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山田家は裏社会?  作者: 佐藤真矢
16/19

1-14 未来さんは演技派?

昼食を食べ終えてしばらく経った後、自分は玄関でマリーと一緒に靴を履いていた。


「準備できたかな?」


「オッケー、大丈夫よ」


マリーさんはキチンと部屋着から外着に着替えていた。部屋着は全体的に黒くて、ゴスロリチックな服装だったけど、今は至って普通で、白いワンピースに青色のカーディガンを着ていたので、印象が大きく変わっていた。


「そんな服も持っていたんだね」


「この服? 私的には少し微妙なんだけどね」


そう言うとお気に入りのポーズなのか、また右手を右目に添え、左手で右肘を支え始めた。このポーズのことをこれからはマリポーズと呼ぼう。


「クククッ、日中は奴らの支配下。このように一般人に紛れておけば奴らの監視の目から逃れることができるのだ」


「はいはい」


自分は軽く聞き流しながら、家にいるであろう縁ちゃんと未来に向けて「行ってきます」と伝えた。


「貴様は家の中でも凡俗を演じているとは、流石は紅瑠須だな。やはり、貴様h...」


「マリー?」


自分は雪丸張りのダークin笑顔を見せながら、マリーの言葉の続きを防いだ。


「あ、あぁ、分かっているわ。来るべき時が来るまで、優は真の姿に戻れないんだっけ」


そういう話になっているのだ。


黒歴史をそこら中で言われては叶わない。なので、マリーの好きな()()を伝えてあげたのだ。


「そうだ。だからその来るべき時までは、自分の正体については触れないこと」


「フフッ、承知した」


「じゃあ、行くよ」


自分はドアを開けて外に出た。それにマリーは「行ってきます」と言いながらついてきたのだった。


山田家の休日の昼食過ぎは、基本的には各自で一人でいることが多い。それは意図してそういう風にしているわけではなく、集団生活が続くと、一人になる時間が自然と必要になってくるのだ。


山田家の住人にも勿論友達はいるし(約1名の屋根裏の引き篭もり以外)、外を散歩したい人もいる。1人で趣味を没頭したり、様々な休日の過ごし方をしている。


本日もそれは例外ではなく、楓さんとおっさんと雪丸は外出で家にはいなくて、未来はいつも通り屋根裏で何かをしている。縁ちゃんは間違いなくお兄ちゃんのことを考えているし、いつも通りの平和な日常だ。


自分も本来なら今日は縁ちゃんのことを考えながらゆっくりしたり、サボテンちゃん達のお世話をしたりで予定が埋まっていたのだが、本日の昼食時にそれは潰れてしまったのだ。


事の発端は、皆が昼食を食べ終わりそうな頃に、未来が言い出した事だった。


「......勇」


自分が一足先に昼食を食べ終え、食器をシンクに運ぼうとした時、ボーッとしている未来がボーッとしたまま呼びかけてきた。


「なんだ未来。おかわりを装いで欲しいのか? だが、残念ながら今日はオムライスだから、おかわりは......」


「今日って、暇?」


未来が自分の予定を聞いてくるなんて珍しいな。普段なら自分が忙しくても、勝手に絡んでくるはずなのにな。いや、これは未来だけのことではないけど...


自分は少し間を置いて答えた。


「......暇じゃないよ」


普段どおりではない未来に対して、警戒心むき出しになりながら未来の表情を見ていた。


自分が何故警戒しているかというと、この家では、何かしら迷惑な企みを考える人物が主に2人いるのだ。


1人は笑顔で人をこき使う雪丸。正直に言うと、その企みの大半は雪丸が占めている。基本的に表情は笑顔しかしないため、企みを見破るのは難しいかもしれないが、頻度が頻度なので、慣れてきたら大体考えている事が分かってくる。


それでも、大半は断わる事ができないのです。嘘泣きだとわかっているのに...くっ!


