エピローグ
ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!
また、昨日より新連載を開始しておりますのでそちらもご覧いただければ幸いです!
王都のメインストリート。
そこから一つ、二つと裏通りに入ると、人々の賑わいはほぼ聞こえなくなる。だが、この辺りまでは国の警備兵が見回りにくるため、治安は良い。
そんな場所に最近新しく店ができた。
周囲から浮くような外装ではないものの、一見すると店には見えにくい。というのも、この国のオーソドックスな店舗と言えば、通気性を良くするためにもかなり開放的な造りのものが主流だ。それに対してこの建物は小さな木のドアがあるのみ。看板も何も掲げていないので、民家と間違う人がいてもおかしくはなかった。
来る客はかなり少な目。まさに知る人ぞ知るお店、と言って間違いないだろう。
そんな店に、来客を告げるベルの音が響く。
「……いらっしゃいませ」
ドアをくぐると、緊張した女性の声が聞こえてきた。が、その声音はすぐに余所行きのものから見知った人物へかけるものへと変わる。
「あ、いらっしゃい、二人とも」
「やぁ、イオリ。調子はどう?」
「すっかり店主が板についてきたって感じッスねー」
「そう、だといい、けど……」
認可技術師という物凄い称号を貰ってから、一番張り切ったのはグルヤかもしれない。
初孫の門出を喜ぶ祖父が如く、土地の選定から内装までめちゃくちゃ手をかけてくれた。最低限で大丈夫、そんな一等地でなくて大丈夫、という依織の意見は却下されてしまったものの、店の雰囲気などの要望はこれ以上ないくらい聞いてもらえた。
更に、二階には依織の安全と安息を最優先した居住空間まで。グルヤには本当に感謝してもし足りない。
「今のところ接客には問題ないんだよね?」
「はい。練習、したので」
憧れの自分の店が持てるということで、その辺りは本当に頑張った。最低限の接客のセリフは前世で学んでいたので、あとは滞りなく口から出すだけだ。イレギュラーな会話がなければギリギリなんとかなる、なっている、はず。
「それに、お客さんみんな優しい、から」
依織は知らない。
この店に訪れることができるのは、グルヤとイザーク二人の眼鏡に適った人物しかいないことを。
良からぬことを企んだり、無理強いしてきそうな人物は最初から論外。悪人でなくとも圧倒するように喋りまくるような人物も除外の対象にしている。そこまで対象を広げるとグルヤ本人に巨大なブーメランがブッ刺さりそうだが、そこは共犯者のイザークから釘がブッスリ刺さっていた。
過保護にも程がある措置だが、お陰で定型文接客スキルしかない依織でもなんとか新米店主をこなせているのだった。
「それはよかった」
「イザーク達もお買い物? それとも、あの……」
そこで依織は一度言葉を切る。こればかりは練習していてもちょっと舌がもつれる。
恥ずかしくて。
「名誉なんとかの、方?」
結局自分で名誉魔導士と言うのが恥ずかしくて濁してしまう。だって、技術師ならば少しは自信があるけれど、魔導士だなんて。
(未だに師匠に叱られてばっかなのにそんな……)
魔法については目下修行中だ。正直、ジンの魔力をどうにかできたのだからこれ以上修行しなくても別に問題はない。ただ、今後自分の魔法が国の、ひいてはイザークの役に立つことがあるかもしれないと考えたのだ。
同時に、エーヴァとの兼ね合いもあった。
彼は結局依織の魔法の師に就任することで、今までのあれこれが帳消しになった、らしい。そこでもイザークは奔走していたようなので、本当に仕事熱心だなぁと思う。
「なんとか、じゃなく魔導士っスよ」
「はは、まだ言い慣れないかな? まぁそっちの方も今のところは大丈夫かな。ただ、トリさんが顔を出してるから来てほしいのはあるけど」
依織が店の二階に居を移したことにより、トリさんの現在の仮宿は王宮の一角となっていた。砂漠の魔女のしもべということで認知度も上がり、少なくとも王都周辺で彼が怖がられることはない。どころか、尊敬のまなざしで見られており鼻高々といった感じだ。
ちなみに、もう一人の友達であるシロは現在も依織と一緒に生活している。オーアスライムになった彼は依織の作品作りにも欠かせない相棒となっていた。今も後ろでぽよぽよと跳ねている癒しの塊である。
「あ、じゃあ……行こうかな」
