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山田家は裏社会?  作者: 佐藤真矢
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1-7 勇さんの家は優しい人ばかり

「......ていうことがあったの……」


休日の割には早い朝ご飯の食卓を囲んでいたのは、マリーさんと未来と雪丸と縁ちゃん、そして自分の5人だった。


冷夏は生徒会の仕事で春休みなのに学校に、楓さんはまだ寝ていて、おっさんはいつも通りどこにいるのかわからない。


今日の朝ごはんは自分の好きな、よくある家庭料理であるご飯と味噌汁と焼き魚。しかも、縁ちゃんの手作りなので余計に美味しいのです。


それは、自分の妹贔屓を差し置いても美味しく、何故なら縁ちゃんは料理が熟練の主婦並みに上手なのだ。本来なら山田家の家事は当番制で、一週間で担当が交代するのだが、何故か縁ちゃんは料理当番だけは誰にも譲らない。


まぁ、一番美味しく作れるから誰も取ろうとは思ってないけどね。


雪丸も料理がかなり上手くて、一時は張り合っていたが、縁ちゃんには敵わないらしく、今は大人しく美味しそうに食べている。


「久しぶりに、間違え、られた......」


「もう、いいんじゃないでしょうか。その話は、忘れて欲しいのに......」


赤面しているマリーさん。


未来が先程廊下での出来事を無表情で淡々と話していた。それを聞いていた縁ちゃんはニンマリと笑い、雪丸はクスクスと上品に笑っていた。自分はというと、多分縁ちゃんと同じ表情をしていたと思う。


「それで、その前に、勇の股間にライ○ーキックをした......」


「ブッ! み、未来さーん、その話は食卓でする話じゃないですよね?」


急に自分の恥ずかしい話に変わり、思わず吹き出してしまった自分。


「あら、ダメですわよ、そんなことしては」


いつもは、こういった悪ふざけに便乗する雪丸が意外にも自分の味方になってくれようとしている。


「わたくしとの子供を産めなくなりますわ」


違う。やはり便乗か。


「作らねぇよ!! 未来より食卓で話すような内容から逸脱しないでくれ」


「そうですわね……最近はアレが機能しなくても子供を作ることができるらしいですし」


「そうじゃないから!」


雪丸のやつ昨日がなかったかのようにケロッとしやがって、でも昨日のことをからかうと絶対に殺される......黙っておこう。


「兄さん、うるさいですよ」


軽く咳払いをして、自分だけに注意をする縁ちゃん、はやっぱり可愛い。


「でもぉ、縁ちゃん。雪丸がおかしなこと言うからさぁ」


いかん、縁ちゃん相手だと思わずデレデレになってしまいまする。


「うるさかったのは兄さんだけです。でも、雪丸さんもあまり兄さんをからかい過ぎないで下さいね。鬱陶しくなっちゃいますから」


そう言いながら魚の身を箸でつまみ、口に運ぶ縁ちゃん。


「酷いっ! 鬱陶しいなんてお兄ちゃん泣いちゃうよ〜。でも、そこもまた可愛いぞ♡」


ウィンクを縁ちゃんに向けたが、まるで蝿をあしらうかのように、空いていた左手を振り回してた。


「ふふっ」


自分たちのやり取りを見てなのか、マリーさんはこの家に来てから、いやそれ以前に出会ってから初めて笑顔になっていた。


今までは心の距離があったせいか、そういう一面を見せる気配がなかったが、それを見た自分は少し安堵していた。いや、別に笑わないからって、どうしようもなかったけどね。


でも、そのマリーさんの笑顔は確かに綺麗で、思わず見惚れてしまっていた。


あと理由はわからないが、縁ちゃんだけは本当に心の底から安堵していたのか、マリーさんの笑顔につられて心の底から微笑んでいた。


しかし、マリーさんは自分自身が笑っていることに気が付いた途端に素に戻ったのだ。


「どうしたの?」


かなり気になってしまったのか、縁ちゃんは心配そうに尋ねた。


「い、いえ、大丈夫です......はい」


明らかに何かありそうなマリーさんだが、誰もそのことを触れずに食事の続けた。だが、そんな空気を雪丸は敢えて読まずに、恐らくマリーさんが一番に気にしていることを笑顔で質問した。


