理とかの贅沢には興味ないんだ?」


「………なくても、生きられる、ので」


 そりゃあ綺麗な服は主に作る方の意味で興味はあるし、料理だって不味いよりは美味しい方がいい。自分でなんとか間に合わせで作った料理モドキよりも、今目の前にある料理の方が断然美味しい。

 けれど、それらの魅力よりも、人と関わる煩わしさや疲労の方が大問題だ。


「あ、よかった。服とか料理が嫌いってわけじゃないんだ?

 それより王さまのお嫁さんになってたくさんの人と関わる方が苦手、みたいな?」


 コクンと頷く。

 人と普通に付き合えて、嫌われない自分を夢想することはあった。ただ、そんな妄想も現実に帰れば空しいだけ。現実は、言葉ひとつ返すのにも怯えてしまう弱虫な自分がいるのみ。だから、高望みはしない。


「ふんふん。じゃあ人付き合いが最小限であればなんとかなる感じかなー?」


「へ?」


 先程の言葉をどう解釈したのだろうか。うんうん、とイザークは一人頷いている。


「いや、一応演技で口説く予定だったんだけど、俺は王さまじゃないから本気で口説いてもいいかなーって思って」


「…………はい?」


 たった二文字の言葉を返すのに数十秒程を要した。

 イザークの言葉は依織の理解の範疇を棒高跳びで越えていった。


【お願い】


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