1.転生したコミュ障
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ピンチです。
とてもピンチです。
心の中で散々、私を転生させやがった神様を罵倒しながら、どうにかこの場を切り抜けるための手段を考えています。
と、いきなりそんなことを考えてもちょっと無理かな。一番苦手なモノが私に迫ってきている。
とりあえず、落ち着いて。
どうしてこんなことになったのか思い出してみよう。
始まりは、特に特徴のない日。
日本の某都市の片隅で、私、機野依織は死にました。死因は…多分風邪をこじらせたんじゃないかな。
私はいわゆるド級のコミュ障で、物心ついたときから人と関わるのがとても苦手だった。上手い具合に言い繕った評価が引っ込み思案、というところだろうか。喋ろうにも相手を傷つけない言葉、相手に嫌われない言葉というのが上手く引っ張り出せなくてうつむいてしまう。
そんなもんだから、トロくさいとか言われてイジメがはじまった。小中高とずっといじめられっこ。いや、無視はいいんだ無視は。机に落書きとかもダメージがないわけではないけど、まだいい。取り囲まれて罵倒される、あれがすごく辛かった。それ以来、人前にでるのが本当にだめ。人間がいない場所に行きたいとずっと願ってた。まぁ。叶うはずのない夢だけど。
そんな私がうまく就職できるはずがない。最初の筆記試験は通っても、面接で上手く喋ることができなかった。予想外の質問にあ、だの、う、だの呻くのみで何一つ答えられなかったのだからまぁ当然だ。一応考えてきた質問であれば答えられたのだけれど。
ただ、私は幸いなことに手先は器用だった。小さなアクセサリーや需要のありそうな小物を片っ端から作って売る仕事。所謂ハンドメイド作家ということにして、どうにか世間の荒波で溺れずにすんだ。人と関わるにしても、文字上のやりとりならまだなんとかなったというのが大きい。ありがとう、文字。ありがとう、文明。
でも、営業ができないと、この職業はとっても厳しい。いいものを作っていれば必ず売れる、なんてことはない。買って貰えるように積極的に人目に晒しに行かなければいけないのだ。SNSにアップし、どこどこでハンドメイド市があると知ればそこに参加して実物を売る、などなど。それが出来たら、そもそもこうなってない。こじらせコミュ障舐めんな!
そんなこんなで私の主戦場はネットのみ。バズって大人気作家になんていう人もいるけれど、私にそんな運はなかったようだ。ただ、バズると無駄に人と関わる機会やよくわからないアンチが増えるとも聞くので結果的にこちらの方が長生きしたのではないかと思う。
ともあれ、どうあがいても生活はカツカツ。食費も電気水道ガス代も削りに削って、最期には骨が浮いてる状態だった。私の最期はハンドメイドグッズに囲まれた寒々しい部屋で、栄養失調だか風邪こじらせなんだと思う。
それはまぁいい。依頼してくれたものを届けられなかったのは確かに心残りだけど、やっと生から解放された、と思ったんだ。
が、それを台無しにしてくれた存在が居る。
神様だ。
今思い出しても非常にムカムカする。神様は自分は神様だと自称した上で「君にチャンスをあげるよ、嬉しいでしょ」みたいなノリで話しかけてきた。
折角生から解放されたのに…とブチギレた私は悪くない。悪くないったら悪くない。
でも、自称神様と言えど、目の前には人型の物体。しかも無駄にイケメンイケボイス。コミュ障の私が上手くこの気持ちを言葉にできるはずもなく…泣いて地団駄踏んで、たまに呻くような声を発して…が関の山だった。だけど、目の前の人間はガチで神様だったらしく、私の心を読んだ。
転生希望なんか出してないし、なんならさっさと死んで来世は石ころとか草とかコミュニケーションがいらないものになりたい、という私の心からの叫びを聞かれた。で、謝られた。
謝ってくれたからにはきっと希望通りに転生させてくれると思ったのだが、そうもいかなかったらしい。大変不本意だが、また私は次も人として生きていかなければならないことになった。何度思い出してもこのやりとりはムカムカする。
ただ、神様が最大限こちらの要求を聞いてくれたのは不幸中の幸いだ。
・できる限り人と関わらないですむ場所
