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後編

長くなったので、前後編にしました。

これは前編に入れとけだよね。


トン


後ろから押されて斜め前にいた女性にぶつかってしまいました。


「ごめんなさい」

「いえいえ。凄い人混みだものね」


私が慌てて謝ったら、ぶつかった女性は振り返って笑ってそう言ってくれました。が、私の事を見て目をパチパチとした後、私の手を取り「こっち」と誘導してきました。


人混みから外れて屋台の裏側のほうに連れていかれたのです。


「ちょっとここで待っていて」


彼女はそう言って離れると、屋台の一つに近づいていきました。そしてすぐに戻ってきて「はい。使って」

と、ティッシュをボックスごと渡してくれました。


「えーと?」

「涙・・・拭いてよ」


言われるまで自分が泣いていることに気がつきませんでした。彼女はティッシュを3~4枚取ると私に渡してくれました。それを目に当てたら、私は堪えきれずに嗚咽まで出てきてしまいました。



ひとしきり泣いて気持ちが落ち着いた私に、ペットボトルのお茶を差し出しながら彼女が訊いてきました。


「えーとね、お節介かもしれないけど、何があったのか話して見ない? 溜め込むのは良くないっていうし、ね」


おどけた様にいう女性にポツリポツリと最近の私の気持ちを話しました。彼女は要領を得ない話につき合ってくれて、話し終わったらこう言ってくれました。


「そうか~。不安に思っていたところに、嫉妬するような行為をされちゃあねえ~。でも、これは男が悪い! 男の人も結婚を前提とした告白しているんだから、もっとフォローをちゃんとしないとさ~」

「でも、彼は私の事を大事にしてくれています」

「うん、それはわかるよ。でも、聖子さんを不安にさせる時点で、彼氏失格じゃん」

「そうでしょうか」

「それにね、聖子さんも、もう少し我儘を言っていいと思うな~、私」


彼女、結城和花菜ゆうきわかなさんはそう言ってニッコリと笑いました。


「だからさ、会ったら甘えちゃいなさいよ。なんだったら、今夜は帰りたくないと言ってみるとかさ」

「か、帰りたくない~・・・そんなこと、言えません」


私は真っ赤な顔でそう言ったら、和花菜さんは軽く眉を寄せた顔をしました。


「・・・これじゃあ、彼氏も手が出せないわけだわ」


と納得したように、和花菜さんは頷いています。そして思い出したように言葉を続けたの。


「ところで、その彼とはどこで待ち合わせをしているの?」

「会場についたら連絡をくださいと言ってありますけど・・・」


そう言って携帯を取り出してみたら、彼からまた何回か着信が入っていました。マナーモードにしていたから気がつかなかったようです。


「大変。気がつかなかったなんて」


慌てて電話をしようとしたら、和花菜さんに止められました。


「その前にお化粧を直そうか」


言われて見れば、先程泣いたので、お化粧が崩れていることでしょう。和花菜さんに案内をされてトイレに行きました。トイレはかなり混んでいました。なんとか、お化粧を直して外に出ました。


「じゃあ、連絡をしてね」


携帯を取り出して主任に掛けました。1コールですぐに出てくれました。


『上条さん、どこにいるんだ』

「すみません、わた「ちょっと失礼しまーす。聖子さんは、私、結城和花菜と一緒にいますので、ご安心ください。・・・というかさ、彼女を不安がらせんなよ。文句があるならフランクフルトを売っている屋台まで来な」


話し初めてすぐに和花菜さんに私の携帯を取り上げてられてしまいました。和花菜さんは主任と話し、言いたいことを言うと切ってしまったのよ。


「何をするの、和花菜さん」

「えー、ちょっとした嫌がらせよ。というわけで、うちの店に行きましょう」


また、和花菜さんに連れられて移動です。かなり薄暗くなった中をあまり灯りのない屋台の後ろ側を通っていきました。


和花菜さんに最初に連れてこられた屋台の裏側に辿り着きました。若菜さんは屋台の店主に挨拶をしてくると言って離れたので、私は困った気持ちのまま、屋台の向こうの人混みを見つめていたの。


