33.名誉魔導士と謁見の間の報告会
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また9日より新連載開始予定ですので、そちらも是非よろしくお願いいたします。
「……むり」
トナンの駐屯地から慌ただしくイザーク一行+魔法部隊が出発したのがシロが進化した次の日の事。
依織達は疲れているだろうから、と比較的のんびりと帰らせてもらった。懐かしの我が家である一夜城に帰還したのは三日ほど前だ。
そして現在、依織は真っ青な顔で目を白黒させている。
それもそのはず、今依織が立っているのは王宮の、それも謁見の間の控室だからだ。
「大丈夫大丈夫。大まかな報告はもう済ませてあるから、確認だけするって形だし。セリフも覚えたでしょ?」
依織の隣に立つのは当然のようにイザークである。
「ソウイアリマセン、ソウイアリマセン、ソウイアリマセン」
「うん、ばっちり。本番は一回でいいからね」
普段通りのキラキラ、正式な場面仕様に整えられた衣装によるキラキラ、笑顔に込められたキラキラ。それらが足し算ではなく相乗効果のように襲い掛かってくる。キラキラの暴力が本日絶好調である。たすけて。
(目と胃が、つぶれてなくなるかもしれない……)
一応、この報告会のことは帰りの馬車内でイースから聞いていた。
やはり国として部隊を作り、調査をした以上報告する義務があるのは理解できる。しかも今回はジンとかいうマンティコアに並ぶ伝説の魔物が出張ってきたのだから余計にだろう。
だからといって、正装のために幾人もの侍女達がかしずいてくるのに慣れるはずもなく。衣装の試着回数が片手の指を超えたあたりで既に依織の目は死んでいた。
「ソウイアリマセン……」
まるで喋るオモチャのようだ。それも、電池が切れる寸前の。
そんな依織に苦笑しつつも、イザークは全くもって引く気がなさそうだ。キラキラの笑顔でピッタリと寄り添ってくれているのも、安心させるためというよりは逃亡阻止が目的ではないかと勘ぐってしまいたくなる。キラキラ包囲網、こわい。
心の準備は整わないまま、イザークにエスコートされ謁見の間に向かう。
(ここに来るのは二度目だけど、本当に現実味がない……)
目の前で執り行われている形式ばったやり取りから、ふわっと意識が離れていく。多分、自己防衛とかいう機能が働いたのだろう。
前世では縁が全くなかった居たたまれないほどに豪華な広間。そんな場所に何故か賓客として駆り出されている。その上、見るからに上流階級とわかる着飾った方々にちらちらと視線を向けられているのだ。それらを現実としてマトモに受け止めてしまったら――精神崩壊は必至だ。
「なるほどな。名誉魔導士殿、間違いないか?」
「っ!? ソウイアリマセン!」
気を散らしていたせいで少しつっかえたけれど、なんとか与えられた役割をこなす。
やっと終わった、と依織が胸を撫で下ろしたところに再び王様の声がかかる。
「ところで、イオリ殿はその魔力だけでなく技術者としても優れているらしいな?」
「…………?」
ホッと気を抜いたところで不意打ち。あなたも年齢を重ねた素敵なキラキラがあるのでこちらを向かないで頂きたい。
(いや、なんか、それよりも話しかけられた? 今、王様なんて言ったの……?)
自分の名前を出されたことまでは理解できたが、それ以降がわからない。この場に気絶しないで存在するだけで依織の精神力はカツカツなのだ。予定外の言葉に対応する余力などない。
何を言われたかすらわからず内心冷や汗が止まらない依織に助け舟を出したのはイザークだった。
「はい。叔父上。私は彼女を『認可技術師』へ推薦いたします」
「確かに、あの宝石細工は見事だったな」
(……宝石細工って、ビーズのこと? そういえば、帰りの馬車の中で暇だからたくさん作ったヤツ、イザークに渡したんだった)
トナンの町にあった宝石クズは、正式に許可を得てシロが美味しく頂いた。オーアスライムへと進化したシロは、塩だけでなく様々な鉱石を食べる、もしくは、吸収することができるようになったらしい。あとは変わらずかわいくて癒しだ。
そして、塩と同じように必要とあらば吐き出せる。
そうして吐き出してもらった宝石クズを依織が錬金術でビーズの形に整え、移動中の隙間時間を利用して作品を作ったのだ。
最初は簡単な指輪やネックレスから始まり、ビーズ細工のミニチュアトリさん人形も完成している。どうやらそれらがイザークを通じて王様の手に渡っているらしい。
「あいわかった。認可技術師の称号も与えよう」
「……はぇ?」
よくわからないうちに話が進んでいく。
依織の口から間抜けな音が出たところで、何故かイザークに顔を隠すように抱きしめられた。
驚きのあまり魔法を発動してしまいそうになるところを、最後の理性でなんとか押しとどめる。
(ちっちかい! ちかい! ひえ、ああああ、でもここ、おうきゅう、まほう、ダメ、ゼッタイ!!)
「イオリ殿は感動のあまり言葉もないようです。ありがたき幸せに存じます」
そう言ってイザークは依織ともども頭を下げる動作をする。
(あ、余計なこと言わないように気を遣ってくれた、のかな? で、でもなんで流れるように抱えてるの? なんで抱え上げる必要あるの!?)
その後もイザークはキラキラしい言葉を並べ立て、依織を抱え上げたまま退室を果たした。王への礼儀的にどうなのと思わなくもないが、彼がやることなのだから一応セーフなのだろう。もしかしたら、裏で何事かの取引があったのかもしれない。どちらにせよ、まともな受け答えもできなかった依織に文句をはさむ余地はない。
何はともあれ、依織はまたしてもイザークに抱きかかえられるという致命傷を負いつつ、疲労困憊で謁見の間を脱したのだった。
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