(短編作品) 空っぽ
今日はやけに天気がよかった。見えるものがどれも綺麗に見える朝だった。そんな朝を迎えても実は今日、空っぽだなんて思ってもなかった。
「たく……」
なんだよと、言う前に太陽の光が目に入って、眩しすぎて目を開けられなかったと同時に言葉も出なくなった。
「たく、なんだよ」
もう一度言い直してみてみた。今日は仕事もなければ、何も無い一日だ。彼女もいなければお金もないし、遊びにいく友達もいない。
思いっきり、ため息をついて辺りをみわたして、いつもの通り棚からコンビ二で買った食パンを、トースターに投げ込んだ。
残念なのことに家にはテレビはない、携帯でも広げてワンセグを使っていつもテレビを見ている。
無機質にニュースでも見てみることにした。小さな機械から聞こえてくる声を聞きながら、パンが焼きあがるのを待った。
ついでに新聞はとっていない。上京してきて極力お金を使わない生活をしていると、食えで節約が身についてしまった。
実家から送られてくる、暖かなものをいつも部屋の片隅に置いてみつめてみたりする。
実家を出て何年になるだろうか、ちょっとしたささいなことで、家を飛び出して上京して……
大学も出て就職もして、もう両親と喧嘩したの忘れたぐらいどうにでもなっている。電話で謝ってことが済んでいるが、未だにあるのを拒んでいた。
なぜ、拒んでいるか分からなかった。見せる顔がないだろうからか、それとも、まだどこかで両親を許せない心でもあるのだろうか。
さっぱりだ。何を考えてもらちが空かなかった。
家に帰りたいと、ふと感じた。カーテンを開けて、体に光を浴びて、目の前に見える無機質なビルがつならる草原を目にした。気温は汗が止まらないほど熱いけど、ここの風景は殺風景で冷たく感じられた。
夢を求めて、上京した。でも、想像していたのとは大きくかけ離れていて、だいぶ空っぽな現実を目にしてきた。
トースターが音を鳴らして、パンが焼きあがったのを教えてくれた。
焦げ目の着いたパンを手にとって、また空っぽな音と風景を目にして、パンを口に運んだ。
ため息をついてみた。一体何をしているのかと思った。毎日、同じことの繰り返しで、何を目標で生きているのか分からなくなった。
学生のときは夢を持っていた。でも就職して、その夢は影も形もなかったように消えていった。まるで、知らない間になくなった水溜りのように。今まであんなに、水が溜まっていたのに、次の日になってその場所に行ってみると水が上がっていたのかと……
今日は仕事がない。というよりは、夢もない、そういえば、昨日仕事はなくなったのだ。
これから、どうするかを考えるよりは、今はどうやって生きるかということが問題になっているのに、夢のことを思うなんてばかばかしく思えてきた。
でも、もう動く気もうせてきた。実家に帰りたいのは誰かいにすがりたいというのも理由になるかもしれない。
実家に帰ったところで、一体何があるのかと思ってきた。家にいるのは家族だけで、それ以外には何もない。あって再会を分かち合うだけで、きっと終わりになる。仕事がなくなったといえば、厳格な父が仕事を探せというだろう。それでまた喧嘩になれば……
そう思うと、帰りたくても帰れなくなってしまうし。残高をみても、実家に帰る余裕なんて一つもなかった。
これはきっと悪い夢なのかもしれない。昨日何をしたかはっきりと覚えていない。きっと、ニュースとドラマの見すぎで今は、妄想の中でもがいているのだいるのだろうと、ふと思った。
でも、頭の中をかき回していろいろと思い出してみると、
「あしたから、お前は来なくていい」
と言った、上司の顔ははっきりと覚えている。
これはきっと悪い夢なんだ。そういいきかせて、横になった。
でも、夢にしてはあまりにも現実すぎた。
バルコニーに身を乗り出して、下の風景を見下ろした。
そして、そこで意識は途絶えた。
…………
「ええ、ここが昨日あった。飛び降り自殺の現場です。ここから飛び降りたと思われる、会社員は別に問題もなく、上司からの信頼もあつく勤勉な社員だったらしく、この会社員の両親も「一回も、喧嘩はしたことがないのに何で、あの優しいあの子が」と涙を流して息子の死を悔やんでいたそうです。以上今日のニュースを終わります」
そう、朝日に照らされて、音を漏らす空っぽの携帯電話が寂しく食べ掛けのパンと共にテーブルの上に置かれてあった。
The end.