「あれ~、こんなところでどうしたのかな~」


すぐ後ろから男の人の声がして、ビクリと振り返りました。男の人が3人立っていました。


「もしかして友達に振られたのかな」

「よかったら一緒に祭りを楽しまないかい」


男の人達はにこりと笑ってそう言いました。


「あの、すみませんが待ち合わせの約束をしていまして」


そう答えた時に和花菜さんが戻ってきました。


「ごめんね~。って、あんたたち、なんか用なの」

「なんだ~、待ち合わせって女の子じゃん。同性同士じゃつまんないでしょ。一緒に行こうよ」


男の1人が私の腕を掴んできました。


「ちょっと、聖子さんの手を放しなさいよ」


和花菜さんがそう言って、私の腕を掴んでいる男に詰め寄ろうとしたら、彼女も他の男に腕を掴まれてしまいました。


「いいじゃん。そうだ、この後のさ、花火がよく見える穴場があるんだよ。教えてやるから一緒に行こう」

「嫌です。放してください」

「そうよ。放せよ。一緒になんか行くもんか」


私と和花菜さんは男達から逃れようと、掴まれていない方の手で相手の手を外そうとしましたが、力の差なのか全然外れてくれません。


「おいおい、傷つくな~。ちょっと一緒に花火を見ようって誘ってるだけじゃん」

「そうだよ。ねえ、君もさ、そんなに警戒しなくてもいいじゃん。ちょっと楽しむだけだって」


和花菜さんの腕を掴む男がそう言ったら、答えるように低い男の声が聞こえてきました。


「ほお~、俺の和花菜と何を楽しむ気かな?」

碧生あおい! 遅いよ」

「私の聖子から手を放して貰おうか」


和花菜さんが嬉しそうに声を掛けた相手の後ろから、菱沼主任も現れたのです。私はこんな時なのに、主任の姿に見惚れてしまいました。主任も浴衣姿だったのですもの。


「ほら、さっさと手を放せよ」


碧生と呼ばれた彼が、和花菜さんの腕を掴む男の手を捻じりあげました。主任も私のそばに来ると同じように男の手を捻じりあげました。


「いてえな。放せよ。なんだよ、ちょっと声をかけただけだろう。そばにいないお前らが悪いだろうがよ」


腕を捻じりあげられている男達が喚いています。そう言えばもう一人いたはずと辺りを見回すと、何かを手に持った男が浴衣姿の男性に抑えられているのが目に入ってきました。


「道具を使うなんていけないなー」


浴衣の男性は楽しそうな声をあげました。少し離れたところにいた小柄な女性が私達のそばに来ました。


「あの、お二方とも、怪我はありませんか?」

「ええ。大丈夫です」

「私も。・・・えーと、あの人はあなたの彼氏なの」


小柄な女性は男を取り押さえている男性に視線を向けたまま、熱に浮かされたような声を出しました。


「そうなの。私の好きな人なの」


しばらくすると祭りの警備員が来ました。その人達に3人を引き渡し、事情説明をするために本部に向かうことになりました。結局男3人は厳重注意だけで開放されましたけど・・・。


本部を出て改めてお礼を言ったら、和花菜さんに耳打ちをされました。


「ほら、素直に甘えなさいね」


男の人達も挨拶を終えて、私はなぜか主任に手を繋がれました。



皆さんと別れた勢いのままに、会場を出てタクシーに乗り、気がついたら菱沼主任の部屋にいました。ソファーに座らされて、いつの間に買ったのか、お好み焼きにたこ焼き、焼きそば、焼きトウモロコシ、リンゴ飴、フランクフルトとホットドック、ポテトフライなどがテーブルの上に並んでいました。


割りばしとビールを渡されて、しばらくは黙って食事をしました。聞きたいことはいろいろあったのですが、菱沼主任の雰囲気が怖くて話しかけることが出来ませんでした。


あまり食欲もないまま箸を置いたら、いきなり主任に手を掴まれました。


「どういうつもりで携帯に出なかったんだ」


主任の怒り口調に、私も先ほどのことを思い出して、ムッと言い返しました。


「主任こそ、私と会うよりも他の女性を優先させたくせに」

「なんのことだ。話しを聞かずに電話を切ったのは聖子のほうだろう」

「しらばっくれないでください。電話口から女性の声が聞こえてきたんですから」

「だからなんだ。話しを聞かずに電話を切る方が悪いだろう」

「だから、私より他の女性と会う方が大切なんですよね」


主任は私を睨むように見ていましたが、これでは話が進まないと思ったのか、私の手を掴んでいない方の手で眉間を軽く揉みました。


「君は、俺が君より他の女性と会うことを優先させたと思っているのか」

「ええ、そうよ。親しそうに話していたから・・・私・・・」


思い出したら、涙が込み上げてきました。私の目が潤んだことに、主任はもっと眉根を寄せたと思ったらギュッと抱きしめてきました。そのまま唇に主任の唇が触れて、目を閉じた私の顔中にキスが降ってきました。優しい啄ばむようなキスにくすぐったさと嬉しさが込み上げてきました。キスの雨が止んで、私は主任に抱きしめられました。


