30.名誉魔導士と新しい師
小説・コミックス好評販売中です。是非よろしくお願いいたします!
更新は毎週金曜20時予定です~。
「トリさん! よかったぁ……。入れ違いになったのかと心配してたの」
トリさんは依織を見つけると、そのすぐ傍に降り立った。そして何故か近くにいたエーヴァに対して威嚇するように鳴き声をあげる。
「ギョエエエエッ!」
あまつさえ依織を守るように翼をバサバサと動かし始めたので、これには依織も慌ててしまう。
「ト、トリさん? もしかして私がいじめられてると思った? 違うよ? 魔法教えてもらってたんだよ?」
だが、当のエーヴァは近くで見るガルーダに感嘆している様子だった。
「なるほど、間違いなくガルーダだ。これほどまでに近くで見たのは初めてだが、流石この近辺一帯の空を制する種族だ。強い魔力を感じる」
口ぶりから察するに、長い魔法部隊勤めの中でガルーダという種族と対峙したことがあるようだ。過去の記憶を思い出している様子で、トリさんを褒めはじめる。
褒められればそこはトリさん、威嚇をやめてふんぞり返った。もっと褒めてもいいのだぞ、と言わんばかりである。
(トリさんが落ち着いてよかったぁ)
ホッと胸を撫で下ろしていると、建物の中からイザーク達が現れた。
「あぁ、いいところに。イオリと……あとシロにもちょっと話したいことがあったんだけど、いいかな?」
「へっ!? あ、はい!」
「ギョエッ!」
自分もいるぞ、と自己主張するトリさんにイザークはしっかり目を合わせて礼を言った。
「勿論トリさんにも聞いてもらえるかな? いつも助かってるよ。ありがとう」
お礼を言われてフフンとトリさんが再びふんぞり返ったところで、イザークはこちらへと向き直った。
「今回のジンの魔力に関する問題なんだけどね。先程王都に早馬を送ったよ。緊急事態だから俺が全責任もって好きにやるよーって」
「えっ!?」
(それってもしかして、失敗したらイザークの首が飛んじゃうんじゃ……異世界だから物理的に飛んじゃうことすらあるのでは?)
その可能性に思い至って、依織の背筋がヒヤリとする。
シロがどうにかなってしまうのも怖い。けれど、それと同じくらいイザークに不利益があることも怖かった。
だが、イザーク本人は何でもないとこの話題を流してしまう。周囲の人間も誰も気にしてない風だ。そこに口を挟めるほどのコミュ力は、依織には当然ながらない。
「で、どうにかできなかった場合、ジンに魔力を開放してもらうポイントも選定した。その他の諸々の準備もできているから、早ければ明日にでも実行可能だ」
(そ、そんな急に言われても心の準備が……。それに魔力をどうにかするのだって全然練習できてないし……)
上手く話題についていけない依織を他所に、イザークは屈んでシロに目線を合わせた。シロに目はないけれど。
「シロに聞きたいんだけど、ジンの魔力を全部受け止めるのは難しい?」
問われてシロは微妙な動きをする。デロンデロンというか、なんというか。
つまり、なんとも言えない、と言ったところらしい。
「ああそうか。シロにも自分の許容量とかジンの魔力の総量がわかってるわけではないか。……じゃあシロの許容量ギリギリになったら合図してもらうことは可能?」
またしてもデロンデロンしはじめるシロ。
「その辺はジンと相談って感じかい?」
この問いにははっきりと縦揺れをする。
(……ってことは、シロがパァンッて弾けちゃうことは、ない!?)
頭の中で、空気を入れすぎた風船のように破裂するシロに大きくバツ印がついた。
シロに危険が及ばない、それだけで肩の上にのっかっていた重石が少しなくなった気がする。
「なるほど。じゃあ割合がどのくらいになるかはわからないけど、シロが受け止め切れなかった魔力をイオリが無効化する。それでも無理そうなら、こちらで選定したポイントに放って貰うっていう作戦でどうだろうか?」
キラキラの眩しい顔面が、こちらを向いた。
暴力的なキラキラも、シロが犠牲にならないという嬉しさで今は気にならない。一も二もなくブンブンと首を縦にふった。
「あ、あの、イザーク!」
「ん?」
「あ、ありがとう、ございます。えっと、いろいろ、考えてくれて……」
嬉しいのは本当だ。感謝の気持ちを持っているのも同様に。
けれど、思いついたまま、勢いのまま言葉にしたせいで、後から不安が襲ってきた。
(私のためってだけじゃなくって、国のためを考えての結論だとはわかってるけど……やっぱり嬉しいし。で、でもこれなんか自意識過剰だったかな? ヘンに思われたりしないかな?)
