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山田家は裏社会?  作者: 佐藤真矢
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1-13 勇たちの会話

マリーに多大なる攻撃を受けてから1時間半が経つ頃、自分は2階のおっさんの部屋で愚痴をこぼしていた。


部屋での出来事を全部おっさんに伝えていたのだ。


「...ていうことなんだよ」


「それは災難よな」


「全くだ。本当に酷い目にあったよ」


マリーにMPを減らす呪文を放たれ、生きる気力がなくなる状態異常にかかり、立ち直る頃には既に時計の針は12時を回っていた。


「でも、お前さん。そのおかげで妹ちゃんからの手作りのお菓子を貰えたんだろ?」


「あぁ、うん。起きたら部屋の前に包装されたチョコクッキーが置いてあったよ。でも、自分はあれほどの苦痛を与えられたんだ。あれで許すと思って貰ったら困るよ」


今思い出していい味だった。縁ちゃんの謝罪の気持ちを表したチョコクッキーは焼き立てでサクッとしており、バターの香りを残しつつ、チョコチップとココアパウダーの甘さが際立つようなバランスを取れた絶品のクッキーだった。あれ以上の物を食べたことがないよ......あれ?何故、自分は怒っていたのだろう。


「...優、顔が...緩んで気持ち悪い......」


「優ちゃんの機嫌が治って何よりだ」


思い出しただけで、ムカムカが消えていった自分。


その魔法のお菓子を作った縁ちゃんはというと、一階のリビングで昼食を作っている。それを張り合いながら、お手伝いをする雪丸とマリーと、それを楽しみながら眺めている楓さん。


自分も出来ればその場にいて、縁ちゃんのエプロン姿を拝みたかったところだけど。いかんせん、マリーさんと会うとまた呪文を放たれるかもしれないという恐怖で「逃げる」を選んできた。


「...今日はオムライス...」


自分の右側に、色素が薄くふわっとした髪の毛を自分の腕に付けて、もたれながらゲームをしていた未来が、リビングからの香ばしい匂いを嗅ぎ分けて昼食を予想していた。


「この距離で匂いを嗅ぎ付けるとは、流石未来だな」


「えへへ〜」


未来は少しだけ満足そうな表情を見せ、足をバタつかせていた。


「それにしてもオムライスかぁ」


「どうしたんだい? 優ちゃんオムライス好きなんじゃないっけ?」


「うん、まぁ大好きだね。かなり好きだよ」


自分は少し遠い目をして、幼い頃のことを軽くだけど思い出していた。


「そっか、オムライスっていったら、蓮子さんの得意料理だったよな」


「そうだよ、母さんの一番の得意料理だったと思う。かなり美味くて、でも量がね...」


「蓮子さんは加減を知らないからな。ご飯でも格闘技でもね」


「はは、確かにね」


山田蓮子は自分と縁の母親であり、格闘技界では伝説と言われている『無敗の女王』である。


その通り名のように、母さんは女子は勿論、男子にも格闘で負けたことがない。母さん自身は空手家だけどボクシングや柔道、合気道のような素手の闘いはおろか、剣道やフェンシングのように武器を持っている相手でも勝ち続けている。


しかも、漫画のような話だけど、母さんは人間相手だと物足りないらしく、熊やライオンと組手をしていたという噂が流れている。これに関しては、世間では噂程度にしかなっていないが、残念ながら自分と縁ちゃんは幼い頃にその現場を目撃してしまっている。


こういった武勇伝を数々と持っている母さんのことを、その当時は純粋に2人で憧れの対象として見ていた。しかし、成長するにつれてあの頃のことを考えると、ただの無茶苦茶な人で、憧れる気持ちはどこかへ消えていっていた。


加減を知らない母親。


「すごい人だったね......」


自分が母さんのことを思い出していると、不意におっさんが棚から将棋盤を取り出していることに気がついた。


「おっさん、何やってるの?」


「ん? いやぁ、おっさんはしんみりとした話苦手だからさぁ」


「苦手って、母さんの話を始めたのはおっさんからでしょ?」


自分がジト目でおっさんを見続けていると、おっさんは苦笑いしながら将棋盤を広げていた。


「いやぁ〜、悪い悪い! オムライスと聞いたらついつい思い出しちゃったわけよ。それより、一局どうだい?」


「いきなりだねぇ。いや、いいんだけどさぁ。ごめん未来、ちょっと将棋するから移動するね」


「...ん」


自分は未来が退いてくれたので、おっさんが駒を並べている将棋盤前に座り込んだ。そして、未来もそれに付いてくるように自分が座ると、また自分の側面にもたれ掛かってきた。


