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Phase.14 涼花の推理①

 気がつけば、これであっと言う間に一時間だ。

「さて、では問題を少し整理しましょう。ミステリは、大きく分けて三つ、と言うところです」

 九王沢さんはメモに箇条書きで、次のことをメモした。


 ①レシピはどのようにして盗まれたのか。


「まずこれが、第一の疑問です。さっきも話したように、カイリーチがオフィスを訪れたのは、たった一回、そしてレシピが空白になっているのを発見されたのがその日の夕方、なのですから、当然レシピはこの間に盗まれたと考えていいと思います」

 と、九王沢さんは、ダニエルさんの話を聞きながら、自分で作ったタイムテーブルを見せてくれた。

 これによると、ダニエルさんのオフィスに本が到着したのが午前十一時過ぎとあり、カイリーチがオフィスに訪問した時間を、午後一時前後としている。

 そう言えばこのとき、ダニエルさんは、カイリーチとともに『スウィンムーアのチキンスープ』のページを確認している。

 となると普通に考えてこの午後一時の訪問から、ダニエルさんがページが空白になっているのを発見した午後四時過ぎまでが、【犯行時間】と考えるのが妥当と言える。

 問題はカイリーチがその間に何をしたのか、と言うことだが、九王沢さんが言うようにトリックを仕掛けるのならば、チャンスはオフィスを訪れた一回しかないと言うことだ。

「もちろん、帰ったあとにオフィスに忍び込んだ、と言うことも考えられなくはありません。ただその場合、ダニエルさんとカイリーチの直接面会に必然性がなくなります」

 いわゆる、面が割れると言うやつだ。オフィスに忍び込んで何らかの仕掛けをするならば、出来ればダニエルさんに顔を知られていないに越したことはない。あえてリスクを犯して、カイリーチがダニエルさんにわざわざ会いに行ったのは、それなりの理由があってしかるべきだ、と九王沢さんは言いたいようだ。

 僕はそこで口を挟んだ。

「でも、ダニエルさんがカイリーチから目を離したのは、ほんの二、三分なんですよ?例えばその間に本を開いて、あらかじめ用意してきた空白のページと差し替えるようなトリックを使ったとしても、時間と手間が掛かり過ぎませんか?」

「その時間では、恐らく不可能でしょう。そして後で時間を掛けて行ったとしても、鑑定を通過することは、出来ません。ダニエルさんが言っていたように、例えば十七世紀の紙を用意して張り替えたとしても、必ず接合痕(せつごうあと)は残ります」

 弁護士を呼んで起訴まで考えていたダニエルさんのことだ、そこは抜かりなく調べたに違いない、と九王沢さんは言う。

「じゃ、じゃあ!本は元々二冊あった、と言うのは、どうでしょう!?ダニエルさんのは、『チキンスープ』のレシピが載ってますが、もう片っぽのは空白のページがある欠陥品なんです。カイリーチはその本を持ってて。後で忍び込んでくると、丸々それを取り換えた…」

「お…」

 それは意外なトリックだ。眉根を寄せて考えていた涼花だが、ようやく検討するに足る意見が出て来たみたいだ。

「それではカイリーチは丸々、空白のページがある欠陥品を作って、すり替えた、と言うことですか?」

「そう、ダニエルさんの手もとに残ったのは、真っ白なページがある真っ赤なニセモノだったわけです!」

 びしっと、ポーズまで決めて涼花は言ったが、九王沢さんはにべもない。

「その可能性は薄いと思います。ダニエルさんは高額の骨董品を買ったんです。ページを差し替えた以上に、贋作とすり替えられた可能性は、厳密に検討したでしょう」

 年代物の骨董品の鑑定には、ほとんどと言っていいくらい科学鑑定を用いると言う。それを使えば紙であろうとインクであろうと、作られた年代が分かってしまう。どれほど精密なコピー品であろうとも、科学鑑定をパスするケースは、中々ないだろう、と九王沢さんは言うのだ。

「それでも、すべて同世紀、すなわち四百年以上前の材料を用意して作成する手もありますが、それほどの手間とコストをかける理由が果たして、あるかどうかです」

「うう…それは…」

 涼花もこれ以上は、思いつかないようだった。

 確かにそれなら単純に買取りをかけるなり、直接的に盗み出したりした方が、よほどてっとり早い。そもそもいちからほとんど同じ本を作ってすり替えるなんてとんでもないコストと手間である。よっぽどの理由がない限りは、その可能性は有り得ない。





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