グルグルと考えすぎて泣きたい気持ちになってくる。
だが、そんな依織を見透かしてか、イザークは常と変わらぬ暴力的なキラキラしい笑顔を向けてくれた。そのお陰で少しだけ安心した。そしてやっぱり眩しい。
「こちらこそいつもありがとう、イオリ。それと、シロもね。毎回頼りっぱなしで申し訳ないくらいだ」
「だ、だいじょぶ、がんばる、ので」
「あまり頑張りすぎないでね。今はエーヴァに習ってたのかな?」
「はい。微力ながら」
イザークの問いにエーヴァが軽く頭を下げながら応じた。頷いたイザークがエーヴァと向き合ったので、依織はキラキラ・ふろむ・イザークから少しだけ解放される。少なくとも直視はしなくて良くなった。
「イオリはちょっと頑張りすぎるところがあるから適度に。頼んだぞ」
「承知いたしました」
イザークはそのままエーヴァ達と話し始めた。恐らく、今後について打ち合わせているのだろう。
キラキラから解放された依織がその様をぼうっと眺めていると、やりとりを終えたイザークが近づいてきた。屈みこむように顔を寄せてくる。
「あとで部屋に行くね。ゆっくり話そう」
「ッ……!?」
依織が返事をする間もなく、耳元でイケボを響き渡らせ脳内を破壊して、キラキラのイケメンは去っていった。
残されたのはキラキラのダメージを負った依織と、魔法の臨時師匠のエーヴァ、そしてどんなときでも変わらぬ魔法への探求心担当のナーシルである。
「待たせたな。始めようか」
「あれ? イオリさん顔が赤いですよ? 風邪でも引きましたか?」
「なに? 体調不良であれば出直した方が――」
「だ、だいじょぶ、です! だいじょぶ!」
ここまできて手を引かれてはたまらない。手足をバタバタさせて懸命に元気をアピールする依織。
「そうか? ならば始めるが。まずそこのガルーダ、トリさん、と言ったか? 彼? に協力を頼みたい」
「トリさんに?」
「ガルーダは風を操るのが得意だからな。彼に魔力を込めた風を出して貰い、それを無効化する訓練を行いたい」
「あぁ、それ良い案ですね! それなら僕達の魔力もいざって時のために温存できます!」
ナーシル曰く「イオリさんの魔力は底ナシ」だそう。依織自身は魔力切れを起こして倒れたこともあったのでピンときていないのだが、魔力に限りがあるのは理解していた。自分の訓練のために二人を消耗させるのは申し訳ない。
だったらトリさんは良いのか、という話になるが、そこは後でたっぷりお肉を食べて貰うことで手を打っていただければ。たぶん、どうにかなる、はず。
「あ、あの、トリさん……お願いしてもいい?」
「ギョエエェ……」
最初は少し渋っていたトリさんだったが、依織がおだてとお肉の二本立てで説得し、シロの口添えもあった(らしい、おそらく)お陰で、最後にはやる気になってくれた。
「ギョエッ!」
「わわっ……」
「イオリさんー! トリさんの腕前を信じて、ビビらずに!」
「ジンの魔力がどのような形になるかはわからぬが、ガルーダのかまいたちのように動き回ったりする可能性は少ない。落ち着いてやればいい」
鋭い鳴き声と共にトリさんから風が繰り出される。始めは腰が引けていた依織だったが、ナーシルとエーヴァのアドバイスを受けて少しずつ立ち向かえるようになった。
そして――
「……い、今のって」
「やりましたね、イオリさん! できましたよ!!」
「このまま本番に臨むわけにはいかない。一度休憩を挟むぞ」
初めての成功と同時に、グゥと依織のお腹が鳴ったのだった。
【お願い】
このお話が少しでもお気に召しましたら、本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです!
作者のモチベに繋がります
ブックマークも是非よろしくおねがいいたします
書籍化もしておりますのでどうぞよろしくお願いいたします