1-5 勇さんは妹に処されたそうです
俺の名前は紅瑠栖 雷炎。人々からは「獄炎の滅竜護」と呼ばれている。今は両手の包帯で、能力を封印しているが、来るべき龍神人の戦いの刻は、右手の「黒龍の咆哮」と、左手の……。
「聖なる炎が暴れ出すぜ」
「やめろーーーーーーー!!!!!」
自分はバッと体を起こし、全身冷や汗を掻きながら目を覚ました。
とてつもない、悪夢を見た気がする。龍や神々し物体と戦わされた夢だ。しかも、その単語の一つ一つが全部聞いたことのある設定だったような……。
側に置いていたスマホで時間の確認をしたところ、まだ朝の7時24分だった。休日なのに、こんな時間に起きるとは...
それに、昨日は3時ぐらいまでお説教をくらっていたのに、まさか悪い夢で目が覚めるとはな……
自分が悪い夢のせいで荒くなった息遣いで頭をを抑えていると、ベットの横で椅子に座りながら何やら本を朗読している人がいた。短い髪の毛を綺麗に揃えて、大切に付けているダイヤとハートのヘアピン。身体の発育は平均的だが、総合的に見たらその容姿はまるで女神の生まれ変わりのように美しかった。そう、
「すごいですね、この本。かれこれ30分は読んでいるのにまだ、10ページの途中までしか到達してませんよ。それにところどころ、漢字の読み方がおかしくて読むのに疲れてしまいます。感心しますよ、兄さん」
女神の生まれ変わりこと、自分の妹の縁だ。
「おはよう、縁ちゃん……」
「おはようございます、兄さん。ちょうどよかったです。この漢字だけルビが振られていなくて、霧骨神ってなんて読むのかな?♡」
縁ちゃんは、上目遣いで可愛らしく聞いてきた。
「それはね、オールノームって読むん、って、そうじゃないでしょ!!」
なんて危険なんだこの妹様は、危うく自ら黒歴史を掘り返すところだった。
くそぅ、目が覚めたのは夢のせいではなく縁ちゃんの悪戯か。
「なんでこんなことするんだ? 自分が何をしたんだ?」
「……とぼけますね兄さん。兄さんがそれをするには無理があるのでは? どうやら、まだ反省してないようですね……まだ、ノートの半分には達してないので待っててくださいね」
「すみません、覚えてますから許してください」
自分は速攻で深々とベットから降りて誠心誠意の土下座をした。
まさか、昨日の電話の時の罰を本当に執行してくるとは……いや、絶対してくるとは思っていたよ。だけど、まさか朝の7時からしてくるとはな……。
昨日はあの後1時間ぐらい、正座で縁ちゃんに各々知られたくない秘密を暴露されていたのだ。自分たちは1時間の正座は慣れているが(よく縁ちゃんにやらされているから)、外国人であるマリーさんにはかなり効いていたらしく、終わってからしばらく生まれたての小鹿のように足をプルプルさせていた。初対面にも関係なく罰を与えるとは、さすが縁ちゃんだ。
だが、マリーさん以上に一番ダメージをくらったのは、今回のそもそもの原因を作った雪丸だった。雪丸がこの時間から自分を買い物に行かせなかったら、こんなことにはなっていなかったということで、雪丸さんは常日頃から身長の成長記録を取っては、一喜一憂しているらしいことと、しかも、1年前から1cmしか伸びていないということがわかった。
その後の雪丸は羞恥で力がなくなり、部屋へトボトボ帰っていったことは想像に難くないだろう。
……それにしても、どうやってそれほどの情報を手に入れているんだ?
「はぁ、高校生の土下座をみると呆れちゃいますね」
「率直に言いすぎて、心が痛い……」
顔をあげて、縁ちゃんの表情を見ると確かに残念な兄を見る目をしていた。その目を見ると自分も情けなくなってくる。
「分かりました。その土下座と、私の喉の疲労に免じてこのぐらいにしてあげます」
絶対に後者が理由の割合が高いはずだ。
縁ちゃんはそう言うと、ノートを閉じて立ち上がりドアのほうに向かった。
「朝ごはん、作ってますから早く降りてきてくださいね」
それだけ言い残して自分の部屋を出た。
「ふぅ…助かった……」
解放されたことに安堵し、自分も土下座を解き寝間着から部屋着に着替えることにした。
「そういえば、30分前からここにいたってことは、朝ごはんはもっと前からか……本当に女神だな」
縁ちゃんも昨日は自分たちへの罰を執行してあまり寝てないというのに。
自分は妹の偉大さに心打たれながら、ふとあることが気になった。
そういえば、マリーさんって結局どうなったのだろうか……。
昨日は、縁ちゃんがマリーさんを放置するとまた問題になりそうだからと、縁ちゃんの部屋に泊めることにしたんだよな。まだ、朝早いし、縁ちゃんもこんな時間から起こしはしないから寝てるのだろうか……まぁ、どっちでもいいかな。