・神様側の希望で長生きしてほしいらしいので、簡単には死なない能力
・没頭できる趣味
これらの条件を全て満たしたのが、今の住処だ。
依織の想像の中にある砂漠よりも、白色が強い一面の砂。白色が強いのは塩分が強いせい、らしい。その塩に浸食された、今にも消えそうな小さなオアシスのほとり。それが、今の私の住処である。過酷な砂漠故に、人通りはほぼゼロ! まさに理想的な環境と言える。
ペットとしてソルトスライム(塩に浸食されたしょっぱい水から塩抜きをしてくれる有り難い存在)が一匹。一応、神様から錬金術もオプションとして貰ったので、自分で塩抜きも出来る。ソルトスライムと二人三脚で小さなオアシスを維持し、ちょっとの真水でぐんぐん育った椰子の木やサボテンに恵みを貰う。動物性タンパク質は砂漠蛇とか砂漠サソリで補って、ごく稀に現れる盗賊を神様に貰った能力でぶっ飛ばした。
家の裏にはちょっとした畑があって、そこで野菜の他に綿がとれた。その綿で織物を作ることに没頭した。神様から織機もプレゼントされていたので、それで様々な布を織る毎日だ。コツコツ糸から布を織る生活は正に私の理想のスローライフ。誰かと関わることなく、自分の思いつきで様々な布を織る。織った布はやる気があれば服に加工したが、正直砂漠の暮らしではどんなに凝った服も汗で台無しになってしまう。最初の頃は朧気な現代の記憶を頼りに色々チャレンジしてみたが、今は専ら布作りに夢中だ。染めてみたり、綿以外のもの、例えばサボテンの繊維で織ってみたりなど。ちなみにサボテンの繊維で織るとちょっと厚い紙が出来た。神様のオプションに紙はなかったのでなかなか嬉しい産物だ。
この素晴らしきスローライフの最大の問題は砂漠で唐突に起こるという砂嵐だ。
だが、神様からのプレゼントである書物に書いてあった、風の流れを変える石だかを作り(これ大変だった。一月くらい作業した)、うまい具合に配置。少なくとも今は砂嵐の直撃にはあっていない。ニアミスはしたけど。ニアミスでも死ぬ思いをしたので、これは早めに作っておいて正解だった。
そんな感じで、時折ならず者は訪れるけれども、会話が必要な人には関わらず、ひっそりと生きていた。長生きしてほしいという神様の要望で、昼夜の寒暖差が大きい砂漠に住んでいても大分頑健である。あと、サソリや蛇を食べることに忌避感がないのも大きい。前世なら考えられなかった。
が、そんな私の穏やかな日常に大変な障害が現れたのが、本日のことだ。
以上、回想終わり。
「すまない、死のオアシスに住む魔女とは…あなたのことだろうか」
目の前にはお揃いの服装をした野郎の集団。砂や日光を避けるためのマントにヴェール。その下にちらっと見えたのは、やっぱりお揃いの鎧のようなもの。白っぽい素材に金で縁取りしてるとか絶対高価なヤツだ。
普段現れる略奪を前提にしたならず者は、大概バラバラな服装に日光での火傷を避けるためのボロマントというスタイルが主流だ。なので、見た目で簡単に略奪者だとわかる。そして、略奪を働こうとした瞬間に鉄拳制裁を加えていた。
だが、こうやって礼を尽くされてしまうといきなり殺しにかかるのも難しい。あと、お揃いの服装は妙に高級そうな布で出来ているため、なんか手をだしたら後が怖そうだ。
とりあえず私と話をしたいのならヴェール越しでもわかるそのキラキラしい顔面をしまってほしい。
(特に真正面にいる隊長っぽい人の斜め後ろのヤツ!
群を抜いて顔面が眩しい。あんただけでも後ろを向いてくれ!
いや皆キラキラしくてヤだけど! 20~40代までのイケメン揃えましたみたいなのほんとやめて!)
切実にそう願うが、彼らには届かなかったようで未だにキラキラオーラの暴力を振るってくる。
イケメン、こわい。
イケメンは絶対に信じてはならない人種だ。こういうイケメンが私に話しかけるというのは、絶対に親切心からではないというのが定石なのだから。
まぁそうでなくても、私は上手く会話ができない人種ですけれども。
「…あ…えと…あの…」
緊張で引きつる喉からどうにか絞りでたのはそれだけ。もう無理。マジ帰って。
誰かこの状況から助けて!!!
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