「マリーさんはこの後どうしますの?」


自分たちは何も言わずにご飯を食べた。


マリーさんはその質問に、少し目を伏せていた。


「......ここまでお世話に申し訳ないのですが、行く宛ができるまでここに居させてくれないでしょうか?」


マリーさんは深々と頭を下げた。


頭を下げる前にマリーさんの表情を見たが、碧眼と紅眼を少し潤わせていた。


「えっと......」


そんなマリーさんに流石に縁ちゃんは気にかけ声を掛けようとした。


「縁ちゃん」


そんな優しい縁ちゃんを自分は制して、マリーさんの言葉の続きを聞くことを促した。


ここまで住人を増やした山田家は、なにも施設や慈善団体に加入しているわけではない。


なので、自分たちは優しさで居候を増やしているわけではない。自分たちから招き入れるなんて以ての外だ。厳しい話だが、現実はそこまで甘くない。


「家事なら何でもします! 出て行けと言われたら出て行きます! 数日だけでいいのでここに住まわせて貰えないでしょうかっ!」


マリーさんは肩を震わせていた。しかし、決して感情任せに泣くことはなく、下唇を軽く噛みながら堪えていた。


その姿を見た雪丸は少しハニカミ、相変わらずいい笑顔で言った。


「家事を何でもされてしまうと、わたくしの華麗なる家事スキルを、お兄様に見てもらえなくなりますわ」


「安心しろ、自分は縁ちゃんの料理姿と盆栽を見るのに忙しいから、代わってもらったらいいじゃないか」


「兄さん、流石に気持ち悪いです」


「ガーン!」


「......うまい」


すぐにいつも通りのやり取りに戻った自分達に、マリーさんは予想外の展開だったのか、不安と戸惑いを露わにしていた。


「えっと〜、つまり、どういう......」


「さぁ、わたくしは分かりませんわ。ここの家主二人に聞いてください」


それを聞いたマリーさんは神妙な面持ちで自分と縁ちゃんの様子を伺った。


「私は大黒柱に任せるよ」


そう言った縁ちゃんは、既に分かりきった答えを聞くために、ジッと自分を見ていた。


こういう時に大黒柱を使うとは、卑怯なっ。普段は自分を家内カーストのワースト2のように扱うのに。でも、可愛いから許す!


ちなみに、家内カーストのワースト1はおっさんである。


マリーさんは目線を完全に自分へと固定して、まるで捨てられた子犬のように見つめてきた。こちらもかなり卑怯ですね。


「......行く宛が見つかるまで居たいんだろ? 好きにしたらいい、と思う」


照れ臭いので口籠ってしまった。やめろ、お前ら。そんな目で自分を見るな!


「それはつまり......居てもいいってこと、ですか?」


既に半泣きになっているマリーさんの言葉に黙って頷いた。すると、いろいろな感情から出てきたのは、今まで我慢していた涙だった。


「あれ?何故でしょうか、泣くつもりは全くなかったのに、勝手に......」


その様子を自分と縁ちゃん、雪丸は静かに見ていた。


マリーさんの流した涙はこの家に来るまでに抑制していた不安や恐怖、寂しさなどのいろんな気持ちから出たのだろう。自分には到底、察することができない気持ちを一人で抱えてきたのだ、衣食住が整えられただけで感極まってしまうことも無理はない。


「......ありがとうございます」


泣いている姿を見られて恥ずかしくなってしまったのか、顔を見られまいと伏せながら感謝の言葉を告げてくれた。


すると、今まで黙っていた未来が言葉を発した。


「......おかわり......あれ? 何で泣いてるの?」


流石、ベストオブマイペース賞の未来さんだ。ご飯と一緒に空気というものも食べていたらしい。

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