28.名誉魔導士と従者の悲哀
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(うわっ!!!!! まぶしい!!!……間違いなくイザークだ!)
イザークのようなイケメンの中でも群を抜いた生き物は、暫く見ない間にパワーアップしていくシステムでも搭載しているのだろうか。また一段とキラキラしさに磨きがかかり、いつか自身の光で見えなくなるのではないかと心配になるほどだ。
しかし、そのキラキラな人が今この場にいるのは正直ありがたい。
何故なら彼はキラキラなだけでなく、国の中でもエライ人に位置するのだから。
「あ、あの……」
何より彼なら上手く喋れない自分の言葉を待ってくれるし、相談に乗ってくれるかもしれない。
そう思って声をあげたのだが――。
「イザーク様、ご報告いたします」
カッチリ仕事モードに入ったイースが依織よりも先に声をかけた。
その雰囲気にただ事でない気配を感じたのか、イザークとラスジャの表情が引き締まった。
(あ……そうだよね。まずは国のことちゃんとしないと。私個人のモヤモヤに付き合わせたらダメだよね……私ったらイザークに甘えようとしちゃってる)
前世からのことを考えれば、大いなる変化ではある。誰かに頼るどころか誰とも関わらずに生きていきたい、というのが前世での依織の願いだったのだから。
そこから比べれば今の思考はかなり変化はしてきている。
だが、その変化は良い変化だとは言い切れそうにない。今の不安な気持ちを吐露したところで、イザークを困らせるだけな気がするからだ。
(多分、多分だけど、イザークはシロに犠牲になってくれ、だなんて言わない、と、思う。……思いたいだけ、かもしれないけど。少なくとも不安だから話を聞いてほしいっていう私のワガママは今のタイミングでは良くない、よね)
報告を真剣に聞くイザークの横顔を見つめる。
依織には特別優しい、というか、甘いと言っても過言ではない彼。けれど、それはあくまで依織に見せる一面で、他にも色々な顔があるはずだ。
別にそれは悪いことではなく、人間であれば当たり前のこと。
(いっつもラスジャに溜め息吐かれているイメージだけど、ちゃんとお仕事頑張ってるんだもんね。仕事に対して誠実な人って前世でもあんまりキツくあたってこなかったし……)
きちんと仕事に向き合う姿は大変好ましいと思う。
翻って、今の自分はどうだろうか。
何も決められず、嘆いてばかり。これはあまりよろしくない、と思う。
かといって、グルグルとこの場で考えていても良い案が浮かぶ気がしなかった。
(……此処にいても私できることってない、よね?)
国の難しい話はさっぱりわからない。耳を傾けても地名らしき名称が出てきた時点でお手上げだ。
であれば、ここでぼんやりと突っ立っているよりも、少しでも状況を整理して自分にできることを探す方が有意義な気がする。
心を決めた依織は気配を消してそーっとその場から立ち去るのだった。
依織のそんな心情を察したのか、普段はポヨンポヨンと飛び跳ねて移動するシロもズリズリと静かに付いてきてくれた。
「わかった。ではその方向で動いてくれ。……って、あれ、イオリは?」
依織がその場から立ち去って数分後、今後の方針をなんとかまとめあげたイザークが辺りを見回す。
「魔女様でしたら先程自室に戻られたようです」
「あー……今の話し合いだとイオリさん居心地悪かったかもですね。国の役職やら地名やらなんてサッパリでしょうから」
傍に控えていた兵士が依織の動向を即座に報告してくると、ラスジャがフォローをいれる。
イースもそれに頷いて言葉をはさんだ。
「シロ殿に不利益が生じるかもしれない状況ですから、彼女にも心の準備が必要なのでは?」
「あーうん、それね。シロにも話を聞いてみないとなんだけど……まず事務処理やっつけてからの方がいいか。確かにイオリも色々考えたいよね」
「こっちの諸々が終わってからイザーク様が報告がてら感動の再会の仕切り直しでもしたらいかがです?」
「……ラスジャ、お前さぁ」
ラスジャの皮肉っぽい言い回しに文句を言おうとしたイザークだったが。
「はい? どうしてもイオリさんに会いに行きたいと言い出しやがる上司のために無理なスケジュールぶっこんだ、ユーシューな従者のラスジャですが? 加えて言うなら今回のこのトラブルで更に遅れるであろう執務をフォローして回る予定が確定している身でもございますが、なんでしょうかねー?」
「うっ」
とうとうと続けられるラスジャの早口嫌味詠唱。しかも、内容も反論の余地がないため、イザークは言葉に詰まるしかない。
「色んな事が一段落ついたら特別報酬と休暇、よろしくおねがいしまーす」
「……前向きに検討はしよう」
なおも攻撃の手を緩めないラスジャにイザークはダウン寸前だ。
「え、ラスジャさんがオッケーなら僕も僕も!」
その上、乱入者まで登場である。空気を読む気など全くなさそうなナーシルが前のめりに会話に入ってきた。
「僕と違ってナーシルはそこまでコキ使われてないでしょうが」
「えーでも、折角ジンに出遭ったんですよ!? しかもこれからその魔力を拝めるわけじゃないですか。報酬はどうでもいいんで、ちょっぴり休暇ください!」
今にも暴走しそうなくらいにキラキラの顔で、ナーシルが便乗して休暇を強請る。ここでお金ではなく研究のための休暇が欲しいというのがナーシルらしいかもしれない。
だが、そこに難色を示す人物が一人。
「……ナーシル、その前にお前にはやらねばならぬことが山積みだと思うが? 魔法を普及させるための言語化についての資料は置いていったはずだ」
ウキウキしているナーシルにブッスリと釘を刺したのはエーヴァである。
だが、そうやって会話に入ってきたことにより、エーヴァもまた難色を示される羽目になった。
「そういえばエーヴァも国の許可が出る前にいなくなったよね。それって普通は出奔って言うんだよなぁ。そこのところ詳しく聞かせてもらおうか」
イザークが依織には見せられない威圧感たっぷりの笑顔を浮かべる。
言葉には出さないが横でエーヴァをよく知るイースがウンウンと頷いていた。
「わ、私ですか? しかしながらその旨はナーシルに……」
「え? そうでしたっけ?」
「お前……」
それぞれが好き勝手に話し始め、収拾がつかなくなってきたところでパンッと手を叩く音が大きく響いた。
「はい、皆さん言いたいことは山ほどあるかもですが、まずは目の前の問題に対処するッスよー。僕の残業代が青天井になっても知りませんよ~?」
ニッコリ笑うラスジャの妙な迫力は置いておいて、言っていることは尤もである。
その言葉を合図にそれぞれやるべきことへと向かっていった。
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