1-3 彼は被告人です
時刻は夜中の1時48分。山田家のリビングでは第86回山田家緊急会議。が開かていた。
それは、山田家の住人で何か重大な要件が発生した場合、個人の判断では下せないようなことを多数決で決める会議のことである。最近だと冷蔵庫内にある人のもの(シュークリームとか、シュークリームとか)を勝手に食べないようにすることを話し合った。
この会議の発生条件は、参加人数が住人の過半数を超えた場合に開くことが許されるのだ。なので、現在山田家には居候を含め7人いるので、この場合4人集まれば会議が成立するのだ。
この制度は、居候たちという問題児のために用意したものだが、何故か自分が議題になることが多い。
そして、今回も自分が原因で会議が開かれた。
メンバーは当事者の自分と発見者の雪丸、それと絵にかいたようなお姉さん図を、そのまま現実に出したような長くふわっとした茶髪で、綺麗な顔立ちと、全体的に発育がいい身体で、泣き黒子が妖艶さを醸し出す「松前 楓」。それと、飄々とした雰囲気で、無精髭とぼさぼさな髪をした自称23歳のおっさんこと「金剛 照義」。
「……以上、4人とプラス1で話し合いましょう……ね、お兄様?」
自分の対面に座っている雪丸は顔は笑っていてもまだ、大変機嫌が悪そうだ。
「は、はい……」
突然の出来事にまだ混乱中の金髪っ子は、ただ言われるがままテーブルの周りの椅子の一つにちょこんと座っていた。
そこに、自分の斜め前に座っていた楓さんがそのとなりに座っている金髪っ子をじっくりと観察していた。
「この子がユキちゃんが言っていた子かしら? なるほど、確かに美少女だわね。ゆう君が襲うのも無理ないわ」
楓さんはニヤけながら、観察しながら金髪っ子の髪の毛を指先で弄って、フフフと冗談を放った。それはどうやら雪丸をさらに不機嫌にしていた。
「いや、襲ってねぇよ……むしろ、違う意味で襲われていたというか」
「違う意味ってどういう意味なんだい、勇ちゃんよ。もしかして、あれか? 大人の階段を上っちまったのか? くぅーー、隅におけねぇな! 言ってくれたら俺がバレないように協力してやったのによぉ」
「そっちと違う意味だってことだよ!」
今度は自分の隣に座っているおっさんが、おっさんじみたことを言いだした。こいつ、完全に飲んでるな。夜中に何やってるんだか。
「金剛さーん。酔ってるとはいえ、何を仰ってるのですかぁ?」
肯定するようなことを言ったおっさんに雪丸は鋭い目線で刺し、一瞬で素に戻した。
「おっと、冗談だ。本気にしないでおくれよ」
「うふふふ、当然ですよぉ。本気だったらどうしようかと思いました」
「あ、あぁ、悪かったよ……一体何を見られたんだ? めちゃくちゃ怒ってるじゃん」
おっさんは素直に謝罪してから、隣にいる自分に小さな声で問いかけてきた。
何を見られたって、そこでただただ楓さんに髪を弄られている金髪っ子が、スタンガンを持って襲い掛かろうとしてきたって言えばいいのか?......言えばいいのか!
「あのな、別に自分は......]
「皆さん夜遅く集まってもらい申し訳ございません」
自分の言い分は虚しく空へ消え、雪丸は会議を始めることを宣言した。
「山田家緊急会議を開きます」
「緊急会議ねぇー、勇ちゃん今回で何回目だっけか?」
「86回目だ」
「そっかそっか、もう結構してるんだねぇ。前回は確かシュークリームだったか」
「あのシュークリームは美味しかったわよ。また私の分を買った来てくれないかしら、ゆうくん」
「別に、楓さんのために買ったんじゃねぇから!」
うぅ、古傷が。会議で人のものは食べないようにすることを決めたが、念のために次からは買ってきたらすぐ食べるようにするか隠しておこう、うん。
「自分のシュークリーム……」
「シュークリーム?」
やっと、金髪っ子が話の中に指先をかかるぐらいは頭の整理ができてきたらしい。
「そうそう、聞いてくれるかしら、えっーと……ゆうくん、この子なんて名前なの?」
楓さんは金髪っ子の名前を聞いてきた。
そういえば、この子のこと頭の中では金髪っ子と呼んでいたけど名前は聞いてないな。道中では妄想もとい家に着いたらどうするかを考えていたしな。
「ごめん、聞いてない」
苦笑いししながら言うと、
「名前も知らない子を家に連れ込んじゃったの? 驚きだわ。まさか、ゆうくんがそんなに性に飢えていたなんて、言ってくれればお姉さんが面倒見てあげたのに……」
「いやー、楓ちゃんには無理なんじゃない? だって、経験ないんでしょ?」
おっさんが苦笑いを浮かべながら言うと
「なっ! なにを言ってるのかしら……そういうの経験、ある、わよ……」
楓さんは途端に顔を真っ赤にしながら、余裕のありそうなどや顔で口籠っていた。
また、ノリでいったな、この人。楓さんは天然のお姉さんキャラだから、いつも経験豊富そうなことを何も考えずに言ってしまうのだ。そして、そのことを軽く指摘されるだけで顔を真っ赤にしてしまう。いつもの流れだ。
「昨日も男の人を数人相手したわよ」
「そういえば昨日、楓さんがナンパされてたの見ましたけど」
昨日は盆栽のための肥料を買いに行こうと駅前まで行くと、確かにナンパされている楓さんがいたにはいたが。
「ほらね」
満足げな顔をおっさんに向けた。
「でも、その時って顔を真っ赤にして慌てふためいてましたよね」
「ほほう、慌てふためく、ね」
次は逆におっさんがほくそ笑み、楓さんはまた顔を真っ赤にした。
「あ、あまりにも情けないナンパの手口で、呆れを通り越して怒っていたのよ……」
「ニヤニヤ、楓ちゃんがそういうことにしたいならそういうことにしてあげるわいな」
「そうね、そうしときなさい。というよりも、問題はこの子の名前でしょ?……なんでこんな話になったのよ……」
話しを変えるため楓さんは無理やり話題を元に戻した。
確かにこれから、一晩だけでも泊めるかもしれないので名前を聞いてても損はないだろう。
「えっと、名前を聞いてもいいかな? 無理にとは言わないけど」
自分が話しかけると金髪っ子は睨んできた。恐らく、まだ玄関のことを根に持っているのだろう。
「まぁまぁ、そう睨まないであげて。何をされたかわからないけど、ゆうくんは奥手の童貞だからそこだけは安心してもいいわよ」
楓さんは自分への誤解を解くために言っているつもりなのだが一言余計だし、しかも、逆に金髪っ子が引いてるじゃないか。
「だから、ねっ? 名前を教えてくれると助かるなー」
楓さんが優しい声のトーンで名前を聞くと、少しだけ黙り込む。
「……マリー、マリー・バレンヌ。フランス出身」
そして、金髪っ子もといマリーさんは恥ずかしそうに自己紹介をした。