しかし、そんな雪丸なんて比にならない厄介な相手がいる。それが今まさに話している未来だ。


「え、暇じゃないの?」


未来は微かに意外そうな表情をした後、心なしか落ち込んでいるように見えた。しかし、それでも殆ど表情に出ていない。


その表情を見て少し心が痛くなったが、相手は未来だ。もし何か仕組んでくるなら、これぐらいの演技はジャブ程度でしかない。


自分は未来の表情を細かく観察し続けながら言った。


「あ、あぁ...集人と遊ぶ約束しているだよ」


勿論これは自分の嘘だ。本当は約束なんてしていないが、こう言わないと面倒なことをさせられそうな予感が、今までの経験上から囁かれている。


自分は()()()()相手に嘘をつくという大胆なことを、直球でする馬鹿ではない。この嘘にはデメリットがあり、後に本当に遊びに行かないといけないのだ。そうしないと100%の嘘なんて、未来が見逃すわけがないのだ。


さらば、自分の安寧なる休日。それ以上に起こる面倒なイベントを逃れるためだ...


「集人って、この前家に遊びに来た男の子かい?」


オムライスを食べ終えたおっさんは、爪楊枝で歯の手入れしていた。


「そうだよ。その集人」


「あの坊主か、おっさんイケメンアレルギーだから、あの子は苦手なんよね」


と言いながら、本当に苦々しそうな顔をしていた。


「あら、素直で可愛い子だから私は好きよ。ゆう君の次に弟にしたい子だったわ」


「向こうはむしろ楓さんのことが苦手だと、自分は楓さんが傷つくので、心の内に秘めることにした」


「あれれ〜、何故だか心の声が聞こえて来た気がするわねぇ」


自分がうっかり出た言葉に、傷つきながらブロンドの茶髪を弄る楓さん。


「ゆう君があの子を紹介してくれたのに...」


「なっ! 事実を勝手に捻じ曲げないでください! 紹介するつもりなんて微塵もなかったのに、むしろ部屋に大人しく居てくださいって伝えたのに」


その先は言わずにしても分かる通り、自分の言いつけなど簡単に破ってきたのだ。


「まぁまぁ、全員楽しそうにしてたから良かったじゃないの」


おっさんは自分の不満を抑えるようにしながらも、また事実を捻じ曲げた事を言った。


「楽しかったのはおっさん達だけだから。集人の表情忘れたの?」


「あぁ、確かに驚いていたよな。なんでなんだろ」


「......さぁね」


自分は察しの悪いおっさんに呆れながら、適当に返事した。


そりゃあ、幼馴染の家が知らぬ間に大世帯になっているんだ。しかも、只の大世帯ではなく個性の塊が集っているんだ。驚くのも無理はないでしょ。


まぁでも、その話は次の機会に話すとして、


「だからさ、今から遊ぶために出かける準備しないといけないんだ。何か用があるなら、ごめんだけど今日h...」


「あれ?」


自分が無理やり話を変えて、早くリビングを出るために畳みかけようとした。だが、意図しない方向から天使の声が聞こえた。それは神からの恩恵の具現化と言われてもおかしくはない少女である縁ちゃんからだった。


その縁ちゃんは不思議そうに首を傾げていて、気を許したらダメな場面なのに、不覚にもキュンッとしてしまった。


「でもめぐさんから聞いた話だと、今日は集人さんは家族で外出してるって聞きましたけど」


「!」


自分は窮地に立ち、走馬灯のように春休み前の教室で、集人と恵と一緒に話してる内容を思い出したのだった。


確かに集人は春休みのうちに家族で『デンジャーランド』に行くと言っていたが、それがまさか今日なんて...こんな事なら日付まできちんと聞けば良かった!


「あの泥棒羊ですか...」


おっさんに続き、次は雪丸が苦々しい雰囲気を醸し出していた。表情は相変わらず笑顔のままで。


「なに? お前まで自分の幼馴染が苦手なの?」


「いえ、わたくしに苦手な相手はいませんわ。わたくしはこの通り博愛主義なのですよ、そもそもわたくしの人類に対しての好感度は平均以上なのに、苦手な相手なんて存在しませんわ」


この通りって、本当に外見だけだけどね。


「人類規模って、笑顔のままでそれを言い張るのは大したものだよ。良かったじゃんマリー、雪丸から好かれてるって」


自分は敢えてそこにツッコミを入れずに、マリーに流した。


「別に雪丸に好かれても嬉しくないんだから」


ツンデレのテンプレートのようなセリフなのに、マリーはそれを淡々と感情がこもっていない口調で言っていた。マリーの雪丸に対しての好感度は平均ラインが見えないほど低いらしい。


