34.名誉魔導士と王族の行方
新作『職人イエナの快適カタツムリ旅〜異世界少年とモフモフを添えて〜』もよろしくお願いします!
「あ、あの、イザーク……」
王宮のとある一室にて。
イザークと依織は向かい合って座っていた。
謁見のための大変肩が凝る衣装から着替え、少し呼吸が楽になっている。だからか、依織は当初よりはそれなりに気持ちは落ち着いていた。
(たぶん、イザークが何かを働きかけてくれてたってこと……だよね、たぶん。お、思い上がりな気がしてきた。なんて聞けばいいんだろう?)
なんたら技術師とはなんなのか。
それは依織が貰えるということでいいのか。
色々と疑問はあるが、それはイザークが好意で依織に何かしてくれたことを前提としている。なので、口にしてしまうとなんだか思い上がりな気がした。適切な言葉が見つからず、言葉が途中で途切れてしまう。
「予定外のことがあってビックリしたよね。大丈夫だった?」
「あ、はい。だいじょうぶ」
突然抱きかかえられたことだとかは全然大丈夫じゃないし、多量のキラキラ摂取で疲弊している。が、予定外の何かを言われたこと自体はなんとか大丈夫だ。
「イオリはさ、魔法がすごいって言うのはまごうことなき事実なんだけど、でもそれ以外も凄いんだぞっていうことを知らしめたくてね。認可技術師っていうのは、簡単に言うと王が認めた技術者だっていう称号なんだ。それがあればこの国で職人として一生食べていける」
「えっ……そ、それはすごいこと、では?」
ハンドメイド作家として食べていけなかった依織としては、その凄さが身に染みてわかる。うまく表現できないことが悔しいくらいだ。
「うん、かなり凄いこと、かな? 結構俺頑張ったんだけど、褒めてくれる?」
「あの、とっても、嬉しい。本当に」
コミュニケーション能力が皆無な自分が本当に悔しい。
この喜びを上手く表現できないのが申し訳ない。
「喜んでくれたなら頑張った甲斐があったよ。イオリはやっぱり、何かを作ってる時が本当に楽しそうだから。魔法だってイヤってわけではないだろうけど、やっぱり好きなのは何かを作ること……だよね? だから、どうしてもあげたかったんだ」
「すごく、すごく嬉しい。で、でも……私、何も返せない、よ?」
イザークは依織が喜ぶことをとてもよくわかってくれている。それだけでも嬉しいのに、更にこの国で生きていける手段までくれた。
それに対して依織は何も返すことができない。
(ビーズ細工のブローチとか、モノを作ってお礼をすることはできるけれど……イザークが貰って嬉しいものがわからないよ。イザークの好きなものって何……? いや、わかったとして私に用意できるかな?)
一緒にいるにつれて、お茶の好みくらいならわかるようになってきた。けれど、それだけではお返しになる気がしない。
「どちらかというと、俺がお返しをしたかったんだ」
「え? でも、私、何も……」
「国を、砂嵐から、マンティコアから、ジンの魔力から。三回も救ってくれただろう? それに、ソルトスライムと共存して塩害を防ぐ方法や、今回のビーズの技術だって今後国の発展を支えてくれると思う」
「そう、かもだけど。あの、それは、国に、だよ?」
以前イザークは「塩抜きの魔法を教えてくれたのは神様だけど、この国のために尽力してくれたのはイオリだ」と言ってくれたことがある。その言葉は今でも思い出すだけで胸が熱くなる。依織個人をまっすぐ見てくれたイザークの言葉。
(あのときと、なんだか逆っぽい、かも?)
立場が逆転したような気がしてなんだかおかしい。
「私のしたことは、国のためになった、かも? でも、そんな私のために、頑張ってくれたのは、イザーク。だから、私、イザークに、お返ししたい」
言葉選びを間違わないように慎重に、ゆっくり。
たまにつっかえてしまうこともあるけれど、それでもイザークは笑ったり急かしたりしないことを知っている。
だから、依織なりに頑張った。
「何か、ない?」
月並みな言葉だと思う。それでも感謝を込めて、どうか伝わりますようにと考え抜いて紡いだ言葉だった。
(前世に比べるとだいぶ、話せるようになった、かも。人並みにはまだまだ遠いけど)
自分なりの小さな成長に気付いてじんわりと喜びを感じた。今ならあの神様とやらに感謝してやっても良いかもしれないと思えるほどに。
「あー……この流れで言うのなんか卑怯な感じするんだけど……」
そんなちょっとした達成感を噛み締めていると、何やら悩んでいたイザークがやっと口を開いた。
「……? 欲しいもの、私に作れるなら、頑張るよ?」
少し難しいものでも、前世の知識と錬金術を合わせれば可能かもしれない。今後正式に師となるエーヴァに魔法を教えて貰えば、可能性はもっと広がりそうだ。
(ちゃんと学んでこなかったけど、魔法、頑張れば、もっと色々できるようになるかも)
そうやって意気込んでいる依織にふってきた言葉は、予想外のものだった。
「俺は、イオリが好きです」
「へぁっ!?」
「勿論ね、イオリがこの国の益になる、とかいう王族的思考というか、打算もあるのは否定しないよ。これはもう俺の職業病というか、属性だから、そこはゴメンね?」
「う、うん?」
