第四話 暇は人を殺せるか
(おおー。結構緑化できてきたなー)
周囲を見やる。所々に大樹の枝に作ることのできる果実を落とし、翌日になるとその場所に草木が生えている。生える草木は常に一定の物が生えるわけではなく、何が生えてくるかは基本的にランダムなようだ。
ただ、事前に林檎や桃の木を生やしたいと思ったり、逆に蔓植物のみにしたい、高山植物だけ、野菜を作りたいなど、何を作りたいかを思考しながら果実を作ることにより、何が生えてくるかの制御ができることがわかった。もっともあくまで傾向に影響があると言うくらいで完全に望んだとおりになるわけではないみたいだが。現状ではランダム発生で十分なので、何かしたいことでもない限りは特に何も考えず果実を作るとだけ考えて果実を作り落としている。
その結果がこの光景だ。白のキャンパスに上から絵具をぽつぽつ垂らして一部が円状に緑化しているような状態。それぞれの緑化されている円が被っているところもあれば、被っておらず単純に円形なだけのところとかもある。つまり適当に投げた結果、一帯の緑化運動みたいな感じではなく適当に緑化された状態になったと言うことだ。まあ適当にやっていればそうなるのは当然だろう。
(もうちょっと考えてやればよかったな。こう、斑っていうか、適当な感じはちょっとなー)
別にそこまでダメとは言わないが、自分でやっていることなのでこう、きちんとしたいと思う所はある。適当にやるのではなく端から順番にやっていく方が好きだし。でも、それはそれで困るか? 果実を作れるのは一日三つ。三つ投げればそれで終わり。一日ごとに順番にやっていくわけだが、そうすると端の方が先に育って後にやる部分が育たなくなる。それはそれで何か気持ち悪い感じだし。
考えるのは、三角形型。中心から広げていく感じだ。もしくは等間隔に順々って言うのもありか。全部を緑一色にする必然性はないから、間をあけて斜めに配置して順々に、とか。
(まあ、そういったことはもうちょっとうまく投げれるようになってから考えるか……)
根本的な問題として、果実を投げることに問題があった。そもそも果実を投げる手法が不明だ。枝をこう、しならせて投げるとか、手とかの掴むものがあってそれで投げるとか、穴から射出するとかではなく、果実を枝の先に作りその果実をぐるんと操作して投げているようだ。わかりにくいが、つまり動くのは果実のみでその果実を動かせるのは俺の意志、ただしその果実の動きは精密な操作ができるわけではなく、かなり感覚的なものになる。滅茶苦茶大雑把な手法になっているのでどうしてもある程度の方向、ある程度の距離に飛ばすことは出来ても正確に同じ位置や狙った場所に飛ばすことはできない。
また風の問題もある。枝のある位置はこの自分の体となっている大樹のかなり高い位置。そんな場所から投げれば風に流されて狙いよりもずれる。それではどれだけ頑張って狙ってもあまり意味はない。風に関しては感じることができないのでどの程度の風が吹いているか、どちらの方向に風が吹いているのかなどは正確な所はわからない。一応枝や葉っぱを見ればちょっとはわかるが、それでも完璧なものではない。なので正確にどこに投げるかを操作するのは不可能に近い。
(はあ……まあ、いいや。何度もやってみて、いずれ完璧にしてやる)
もっとも完璧になるころにはこの辺り一帯は完全に緑化されているだろう。緑化した後に果実を投げる必要はあるのかは大いに疑問だが、まあ適当にどこかに投げ込もう。生えてくる植物がランダムということは、まだこの辺りに生えていない植物も生えてくるのだろうし、もしかしたらレアな植物とかもあるかもしれない。何度も何度も投げて、この場所の植物多様性を高めるのだ。
(……もっと何か面白いことー)
何故そんなことを考えるのかというと、現状暇なのである。朝に枝になる果実を大地に落とし、仕事は終了する。あとはひたすらボーっとしているのみだ。暇である。暇に殺されそうである。もっとも暇だからってこの大樹の体が死ぬとは思えない。そもそも自分自身呼吸をしている意思は無いし、ただ生きているだけな感じがひたすらする。つまり大樹の体と自分の意思というものは完全に一致しているような感じではない。俺が死にたいと思っても死ねないので都合がいいと言えばいいのかもしれないが、それはそれで拷問じみた環境である。恐らくはこれはこの状況が憑依によるものであるからだと思うのだが。まあ憑依か転移か転生か、そんなのははっきりとしていないのでどうしようもないし調べようもないので今はどうでもいいこと……そう思うくらいしかできない。
(今はこの緑化でできた樹々や草花を見ていることしかできない…………)
せめてもの暇つぶしである。体に洞を作り出したりの操作をする以外では、視点を動かして周辺を見守るくらいの事しかできない。せめて聴覚くらいは欲しかった。触覚もあれば……いや、触覚はなくていいや。なんかこわいし。
(お?)
森に移した視点が何やら動くものを捉える。この辺りには植物しか存在しない。植物の中にもオジギソウとか、ダンシングフラワーとか動くものがあるのかもしれないが、少なくともこの森一帯にこうはっきりと動く草花の類は存在しなかったはず。その動くものに急いで視点を近づけると、それは鳥の姿をしていた。いや、姿云々の前に鳥だった。
(おおー! 動物いるんだなここ! 実は心配してたんだよな……もしかしたらここには動物がいないんじゃないのか、と思う時もあったし。でもこれで動物の存在が証明された……それならいろんな哺乳動物もいるだろうし、恐らく人間がいることに期待もできる。まあ、期待したところでむしろ俺が斬り倒される危険が高まっただけの気もするけどな!)
それでもやはり、生きて動くものの存在はありがたい。自分以外の何かがいると言うのはやはり嬉しい。果実から生えてきた植物がいるが、彼らは動くわけでもないし植物だから多分意思を持っているというわけでもない。そういう意味で何らかの意思が存在する動物の存在は嬉しい。
しかし、鳥か……山の向こうとか、この大地の向こうにはやはり生き物が普通に生きているんだろう。ならばこの死の大地とも言えた荒涼とした大地はなんだったんだろうな。やっぱりこの大樹の体が栄養や水分を根こそぎ持ってったんだろうか。だとしたらかなりの害悪だっただろうな……まあ今は自分の体なので、たとえそうだったとしても手を出さないでくださいと言わせてもらう。もしやってくるなら果実をぶつけてやる。朝だけ。
(森を広げて、動物を増やす……今は鳥が来たくらいだが、そのうち草食動物、それらを狙う肉食動物も増えるはず……そして豊穣の森となれば、人も来る。早く……できれば早く、来てほしい所だ。ああ、でもその前に緑の大地をちゃんと作らなきゃダメか?)
そういう未来への展望や、これからやるべきこと、将来への期待、どんな人間がいるのか、どんな動物がいるのか、どうやってくるか、どこから来るか、そんなことを考えて、今存在する暇を意識の外へと追いやる。そうしなければ、暇は意思を塗りつぶして精神を殺してしまいかねない。だから、その退屈をどうにかできるものよ、この場所に来てほしい。それが今の俺の願いである。