その態度を見た雪丸は更に満面の笑みで、


「お兄様は失礼ですわね。わたくしが小学生相手に嫌いになんてなりませんわ」


今朝の喧嘩が無かったかのような言葉を発していた。


そして、その言葉は当然マリーの耳に届いており、眉間に皺を寄せていた。


「その小学生ってあなた自身のことかしら。それぐらい身長が小さいと、中学生って嘘をつくのは大変そうね」


「あらら? 小学生相手と言ってますのに、それが私自身を指すなんて、日本語がまだ習得されていない様子ですわね。それとも小学生だから間違えたのかしら。どちらにしても、言葉を間違えてまちゅわよ」


マリーの反撃に雪丸も負けじと返していた。あと、雪丸が心なしかいつもより不機嫌な気がしたのだ。


「そうかしら? 私の体格を見て小学生と主張するぐらいだから、逆に言葉を間違えたのかと思っていたわ」


「最近の小学生で、あなたみたいな身長は珍しくありませんわ。あなたみたいなお胸も珍しくありませんが」


「......」


フゥー! マリーさんがキレてらっしゃいますっ!


その後、両者は机を挟んでお互いを睨み合っていた。今にも今朝の第2ラウンドが始まる雰囲気だったが、縁ちゃんが雪丸に目を配りながら咳払いすると、雪丸は不服ながらも大人しく食事の続きを始めた。


「わかっていますわ、お姉様。......ですが、()()()()()()を考えると言わずにはいられないですわ......」


雪丸は最後の方に、誰にも聞こえないぐらいの声で不満をこぼしていた。


「え、この後って何があるの?」


しかし、自分はそれを聴き漏らさなかった。自分は鈍感系主人公ではないし、しかも、この話を続ければ未来の話から外れることができる。


「勇......」


だがそうは問屋が卸さない。未来はかなり落ち込んだように自分の名前を呟いていた。しかも、未来にしては珍しく目に涙を蓄えいた。


「ぐっ......」


自分はその姿を見て更に心が抉られてしまった。しかも、周りにいる全員が自分に対して最低男を見るような目で見てくるのだ。


「兄さん、最低ですね。用件も聞かないで逃げようとするなんて」


「ぐはっ!」


縁ちゃんからのトドメの一撃を喰らってしまい、その場で膝をついて項垂れてしまった。


今回は本当に重要なことだったのか? それとも単に軽い頼みごとだったのか? もしそうだとしたら確かに自分は最低な男だ...勝手に不確かな自分のセンサーを信じて、聞く耳を持たなかったなんて


「......いいんだ。日頃の行いのせいだよ......ごめんね、勇...」


そして、普段見せることがない笑顔を、作ってまで自分に見せてきた。


「ぐはっ!」「あんッ!」


自分はトドメを超えた一撃で心が折れてしまった。そして、何故か楓さんまでもが、未来の笑顔を見て幸せそうに倒れていた。


「......わかったっ、今回は自分が完全悪かった。ごめん! ()()()()()()()()許してほしい」


「......なんでも?」


その瞬間背筋がゾクッとした。


未来は先程の豊かなの表情から一転して、いつも通りの無表情に戻っていた。しかし、一箇所だけ...口元だけは緩んでいた。


「......なっ!」


その不気味な笑みに自分は慌ててしまい、自分の置かれた立場を理解するために少しだけだが、()()()()()()考えてしまった。


周りの全員の表情と、今までの会話の流れと、この後に控えている山田家の恒例行事を引っ括めて考えると......


「なっ! 嵌められた!!!!!」


いつの頃だっけ、未来に教えてもらったことがあった。それは、




「......人をコントロールするためには、冷静な判断をさせないこと」




そう言いながら未来は何もなかったかのように、縁ちゃんから渡された賄賂(特盛オムライス)を頬張っていた。


こうして自分は、自分とマリー以外の皆がグルとなり自分を嵌めて、マリーと2人で外出させられることになったのだった。側から見ると紛れもないデートだろう。


あと、雪丸は終始不機嫌になっていたが、それについては原因が不明だったという。


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