「ごめん、聖子さん。不安にさせたのは俺なのに、連絡が取れなくて焦ったのを、怒りに転じるなんてさ。これじゃあ、支倉に言い訳出来ないな」

「支倉さん? ・・・さっき聞こえてきた声の・・・」


主任の言葉にポツリと呟きました。


「あっ、ああ。聞こえていたんだよな。あいつの声はでかいからな」


その言葉にまた涙が溢れてきました。途端に主任はオロオロしだしました。


「えーと、聖子さん?」

「主任は支倉さんとよりを戻したいのではないのですか?」

「はっ?」

「主任と支倉さんは恋人同士だったのですよね」

「へっ?」

「支倉さんは離婚されたのだからもう二人を遮る障害は何もないのですよね」


私の言葉に一瞬動きを止めた主任は、ガシガシと乱暴に頭を掻くと言いました。


「なんで、そんな勘違いしてんだよ」

「噂で聞きました」


主任は私の脇の下に手を入れると、ヒョイっと抱き上げて自分の膝の上に横座りにしました。驚いて主任の顔を見つめる私と、目を合わせながら主任は言いました。


「あのな、支倉が旧姓に戻したのは、家の事情で支倉の家に入ることになったんだよ。だから離婚したんじゃなくて、夫ごと養子に入ったんだぞ」


主任の言葉に目を見開いて主任のことを見つめました。


「それにな、支倉の夫は俺の中学からの悪友で、その関係で支倉ともよく話をしてたんだよ。どちらかというと、あいつらの愚痴の聞き役だったけどな」


・・・つまり親友の彼女で、入社前からの知り合いだったから、よく話をしていたと・・・。


「夕方の電話は俺が悪かった。支倉に今日の祭りに行くことを話したら、俺にも浴衣を着ろと言いだしたんだ。あいつの親戚に呉服屋がいて、レンタルもできるからって急に言い出したんだよ。だから、待たせるのは悪いと思ったけど、一緒に選んで欲しかったんだ」


・・・えーと、1時間待って欲しいというのは、場所の移動と浴衣を選んで着替える時間の事だったと・・・。


「電話を切られた後、繋がらなくなって、そのことを支倉に言ったら、ちゃんと理由を先に話さない俺が悪いと言われたよ。早くしろと急かしたのはあいつなのにな」

「・・・ごめんなさい」


理由がわかれば、勝手に疑って嫉妬した、私の1人相撲だったということでした。小さな声で謝ったら、主任が軽く唇を触れ合わせてきました。チュッというリップ音つきですぐに離れましたけど・・・。


「いや、俺の方も悪かったから。・・・だけど嬉しかった。嫉妬してくれたんだよな」

「・・・いつもしてます。主任はかっこいいですから、仕事とはいえ他の女性と話しているのを見ると、気が気じゃありません」


そう言ったらまた主任にキスをされました。それだけではなくて私の身体を支えている主任の手が動いて、浴衣の脇、身八ツ口の辺りに手が触れてきます。唇が離れたところで私はパニック気味に、必死に言葉を紡ぎ出そうとしました。


「あ、あの、主任。その、手、手が」

「ん? ああ、ごめんな。先に謝っておくよ。これだけ密着したら我慢できなくなった」


身八ツ口から侵入した手が、素肌を触る感触にビクリと体を震わせながら、言葉を続けます。


「が、我慢って・・・それに口調が・・・」

「あー、今までは自戒の意味を込めて触れないように気を付けていたんだよ。あと、この喋り方は地だよ。いつもは仕事仕様だったんだ」


主任が触れているところから、甘い痺れが広がっていきます。


「んっ・・・主、主任は・・・ああっ・・・」

「あと、それな。聖子はつき合いだしてからも主任呼びだろ。せめて主任と言わなくなるまでは、何もしないでおこうと思ったんだけどな」


シレッとそんなことを言う主任を、私は涙目で睨みつけました。じゃあ、今までの私の気持ちは何だったの。


「聖子、逆効果だよ、その目は。誘っているようにしか見えない」

「そ、そんな、こと・・・してない・・・クッ・・・」

「うん、判ってる。だけどいろいろ限界だったし、その身に俺の愛を刻み込むのもいいかなと思うんだ」


そう言って、主任は私を抱き上げて歩きだしました。寝室に連れていかれてベッドに下ろされた私は、主任を見上げて言いました。


「お、お手柔らかにお願いします。主任」


私に覆い被さろうとした主任が動きを止めました。


「ここで、それかよ。・・・あと、忠隆。名前を呼ばなかったら、手加減しないぞ」


獰猛な光を宿した瞳を見つめ返しながら、私は主任の首に抱きつくように腕をまわして言いました。


「はい、忠隆さん。・・・愛しています」


私の言葉に一瞬動きを止めた彼は、噛みつくようなキスをしてきたのでした。



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