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Phase.10 魔女レシピの料理店オーナー

 なんといきなり、ダニエルさん本人が登場だ。僕はあわてて店のモバイルを引っ張ってきた。スカイプのアカウントを開くと、すぐに連絡がやってくる。

『やあ、君がマサ(親父の愛称だ)の息子か。会えて嬉しいよ』

 ダニエルさんは面差しの優しい、アイルランド系の白人だった。若く見えるが、四十代前半だろう。細身長身ながら筋肉質と言う、スマートな体格だ。

 髪はコーンブロンド。額にかからないほどに短く切って、後ろに流している。(ひげ)を生やしたら似合いそうな風貌だが、自分も厨房に立つので清潔感に気を遣っているのだろう。九王沢さんの通訳によると知り合いの店のパーティから帰って来たばかりらしく、黒いスーツに高価そうなブルーのシャツの襟元をくつろげている。

「突然、真夜中に申し訳ありません。ご協力を感謝します」

 僕に代わって、九王沢さんが流暢(りゅうちょう)な英語で応じた。英国から来た九王沢さんは、由緒正しいキングス・イングリッシュだ。

『そう固くならなくてもいいよ。マサがちゃんと、その話を憶えててくれたのが嬉しくてね。お店の宣伝になるかと思ったけど、SNSで拡散するには、ちょっと込み入ってる話だから。日本から反響があるなんて初めてだし、嬉しい限りだ』

 そこで僕は、はたと気がついた。いやあな予感が。

「…あの、みくるさんは取材をしてないのか、って聞いてみてもらってもいいですか?」

 九王沢さんが僕の質問を英訳すると、ダニエルさんはふるふる首を振った。

『いや、日本から問い合わせが来たのは、君たちが初めてだよ』

「取材、してないみたいですね…」

 僕たちは開いた口が塞がらなかった。今にも編集の林原さんが来ると言うのに。なーにやってんだあのクソ漫画家!

『何でも聞いてよ。あ、そう言えば日本のコミックスの取材だって、マサからは聞いたんだけど…』

「ドラマになります!わたし、出演するんです!」

 涼花が言うと、ダニエルさんは目を丸くした。

『ええっ、本当に!?君がかい?』

「はい!もし良かったら、観て下さい!ネット配信もしてますから!」

 涼花は猛アピールだ。日本のテレビ局の名前とネット配信のコミックスの話をしたが、アメリカ人のダニエルさんにどれほど通じるか。

『それはすごいね。日本の漫画(マンガ)やアニメは、僕も好きでよく見るよ。中には本を集めてて、日本まで買いに行くスタッフもいるしねえ』

 効果てきめんだった。ダニエルさんはもう、何でも話しそうな顔だ。恐るべし日本のオタク文化の浸透力。

「では、話を本題に戻させて下さい。あなたが魔女にレシピを盗まれたのは、いつ頃のことだったんですか?」

『昨年の今頃だよ』

 ダニエルはにこやかに答えた。

『僕は、五番街に今のお店の開店準備をしていた。…元々ボストンで、ボストンクラブ(名物カニの料理だ)を出す店を出していたんだけど、ついにNYCにお店が出せることになってね。こっちでは、僕がやりたかったアイルランドの家庭料理のお店をやろうと思ったんだ。それでオルバニーにある魔女の家を移築するために、建物丸ごと買い取った』

「この古い館のことですね?」

 九王沢さんが見せた画像を見て、ダニエルは頷いた。僕たちは英文で気づかなかったが、九王沢さんの方はこの魔女の家が解体され、ダニエルさんのNYCのお店の住所に移築されていた、と言うことにとっくに気づいていたようだ。

『そう、オルバニーに由緒正しい物件があると聞いてね。何でも聞いたら魔女の家だって言うじゃないか。しかも近くに住んでいるオーナーさんがその末裔(まつえい)で、長年そこで飲食店をされていたと言うんだよ』

 オーナーは八十歳を越えるお婆さんで、フィオナさんと言った。ダニエルさんと話すと意気投合して、代々自分の家に伝わる『レシピ』を譲ろうと言い出てくれたのだそうな。

「え、本当の話ですか?だって、五百万円…」

 涼花が、絶句するのも分かる。何しろあれだけの高額のついた稀覯本だ。しかしフィオナさんは建物の解体費を持ってくれるなら、気前よくそれも譲ってくれる、と言うから破格の話だ。





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