依織自身、コミュ障という属性がある。誰だって個人の特性があるのは当然だろう。イザークの場合は王族として生まれ育ったという特性。そこはそれぞれの個性として受け入れている。
「そういう、王族っぽい視点を完全に抜きにしてっていうのは難しいけど。それでも、俺はイオリの容姿も性格も可愛いと思ってるし、好きなものに一直線な性格も好ましいと思ってるし、奇想天外な魔法を思いつくところなんかは尊敬すらしてるよ」
「うあ、あ、あり、がと?」
「どういたしまして。で、繰り返すけど、この流れで言うのは卑怯だって自覚はある。それでも言うよ。俺が欲しいのはイオリの伴侶という立場です」
「あう……」
「俺と、結婚してくれませんか?」
話の途中から、何を言われるのかはコミュ障であっても薄々は感じていた。
そして、正直なところ、彼が本気でこんな風に告白してきたら、依織に断る術はない。
(だ、だって、イザーク個人のことは、た、たぶん、私だって好き、だから)
人生二周目ではあるが、その根本にあるのはコミュ障だ。恋愛なんてものは物語の中のものと思っていた。
それでも、多分、きっと、これが恋愛なんじゃないかとは思う。
「イヤって即答されないことには安心していい? ……ってこのやりとり、何度目だろうね」
「あう……」
「即否定されないけれど、肯定もされないのは、俺の立場のせい?」
「それは……えっと、あります」
少しの躊躇いのあと、正直に肯定した。
イザーク個人のことは、多分きっと、恋愛として好き、なんだと思う。
人付き合いの経験がなさすぎて、優しい人だから好意を持っているのではないか、と言われても否定はできない。ドキドキするのはイザークがあまりにキラキラしすぎるから動悸が止まらないだけかもしれない。
それでも「それならそれで別にいいじゃないか」と思えるくらいには、好きだ。
しかしながら、彼は王族である。
国の未来を左右する立場にある。今回だって、何かあれば責任をとる覚悟を持って臨んでいた。
そんな彼の隣に自分が相応しいとは到底思えない。
(……って、あれ? 私そういうことひっくるめて全部、言ってなくない?)
「ちょ、ちょ、ちょっとタイム!」
「たいむ?」
「じ、時間、ください!」
「ん? うん、いいよ」
こんなときにも穏やかに返事してくれるところもいいな、と思う。
と、いうことは置いておいて。どうにかして考えていることを伝えなければならない。ぐるんぐるん、と脳みそをフル回転させる。
が、時間をかけることで伝える言葉のクオリティがあがるかというと、そうでもない。むしろ時間経過とともに焦りも増大していく気がする。
(う、うー! 固まってなくてもいいや! きっと色々変でもイザークは笑ったりしないもの!)
「あの、あのね! 私、イザークのことは好き、だと思う。人付き合い苦手すぎて、レンアイ、とか、ちょっとよくわかんないけど、ドキドキするし、イザーク顔面眩しいし。私の言葉変でも笑わないし、待ってくれるし。あ、あと、お仕事に真剣なとこ、かっこいいと思うよ」
「えっ、あっはい」
「だから、あの、個人としては本当に好き、です。でも、お仕事に真剣なイザークも、かっこよくて、でも、そんなイザークの隣に私っていうのは完全なミスマッチっていうか、塩とナメクジっていうか……あ、ちがう。これだと私溶けちゃう。えっと、月とすっぽんってこっちでも言う? なんか、そんな感じだから、結婚って、言われるとすごく、あの自信ない、です。……で、伝わる?」
脳内に溢れて暴れまわる言葉をどうにか宥めて一気に伝える。正直言って数か月分喋った気分だ。
軽い疲労を感じながら、イザークに目をやる。
「イザーク?」
「えーと、うん、ちょっと待ってね」
「あ、はい。でも、あの……」
イザークは片手で目元を抑えている。
キラキラしいお顔の下半分や、首元なんかは見えているわけで。
「照れてる?」
肌の色が濃いせいで少しわかりにくいが、赤い気がした。
「いや、照れるでしょ、普通!」
「ひえっ、ご、ごめんなさい?」
「いや、謝ることじゃないけどさぁ! ……あぁもう、結婚しようイオリ」
「えっえっ、でも、あの」
結婚に関する不安みたいなものはどうにか伝えたと思ったのだが、何故か話題が振り出しに戻っている。ここは「じゃあ考え直そうか」とかじゃないのか。むしろ「結婚してください」から「結婚しよう」に若干の進化を遂げている気がする。せめて進化を遂げるならシロのようにわかりやすく光り輝いて……いや、彼がこれ以上光り輝いては困る。
「大丈夫。王族との結婚が問題なんだったら、王族である俺が全部始末つけるから。ね、それなら問題ないよね?」
まだ頬に赤みが残っているけれど、決意に満ちたキラキラフェイスでそう迫られる。
どうあがいても、依織に勝ち目などない。
それでもまぁ、それはそれで。
結構幸せな気がする。
【お願い】
このお話が少しでもお気に召しましたら、本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです!
作者のモチベに繋がります
ブックマークも是非よろしくおねがいいたします
書籍化もしておりますのでどうぞよろしくお願いいたします