「未来さーん、今から将棋するのですが...」


「わかってる...右側、空いてる......」


と、未来は先程とは逆の左腕に根を張るなり、再びゲームを始めていた。


利き腕の右手を動かせるように気を使ったわけだな。気の使い方が少しおかしいような気がするけどね。


「さいですか」


どれだけ言おうと、動きそうにもない未来に折れて、仕方がないのでこのまますることにした。


「未来ちゃんは本当に優ちゃんがお気に入りのようね」


自分たちのやり取りを見ていたおっさんは「カッカッカ」と笑いながら、駒を並べ続けていた。


「特に何もした覚えがないんだけどね」


「それはお前さんが天然タラシという生物だからでしょ」


「なんだよ、その生物」


「哺乳類ヒト科の天然タラシ」


悪戯っぽく笑うおっさんに呆れながら、将棋の駒を右手だけで並べるのを手伝った。


「それでおっさん、ハンデは?」


「あるわけないでしょうが。最近の戦績をお忘れのようでおっさんはムカっと来ちゃったよ、全く」


「いやでも、まだ一週間しかやったことないんだけど...」


自分が将棋を始めたのは、4月に入る前のことだったので初心者といってと過言ではない。のだが、


「......初日の対局を抜いて、7勝8敗で、優が負けている......」


「よく覚えているね」


「昨日負けた時なんておっさん、ショックでずっと将棋の指南書読んでいたんだぜ」


おっさんは机の上に置いてあった『乱菊流将棋指南書』という本を指差して言った。


「本気だね」


僕はおっさんの密かな努力に、大人気なさを感じながら、駒を1つ取り盤面に振った。


「金剛、大丈夫...優が異常なだけ......」


「未来ちゃんありがとね!」


「やめろ! 人を変な人みたいに言うな! 自分はどっからどう見ても普通の人なんだ!」


危うく2人に変人認定されそうになるのに危機感を覚え、今回のゲームに手を抜こうか考えていると、


「あ、そういえば今回のゲームは罰ゲームありだかんね」


「はぁ!聞いてないんだけど!」


「ありゃ、言ってなかったっけか?」


「...初耳」


おっさんは白々しく惚けていた。


「まぁまぁ、万が一にも手加減されないためにもね」


自分はその言葉を聞いて罰ゲームの真意を理解した。詰まる所は、自分の考えを先読みされて、手を抜くことを封じたんだ。


自分は悔しそうにおっさんを睨むと、それを受けたおっさんは薄ら笑いを浮かべていた。


「......はぁ、分かった。条件を飲むよ」


おっさんのガチ勝負の心意気に負けて、提案を受け入れることにした。


自分の了承を聞いた未来は途端にゲームをやめて、自分から離れておっさんの方についた。


「未来さん?なぜそちら側に移動を?」


そしてまた未来までもが軽い薄ら笑いを浮かべていた。


「優の...罰ゲーム、見たい」


「なっ!!言っとくけど未来、口出し禁止だからね!」


「そんなルール、聞いてない...」


卑怯な! 男同士の勝負に口出しするなんて、それでも未来は男なのか...やっぱり女なのか?


「おっさんからも言ってやってよ!」


おっさんなら男同士のルールを分かっているはず。未来に注意してくれるはずだ!


「おっさん、なんのことか分からないな? 仮に未来ちゃんが助言してもおっさんは聞かなかったことするよん」


「それ実際聞こえてるから!」


流石におっさんと未来にタッグを組まれた将棋なんて勝てる見込みがないんだけど。策略ではおっさんに、心理戦では未来に勝てるわけないでしょ!


「こんな勝負無効だよ!」


斯くなる上はと、自分はこの勝負自体無かったことにしようとした。しかし、相手は未来だ。


「優、勝負を受けた...男に二言は、ないよね?......普通なら」


未来は無表情で淡々と自分の気持ちを煽ってきた。特に最後の『普通なら』のところ強調するあたりが未来らしい。


将棋をして罰ゲームを受けるか、ここで逃げて普通から逸脱する......いや、もう1つある!


自分が葛藤の末出た結論は、


「勝負に勝って、罰ゲームを回避だ! 」


「...そうこなくっちゃ」


「楽しくなってきたねぇ」


悪戯っ子みたいな笑みを浮かべる未来と、面白そうに見ているおっさんにギャフンと言わせてやる!


ーーーーそしてその30分後、自分は黒歴史の一部をリビングにいる縁ちゃん達に聞こえるぐらいに、大きな声で叫んだのだった。


これからは軽い気持ちで了承しないようにすることを誓った自分でした。

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