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閑話 戦後処理と作戦会議

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更新は毎週金曜20時予定です~。


「さて、作戦会議を開きましょうか」


 会議の口火を切ったのはラスジャである。

 ジンの魔力の脅威が無くなった日の夜。駐屯地の会議室には依織を除いた面々が集まっていた。なお、依織はイザークに押し切られて休養中である。


「まず、今一番まずいのはエーヴァ様ですね」


「……私か? イザーク様ではなく?」


 今回のジンの魔力の件は相当な緊急事態だった。

 いつ魔力が暴発するかわからず、処理を一歩間違えればトナンの町や鉱山だけでなく、王都にまで被害が及んでいたかもしれない。

 そのような重大な案件を事後承諾という形で押し通したのだから、一部からは反発が出ることは予測できる。


「イザーク様は多少の反発であれば平気ですよ。そもそも今回被害はゼロなんスから。むしろ国の重要な資源産地を守ったという事実でおかしな輩も口を噤むはずです。……裏でちょいちょい仕事押し付けられるかもしれませんが」


 ラスジャの言葉に、イザークも異論がないらしく、苦笑を浮かべるものの否定する言葉はない。失敗してどこかの町に被害が出ていれば処罰はあったかもしれないが、そのような事態にはならなかった。


「対してエーヴァ様は国からの許可なく宮廷から姿を消した、という事になっています。つまりは出奔ですね。これは流石にまずい」


「そのようだな」


 エーヴァの返答は不遜にも聞こえる。反省がないわけではないが、それがあまり表面に出ないタイプのようだ。

 その言いぐさに旧友であるイースがひっそりと頭を抱えている。


「エーヴァ様、そんな他人事みたいに……」


 これには元弟子であるナーシルも困惑気味である。

 が、口を挟んだが故に彼にも火の粉が飛んできた。


「ナーシルとの連絡ミスが一番痛いんですから、そこはナーシルも肝に銘じて置いてください」


「うぇっ!? 僕ですか!?」


「双方の話を聞くと思いきり食い違いがあるからな。どうしてこう魔法に秀でたヤツらはコミュニケーション下手なんだか……」


「イオリさんよりはマシですよ僕」


「魔力は彼女の足元にも及ばないだろう」


 国有数の魔法の使い手達の、大変くだらない言い争いである。

 だが、それで時間を浪費するわけにはいかない。ラスジャは手を叩いて大きな音を出しながら話を戻す。


「と、に、か、く! このまま都に戻ればエーヴァ様は処罰されて終わりです。が、それは貴重な人的資源のムダに間違いありません。そこは皆さんも理解していただけますよね?」


「理解できないなら『理解できないんだなぁ』と俺が思うだけだけどな」


 若干名不服そうな顔をした人物もいるが、王族による笑顔の圧で異論は出なかった。

 そんな一同の様子を見まわしたラスジャが、イザークとはまた違った笑みを浮かべて後を続ける。


「では皆さんの総意を得られたということで、こちらの筋書きを進めさせてもらいます」


「まず、エーヴァ。お前は恐らく元のポストには戻せん。それにそんなに望んでいないだろう?」


「それは……まぁ……」


 イザークからの問いに言葉を濁したが、確かにエーヴァは元の地位に戻ることは望んでいない。やはり宮廷勤めとなると研究するにも色々と制約がある。

 が、王族の前でそれを堂々と認めるのもどうか、と思う程度には彼は大人だった。ナーシルと違って。


「そこで、だ。お前をイオリの指南役にする方向で動く」


「私が、ですか?」


「お前もイオリの魔法の研究ができるし、一石二鳥だろう」


「えーーーちょっと待ってください僕はどうなるんですか!?」


 現在依織の魔法研究をしているのはナーシルだ。この場合実質クビ宣言ということになる。だが、普段の様子を知る面々及びエーヴァはそのことに対しては疑問を抱かなかった。

 イザークもバッサリと切って捨てる。


「お前とイオリの相性が悪いのはもう知れたことだ。諦めろ。その代わりといってはなんだが、スライムの生態研究を任せる」


「スライム……ですか?」


 途端にナーシルの勢いが弱まった。そこへラスジャがすかさず囁きかける。


「ジンが言うにはスライムはほぼ魔力で構成されているらしいッスよね。しかも、シロは二度目の進化を果たした珍しいスライム。進化とはどういう魔力の流れなのか~とか、他の魔法に応用は効くのか~とか。ナーシルなら他にももっと考えつくんじゃないスかね?」


「……確かに!」


 ある意味で、シロをスケープゴートに差し出したようなものである。

 だが、オーアスライムという聞いたことのないスライムに進化したシロには興味が尽きないのも事実だ。

 現状わかっているのは、塩に関する能力には変化がないこと。更に、鉱石等を吸収、排出できるようになったことだ。また、排出する際の形や種類も自在に操れるらしい。

 のちに、依織のおねだりによってシロは器用に大きさを揃えて穴を空けたビーズを吐き出すこともできるようになる。故に、ナーシルの探求心が更に加速することになるのだが。


「では、表向きエーヴァは降格。しかし、今回のイオリへの指導の功績で彼女の指導役として復職する方向で検討する。ナーシルは役職はそのまま、スライムの研究を兼任して貰う形で。勿論予算は付ける」


「承りました」

「お任せください!」


 二人が同時に返事をしたのを、イザークは満足そうに頷いて応えた。


「他の皆さんも今回の働きに応じた分にちょっとイロつけるくらいで考えています。ご不満があれば今でも、帰りの馬車の中とかでも聞きますんで気軽にどうぞ」


 そうラスジャは続けるものの、ナーシルやイースであってもかなりの身分差がある相手である。ヒラに近い面々がそうそう声をかけられるはずもない。

 それに、イロをつけてもらえるのであれば、と全員納得したようだった。


「じゃあ帰りの強行軍も頑張りましょうね、皆さん」


「へっ……? 強行軍って、僕らもですか?」


 笑顔のラスジャに思わずナーシルが首を傾げる。

 イレギュラーでやってきたイザーク一行がまた超特急で帰るのはわかるのだが。


「あ、イオリさんご一行はのんびりで大丈夫ッスよ。ですが、魔法部隊の皆さんはそろそろ本職の方滞りそうなので我々と共に帰還してもらいます」


「それとエーヴァもな。出奔のつじつま合わせのために色々聴取しないと」


「はっ……」


 イザーク直々に指名されたエーヴァに逃げ道はない。


「あとナーシルも。いい加減書類仕事頑張るッスよ」


「うえぇ!?」


 かくも事後処理というものは厄介である。

 その厄介さから逃れることができた、イースを筆頭とした依織護衛部隊は、そっとその場から気配を消すのだった。


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