結局のところ、王宮の近くに住むことになったため、週の半分くらいは王宮に顔を出しているような形になっている。用事は今回のようなトリさんの顔を見に行くことだったり、師匠との修行だったり、技術師として新作を届けたりと色々だ。
ここまでの頻度になると侍女達に着せ替え人形にされることはなくなっており、王宮へ行く心理的ハードルは思い切り下がっていた。
こんな風に、自分から行こうと言えるくらいには。
「王宮に慣れてくれて何よりだよ。これはお披露目の日も近いかなぁ」
「う゛っ……そ、それは、やっぱ、しなきゃだめ?」
「うーん、俺としてはできればしてほしいなぁ。自慢したいし。とはいえ、そういうのは依織がしてもいいなって思ってからでいいよ。正式決定の発表するまでにはもう少し時間がかかりそうだしね」
依織とイザークの関係はといえば、婚約者に内定している、といった段階である。
何故公式発表に至っていないのかというと、まず依織自身に踏ん切りが付いていないこと。更に、王族や重臣の一部の間でイザークの配偶者としての依織の資質に懐疑的な声が上がっていたりする。何せ国民に顔見せをした際、依織は見事にぶっ倒れてイザークに運ばせるという快挙を成し遂げたのだ。無理もない、と当人だって思う。
王族の配偶者は率先して国政を支えるべし――超意訳すると、政治には口を出さなくていいけれどPRもまともにできないんじゃちょっとねぇ……ということになるそうだ。そんな常識を今イザークは破壊している最中、らしい。詳しくは知らされていないけど。
普段の公務の傍ら、何かしらイキイキとしているイザークを見ることが時折ある。
(せめて認めてもらえるように作品作りとか、新魔法とか、できるといいんだけど。流石にそう簡単にはいかないよね)
現状はとりあえず保留、である。
ただし、依織の気持ち的にはちゃんとした意味で「前向きに検討中」だ。
やはりどうやっても、期待される「王族の配偶者としての役目」は果たせそうにない。だから、正攻法ではない方法で国に貢献できたらいいな、と思っている。
「と、とりあえず支度してくる、ね」
「ごゆっくりどうぞ~」
「焦って階段から落ちてこないようにね」
二人に声をかけて、住居空間である二階にあがる。
砂漠のオアシスに住んでいたころよりも、格段にモノが増えている。それでも、イザーク達に言わせれば質素らしいのだが。
ゆっくりでいいと言ってくれたものの、あまり待たせるのは気持ち的によろしくない。王宮にあがっても失礼ではない、という程度に身支度を整える。
そこでふと、自分の机の上にある紙が目に留まった。
(……いつ、渡そう)
依織の目線の先にあるのは手作りした紙の束。
ここに居を移してから依織が何度も書き直したものだ。
中身は、イザークに伝えたいこと。
感謝だったり、プロポーズの返事だったり。
(たくさん伝えたいことがあったから量がすごく多くなっちゃったし、とりとめもなくなっちゃったしで一回書き直して……そしたら、今度はあちこち言い回しなんかが気になっちゃって……一応、完成はさせたんだけど)
何度も何度も書き直し、完成したそれだが、今読み返してしまうとまた書き直したくなるかもしれない。
(……とりあえず、持ってってみようかな。二人きりになれたら渡してみるのもいいかも)
ええい、と思い切ってそれも持っていくことにする。
言葉に迷いはしたけれど、手の中にある手紙に嘘は一つもない。
『イザークへ。いつもありがとう。大好きです』
そんな書き出しから始まる手紙を、トリさんが咥えてどこかへ運んで行ってしまい、また騒動が起きるなんてことは……あったりなかったりするかもしれない。
砂漠は今日も快晴。
異世界に転生させられた依織は、今日もなんとか生きています。
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もしまた何かエピソードを思いつきましたら、またお会いできるかもしれません。
依織の物語をここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!
小説版にはシロやトリさんの書き下ろしエピソード
マンガにも書き下ろしていただいたエピソードがありますので
よろしければ是非!
また昨日より新連載を開始しております
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